アゴラ劇場の強さと弱さ

――2010年にはアトリエ春風舎の支配人に就任しましたが？

僕が入団した頃には、「支配人」というポストはなくて、多田さんが小屋番のような形で春風舎の管理を担当していました。その後多田さんが「キラリふじみ」（富士見市民文化会館）の芸術監督になるタイミングで、西村和宏さん（サラダボール）が引き継いで、その時に内部では「芸術監督」という名称で呼ぶようになりました。さらに西村さんが四国学院大学で働くことになって、そのポストが空くことになったので内部で募集がかかったんです。僕はそのタイミングで手を挙げました。理由は、もっと広く演出部に関わりたいという思いがあって、春風舎の支配人ならば、そこで行われる自主企画にはすべて何らかの形で関わることが出来ると思ったからです。

――ここで木元さんが「支配人」、谷賢一さん（DULL-COLORED POP）が「芸術監督」というようにポストが分かれましたが、これにはどんな意図があったんでしょうか？

西村さんの時には「支配人」というポストはなくて、実際には「芸術監督」の西村さんが、制作周りの窓口も兼務されていたんですね。その後の募集の時に手を挙げたのが僕と谷さんの2人だったんですが、その後の平田との面談で「あのさ、思いついたんだけど、谷が芸術監督で木元が支配人っていうことでどうかな？」って（笑）。なので、半分は平田の思いつきなんです（笑）。本人は「後付けの天才だ」なんて言ったりしますが、演出部に関しても、外の人にはすごく上手く組み立てられたシステムのように言われますけど、もともとは内部で公演のない時期に自発的に始まったものですし。今回も手を挙げたのが僕か谷さんのどちらか一人だったら、「支配人」というポストを新設したりはしなかったんじゃないでしょうか。

――ポストありきで募集したわけじゃなかったんですね。

そうですね。特に深い意図はないんです（笑）。

――（笑）。現在はどのような仕事をされているんでしょうか？

アゴラ劇場では主にフェスティバル実行委員として動き、青年団では担当する公演の制作について、という感じで、年間を通じてアトリエ春風舎の制作的な窓口をやっています。

――実は相当幅広いですよね。

そうですね、いろいろと重なる時期はかなり大変です。

――アゴラ劇場では「プログラムオフィサー」という役職にも就いているようですが、これはどういったお仕事でしょうか？

芸術監督である平田オリザと一緒に年間のラインアップを決めていく担当ですね。かつてのように平田本人が多くの劇団を観に行ける状況にないですから。もちろん応募してきた資料は平田もすべて目を通すんですが、やっぱり演劇は「公演」が最終的な形なので資料だけでは分からない部分が大きいですし、募集しても隅々まで届かないこともあるので、プログラムオフィサーが様々な公演に足を運んで、「募集しているので良かったら」というように声を掛けたり、選定会議の場で「ここは面白かったですよ」と平田に進言したりするわけです。

――どれぐらいの公演を観に行かれるんですか？

そこが難しいところで、青年団の仕事を兼任しているので、担当する公演の時期はどうしても他の公演を観に行けなくなってしまうんですよ。そこがアゴラ劇場の強さであり弱さでもあるんです。と言うのも、青年団演出部の活動が活発であることによってラインナップのクオリティーがある程度担保される部分がある反面、青年団の活動が拡大すればするほど外部のカンパニーの発掘が思うようにできない。そこが大きな課題だなあとここ最近強く感じています。もちろん、時間の許す限りは公演を観に行くようにしていて、最近だと福岡の「万能グローブ ガラパゴスダイナモス」や、名古屋の「オイスターズ」も、直接公演を観に行って「是非応募してください」と声を掛けたことから繋がった公演ですね。

――現在、アゴラ劇場の「プログラムオフィサー」は木元さんだけなんですか？

3～4人いるんですけど、意識的に名乗っているのは僕ぐらいですね。来年度からアゴラがフェスの休止や一般貸出の再開などで大きく体制が変わる中で、プログラムオフィサーの推薦枠というものを設けるので、個人的には積極的に名前を出していくべきだと思っているんですけど。