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植松侑子の「来なきゃ分からないことだらけ from ソウル」Vol.4

12.08/13

第15回 ソウル・フリンジフェスティバルのロゴ

あっという間に8月。ソウルはこれから秋に向けて、公演、フェスティバル、見本市等が次々に行われる舞台芸術シーズンに突入します!

日本で舞台芸術が特に盛り上がる季節を挙げるとすれば、9月~11月のいわゆる「芸術の秋」と、2月~3月の「会計年度末」の2回あると思いますが、韓国の場合は1月始まり/12月終わりの会計年度を採用しているため、芸術の秋と会計年度末が合体し9月~11月は舞台芸術関係者にとって、超多忙なシーズンになります。

秋の舞台芸術シーズンが日本と韓国ではほぼ同時期のため、これから日本で行われる様々なトリエンナーレ/フェスティバル/企画/公演に、韓国の関係者がなかなか足を運べないのは本当に残念なことです。(逆もまた然り。)逆にヨーロッパのフェスティバルシーズン(だいたい春~夏)のほうが、両国の関係者共に足を運びやすいというのは皮肉なものです。こんなに近い距離にあるのに、なかなか難しいものですね。

さて、今回はこれから秋に向けて次々に開幕するフェスティバルのうち、トップバッターとして8月15日から開幕する「ソウル・フリンジフェスティバル」をご紹介したいと思います。

「フリンジ」といえば、スコットランドの首都エディンバラで毎年開催されている「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」がオリジナルですが、今や世界中に広まり、現在では約70か国でフリンジフェスティバルは開催されているそうです。もともとエディンバラのフリンジは、エディンバラ国際フェスティバルの公式プログラムに選ばれなかったアーティストたちが、公式フェスティバルと同じ時期に自主公演を行ったのが始まりで、公式フェスティバルの「周辺(=フリンジ)」で行われているということでフリンジと呼ばれることになりました。フリンジの特徴は、申し込みと参加料の支払いさえすれば誰でも参加することができるというところにあります。

もちろんソウル・フリンジフェスティバルも、申し込みと参加料の支払いさえ行えば誰でも参加することができます。ただ、エディンバラの場合と違い、フリンジと対になるメインのフェスティバルが同時期に開催されているというわけではありません。1997年に若いアーティストたちによって始められた「ソウル独立芸術祭」が2002年にソウル・フリンジフェスティバルと名称を改め、様々なジャンルのアーティストたちに均等な参加の機会を確保し、次世代の芸術家の発掘・育成を目指すという目的で開催され、2012年の今回のフェスティバルで15回目となります。主催はソウルフリンジネットワークという民間の団体で、会場は弘大(ホンデ)一帯の劇場や野外スペースです。弘大というエリアは、芸術系大学の最高峰といわれる弘益(ホンイク)大学を中心とし、おしゃれなカフェやレストラン、ショップが立ち並び、夜はクラブやライブハウスでにぎわう、ソウルでも今かなりアツいエリアです。

ソウル・フリンジフェスティバルは演劇、ダンス、音楽、パフォーマンス、ダウォン芸術などの作品が集まり、今回は屋内の公演(無料~2万ウォン)が53チーム・110余ステージ、野外の公演(すべて無料)では、23チーム・70余ステージが上演されます。フェスティバルへの参加規定は韓国語のものしかないので、この場を借りて日本語で一部を紹介したいと思います。来年以降ソウルのフリンジに参加したいという劇団がもしいれば(!)、一助になれば幸いです。


<ソウル・フリンジ・フェスティバル2012 参加規定(一部抜粋)>

オリジナルは2012年版の場合はこちらにPDFがあります。

◆アーティスト(団体)の参加方法は以下の2つに分けられる。

(1) 公演プロダクション:すでに完成した作品で参加する方法。屋内、屋外どちらも可能。

(2) アーティストの実験舞台:プロダクション構成が未決定のまま参加する方法。様々な形のディスカッションや、開かれた公演形式で観客との出会いを求め、今後の創作のきっかけになるよう、事務局が仲介役として機能する。

◆アーティスト(団体)の作品が発表される空間は以下の2つに分けられる。

(1) 拠点空間

意味:事務局が、参加団体募集前にすでに場所の使用協力が完了した空間。(2012年の場合:室内小劇場4ヶ所、屋外1ヶ所(広場)※スペースの使用を決定するのはフェスティバル事務局

(2)BYOV(Bring Your Own Venue)

意味:参加アーティスト(団体)が作品に合った会場を見つけ、事務局に申請する空間。(カフェ、複合文化空間、バー、道路など)※スペースの使用を決定するのは、屋内:参加アーティスト(団体)およびスペース管理者、屋外:参加アーティスト(団体)とフェスティバル事務局。

◆参加確定

(1) アーティスト(団体)がフェスティバルに参加するには、参加申込書の提出と参加登録料を支払うことで完了する。参加登録費は、公演プロダクション参加の場合は10万ウォン(約7,000円)、アーティストの実験舞台に参加の場合は5万ウォン(約3,500円)。

(2) 劇場を使用する参加アーティスト(団体)は、上演会場が確定した後、事務局が提示する劇場貸館料を納付する。

◆チケットの管理と入場料収入分配

(1) 有料公演のチケットは、事務局が一括で運営と発行を行う。

(2) 入場料収入は、参加アーティスト(団体):事務局が、拠点空間は7:3、BYOVは9:1で分配する。


フェスティバルを支えるボランティア「インディスト」

特に面白いと思うのが「アーティストの実験舞台」で、作品になる前の構想の状態でもフェスティバルに参加し、様々な人たちと意見交換や議論をすることができます。「出会いの場」としてのフェスティバルの機能を活かした企画だなぁと思います。

また、ソウル・フリンジフェスティバルは「インディスト」と呼ばれるボランティアたちがおり、(こちらも毎年公募)今回のフェスティバルも169名が参加するそうです。どのフェスティバルにとっても、ボランティアの存在はフェスティバルを支える大きな柱のひとつ、欠かせない存在だと思いますが、100名以上のボランティアを運営するには専門のスタッフやマネージメントスキルが必要となるので、このボランティア数をみても、かなり運営がしっかりしているフェスティバルだと窺い知れます。

また、フェスティバルの会場に野外会場も多く含まれていますが、野外の会場を使うには当然ながら、その街の協力、住民の理解が欠かせません。それを可能にしているのは、主催団体であるソウルフリンジネットワークが、この街に事務局を置き、日頃から住民とともに様々な活動をしているからにほかなりません。事務局のある弘大の「ソンミサン・マウル」と呼ばれる地域自体、実は非常に面白く、90年代前半により良い子育ての環境を求めた夫婦が集団移住してきたところから始まります。子供の成長に合わせて共同住宅、保育園、学校、生協、カフェ、コミュニティラジオ、劇場まで作られ、今やまちづくりで有名なコミュニティとして、韓国でも住みたい街にランクインするほどのエリアです。本当はソンミサン・マウルのことをもっとじっくり書きたかったのですが、また機会を改めてどこか(きっと私のブログに…)書きたいと思います。



■植松 侑子(うえまつ・ゆうこ)■
1981年、愛媛県出身。お茶の水女子大学芸術・表現行動学科舞踊教育学コース卒業。在学中より複数のダンス公演に制作アシスタントとして参加。卒業後は制作、一般企業、海外放浪を経て、2008年6月よりフェスティバル/トーキョーに参加。F/T09春、F/T09秋、F/T10は制作スタッフとして、F/T11は制作統括として4回のフェスティバルに携わる。 2012年よりソウル在住。
個人ブログ:http://maticcco.blogspot.com/
twitter:@maticcco


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