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矢作勝義の「劇場オープンまでの長い道のり from 豊橋」Vol.4

12.08/13

連日の猛暑、皆様いかがお過ごしでしょうか。豊橋も暑い日が続いています。東京在住時は、自宅ではエアコンをほとんど使用しない生活をしていましたので、こちらでもエアコン無しで夏を乗り切ろうと考えていましたが、住居が建物の最上階だということを甘く考えていました。夜でも室温が30度を超える熱帯夜のような日が続き、とうとうエアコンの導入を決意してしまいました。

さて、そんな暑い日が続く中でも、劇場の建設は着々と進みます。現場の方々は本当にご苦労さまです。外壁のレンガも順調に積み上げられているようです。作業用の足場が組まれているため、全貌はまだ明らかになっていませんが、一部見える場所では、その存在感を醸し出しています。

写真は、新幹線豊橋駅のホームから見た建設現場です。特にレンガの部分が写っているものではありません。

8月はお盆休みもあり、その前までに様々な仕様を確定し、発注する必要もあり、細かい仕様をひとつひとつ確認しながら決定していく作業が続きます。内装の色味なども、それぞれの場所の目的と仕様にあわせて、デザイナーからの提案を確認し、確定していきます。特に劇場の色味は、一つの要素だけで決まるモノではなく、座席、客席床、舞台床、壁面、幕類などの色味と共に、照明がどのようにあたるのかにもよって見え方が変わってきます。全てを現物で確認できるわけではなく、サンプルなどをもとに、複合的な要素を勘案しながら決めていきます。具体的な例としては、施設内にある3つのバンド練習室に設置されるドラムセットの色を、それぞれ異なるモノに決めました。その色に合わせて、各室の腰壁(壁の下半分に板材等を張りめぐらせた壁)の色を設定するなど、少し遊び心を加えたりしています。また、諸室の窓回りの仕様も、カーテン、ロールカーテン、ブラインド、暗幕など、この窓にはどれを設置するのかということを一つずつ確認し決定していきます。こうした確認をしていく中で、その周辺設備の仕様を変更したほうが良いことが確認されたりもします。既に機器が発注されていたり、建築工事が進んでいたりすると変更もできないので、できる限り早く確認をする必要があります。しかし、図面や資料などを何度も何度も繰り返して見ているうちに、ようやく気がつくこともあり、なかなか理想通りには進まないこともあります。

ちょっと別な話をしたいと思います。7月に豊橋市立の芦原小学校に出向いて、美術のワークショップを実施しました。授業の枠は図工ですが。豊橋文化振興財団では、本年度、演劇、音楽、美術の各分野で小学校へ出向いてのワークショップを実施することが既に計画されていたので、私が担当して実施して準備していました。この美術ワークショプでは、イラストレーターのBoojilさんを講師にお招きして「似てない似顔絵ワークショップ」を実施しました。アシスタントとして、彼女がアトリエjiwaで一緒に活動している、すぎはらけいたろうさんにもお越しいただきました。

ちなみにBoojilさんは、世田谷パブリックシアターで先の3月に実施した“地域の物語ワークショップ”チラシのイラストや、生活工房で展示やワークショップを実施していたという縁がありお願いしました。また、アトリエjiwaは、9月2日までキャロットタワー3階の生活工房ギャラリーで『誰でもアーティスト!アトリエjiwaの「じわじわjiwa」展』を実施していますので、ご興味ある方はぜひのぞいてみてください。それで、小学校で実施したワークショップですが、元気いっぱいの豊橋の子どもたちに圧倒されながらも、こどもたちの個性が溢れた、とても素敵なワークショップになったと思います。

しかし、こうしたワークショップを通じて豊橋というか、現代社会の縮図が非常に良く見えてきた部分もありました。豊橋の小学校も多国籍化は進んでおり、ワークショップを実施した5年生2クラスのどちらにも、南米系などの2世や3世の子が何人かいました。ちなみに豊橋市は、ブラジルを初めとする南米系の外国人労働者が多く、2007年の5月の統計では約2万人の外国人登録者があり、これは人口比5%になるそうです。現在は経済事情などもあり減少しているようですが。さて、その子たちは日本語のコミュニケーションは問題なかったところを見ると、日本で生まれ育ったのだと思います。一つのクラスには、ガキ大将の男子がいて、ワークショップでペアになった女の子に意地悪をしていました。意識的にその子達の近くにいて、言葉を掛けていたのですが。それが、人種によるものかどうかは分かりません。しかし、もう一つのクラスは、どちらかというと女の子の方が元気が良く、ちょっと気弱さそうな日本人の男の子が、日本人と南米系の女の子達に圧倒されていました。人間関係というかコミュニケーションというものが、単純には割り切れないということを実感するとともに、だからこそ劇場が果たすことのできる役割は、どこにでもあるのだと思いました。

それで、この芦原小学校の校長先生という方が、もともと図工の先生で、とてもユニークな方でした。校長室の前に、よくあるような色々な賞状などを飾っていた場所を、そんなもの飾っていても面白くないからと言って、賞状を隅に追いやり、そこにパズルコーナーを作り、用意されている様々なレベルのパズルを規定時間内に完成するとポイントが貰え、ポイントを溜めるとシールなど子どもたちが欲しそうなモノが貰えるようにしたりして、子どもたちが集まってくるような仕掛けを作ったりしていました。それだけでなく、古代種の蚕であるヤママユガの天蚕(てんさん)を飼って繭になる姿を観察できるようにしていたりと、それ以外にも独創的な発想で様々な工夫を凝らしていました。
ちょっとピントが合っていませんが、天蚕の写真です。

また、こんなの見たことあるかいと言って、コウモリの赤ちゃんを見せてくれたりしました。

この芦原小学校の校長先生から、豊橋で1958年(昭和33年)から続いている『子ども造形パラダイス』のことを聞き、せっかく東京からプロのアーティストを呼ぶのなら、ここで何かできないかとご提案いただいたことが、今回のワークショップを実施するきっかけになりました。この『子ども造形パラダイス』は10月下旬に実施されるので、詳細はその時に紹介したいと思いますが、Boojilさん、すぎはらさんともに、過去の記録を見ても、ぜひともこれを生で見てみたい、そしてここに何らかの形で関わりたいと思っていただけるぐらいエネルギー溢れるものだと思います。私も、生で見たことがないのですが、話しを聞いたり、記録を見ただけで、その魅力を十分に感じることができるようなモノである事は確かです。

豊橋には、まだまだ魅力あるモノが隠れているようです。劇場のことだけではなく、今後とも豊橋の魅力を発見し、お伝えできればと思います。



■矢作 勝義(やはぎ・まさよし)■

1965年生まれ。東京都出身。公益財団法人豊橋文化振興財団『穂の国とよはし芸術劇場PLAT』事業制作チーフ。東京都立大学(現・首都大学東京)演劇部「劇団時計」から演劇に本格的に関わる。卒業後は、レコーディング・エンジニアを目指しレコーディングスタジオで働き始めるが、演劇部時代の仲間と劇団を旗揚げするため退職。劇団では主宰、演出、音響、制作、俳優を担当。ある忘年会で、当時世田谷パブリックシアター制作課長だった高萩宏氏(現東京芸術劇場副館長)に声を掛けられ、開館2年目にあたる1998年4月から広報担当として勤務。その後、貸館・提携公演などのカンパニー受入れや劇場・施設スケジュール管理を担当するとともに、いくつかの主催事業の制作を担当した。主な担当事業は、『シアタートラム・ネクストジェネレーション』、『リア王の悲劇』、『日本語を読む』、『往転-オウテン』など。また、技術部技術運営課に在籍したり、教育開発課の課長補佐を務めるなど、世田谷時代は劇場の何でも屋的な存在としても知られた。2012年3月末をもって世田谷を退職し、2013年5月オープン予定の“穂の国とよはし芸術劇場PLAT”の開館準備事務所にて事業制作チーフとして勤務中。


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