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【制作者のキャリア】第4回ゲスト:寺本真美(株式会社ヴィレッヂ/「劇団、本谷有希子」)

12.12/24

第一線で活躍する舞台制作者に、これまでの道のりと仕事観を尋ねるシリーズ“制作者のキャリア”。今回のゲストは、「劇団、本谷有希子」制作の寺本真美。大学生の頃に本谷有希子を知って初めて演劇の世界に足を踏み入れ、商業の現場で鍛えられながらもずっと“劇団制作”として活動してきた彼女は、今ちょうど大きな分岐点にいるという(2012年12月インタビュー)。

本谷有希子の“存在”に惹かれ、演劇の世界へ

 

――出身はどちらですか?

島根県です。地図上でいうとちょうどおへその辺り、邑智郡(おおちぐん)っていうんですけど。ほんとにものすごい田舎です。高校を卒業するまでそこにいました。

――演劇の原体験はその頃ですか?

ほんとに最初の演劇体験というと、そうですね。学校を巡ってくる劇団みたいなもの、だったと思うんですけど。町にひとつ大きなホールがあって、そこで上演されるのを学校の全員で観に行かされました。“行かされる”っていうイメージです。あとは文化祭とかで…小学校くらいまではよくクラスで演劇をやるじゃないですか。そんな程度ですね、当時の演劇に関する認識は。中高と演劇部も無かったので。

――演劇を身近なものと意識したのは、ずっと後?

それは、「劇団、本谷有希子」に関わり始めてからなんですよ。いろんな制作の方のルーツを伺っていると、ああ、みんなちゃんと段階を踏んで、そうなるべくして演劇に関わっているんだなあと思うんですけど、私の場合は一切それがなく、気が付いたらシアターブラッツで客入れをしていた、っていう(笑)。

――なるほど。じゃあ、本谷有希子さんとの出会いが演劇人生のスタートでもあるんですね。どんな経緯だったんですか?

私、ほんとに演劇のことを知らず、小劇場も商業演劇も観ないまま大阪でひっそりとした大学生活を送ってたんです。ただ、その当時サブカルチャーが元気だったので、アニメとかそういうものにはすごく興味があったんです。ちょうどその頃、本谷が、一時だけアニメの声優をやっていたんですよ。たまたま彼女が出演していた作品を観て「この声の人は誰なんだ?!」と思ってインターネットで逆引きしていったら、私の好きなアニメ監督が「劇団、本谷有希子」の旗揚げ公演についてコメントを書いていて。さらに気になったので、劇団のホームページを探し出して開いてみたんです。そしたら、どうやら私と年があまり変わらない女の子が、たった一人で劇団を立ち上げていて、しかもなんかすごく挑発的な日記を毎日書いていたんです(笑)。私の好きなクリエーターとも繋がりがある「この人はいったい何者?」と興味を持って、それからしばらくは毎日ホームページを見ていました。そしたらその年の10月に公演があるらしい、ということが分かった。東京まで観に行ってみようかな…と思っていたら、ある日「10月の公演をお手伝いしてくれる人、募集しています」っていうお知らせが載ったんです。それで、何も知らない状態なのに、気が付いたら「何かお手伝いできることはないですか」というメールを出してしまっていたんです。それが、確か大学3年の夏休みだったと思うんですけど。なので、彼女のお芝居に魅せられて…とかでは全然ない出会いなんです。

――そこまで興味を持つなんて、本谷さんの声はそんなに魅力的でしたか?

いえ、他の声優さんは、おなじみのプロの声優さんばかりなのに、一人だけすごい棒読みの人が混ざってるなーって(笑)。キャスト表を確認したら、「この人だけ知らない人だ、誰だ?」って妙に引っかかったんです。

――その仕事に共鳴したというより、「何者なんだ?」という好奇心を掻き立てられた?

顔も知らないし、どんな芝居を書くのかも知らないし、そもそも演劇ってものに対して認識も薄いし、それでよくあんなメールを書くに至ったなと我ながら思いますけど。本谷有希子の“存在”そのものが気になって仕方がなかったのは確かですね。

――確かにホームページの日記は、本谷さん独特の文体で書かれていて、彼女のポテンシャルを覗うことができる的確なツールだったかもしれないですね。

文体も一番攻撃性が強かった頃なので、すごく挑発されたんだと思いますね。なんていうか、一般の方が本谷に持つ印象に近いものに、きっと私が一番最初にほだされてしまったんじゃないかなって思ってます。ファンになったというか、目を離せない存在だったんです。

卒業後、別の仕事に就くという感覚は一切持てなかった

 
――それで、第三回公演『ファイナルファンタジー』(2001年10月/新宿・シアターブラッツ)で初めて本谷さんと、そして演劇と関わることになった。どんな印象を持ちました?

とにかく全てが初めての経験で刺激的でしたね、例えば稽古場に行くとか。俳優さんが目の前でセリフを言いながら稽古してるのを見るなんてもちろん初めてで、すごく面白かったです。ただ、多くの劇団の人たちが、例えばサークルとかで繋がりを最初に作った上で旗揚げするのとは真逆で、立ち上がったばかりの劇団で、役者はその都度集めているので、和気あいあいという感じではなかったんですよね。お互いよく知らない者同志で、意外なほどバラバラな感じでした。「あ、演劇ってこんな感じなのかあ」と最初に思ったのは覚えています。

――本谷さん自身への印象はどうでした?

最初に面接を受けたんです。登場した本谷さんは、ああ、こんなにかわいい女の子だったんだ…という驚きがまずあって。それで、あとはひたすら怖かったです(笑)。

――怖かったですか(笑)。どうしてですか?

私が興味を持った原因っていうのが、挑発に乗る感じ…というか。「大好きです!付いていきます!」って感覚ではなく「どれどれ」みたいな。なぜか素人に「どれどれ」と思わせる何か挑発的なものが彼女にはあって。だから、仲良くなりたいという気持ちは一切なかったです。この人がこの団体を仕切っていて、自分のやりたいことを本当に真剣にやっているから、迂闊に口も聞けない。妥協を全然しないから、制作に対してもすごく厳しかった。軍曹、みたいな感じで見ていましたけど(笑)。

――制作というものには、そこで初めてきちんと関わった?

そうですね。最初はほんとに何も知らないので、お手伝いっ子みたいな感覚でした。客入れの仕方やチラシ折り込みのことなど、全く分からない状態でいろいろやっていましたね。前任の制作者も芝居畑の人ではなくて。うちの劇団って、すごく不思議なんですけど、その当時入ってくる制作スタッフの誰も本谷の芝居を観たことなかったんですよ。それがすごく特徴的でした。4人くらい入ってきて、全員観てなかったっていう。そんな環境だったので、「制作」というポジションや仕事をきちんと意識するのはだいぶ後のことですね。

――それはどれぐらいの頃からですか?『ファイナル~』以降、あっという間に公演規模が大きくなっていったと感じますが?

当時はまだ私も大学生で、しかも大阪の大学だったので、公演の度に東京に来ていたんです。本谷との関係も、公演の度に作っては、また別れて…みたいな感じで。その当時、劇団のグランドデザインを作っていたのは私ではなく前任の制作者だったんですよ。彼は他に本業があってすごく忙しい人だったので、ある時以降、物凄いキラーパスが私に向けてどんどん来はじめたんです。それでようやく、「あ、制作ってこんなこともやらなきゃいけないし、こんなこともあるんだな」というのが実務レベルで分かってきました。制作者って、細々したものから、演出助手や小道具さんみたいなこともやらなきゃいけないし、買い出しにも行かなきゃいけないし、裏方の何でも屋みたいで無限にやることがあるなー、という感覚でしたね。「もうこれで逃げられない」と思ったのが、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の再演(2004年11月/青山円形劇場)の時で、そのタイミングで前任の制作者が抜けるんですけど、怖かったですね、あの時は…。「じゃあ寺本さんはどうするの?」って本谷さんに詰問されて(笑)。「の、残ります…」と返事しました。

――そこで素直に覚悟出来たんですか?

そうですね…そこで離れることも出来たんだよな、とも思うんですけど。私、前任者が離れるちょっと前に上京してきたんです。卒業式と平行して公演があったのですが、何の疑いもなく東京に出てきて「本谷」をやっていたんですね。「これで食べていく」っていうリアリティをそこでちゃんと持てていたかどうかはすごく怪しいです。ただ、「本谷」に関わるのを止めて、別の仕事に関わるという感覚も一切なかったと思います。アルバイトをしながらしばらくやっていて、前任者が抜けるというショックがあって。それでも当時、「自分は離れない」っていうことには疑いがなかったんです。すごく闇雲だったなあとは思いますけど。一応、あの時に覚悟しましたね。怖かったけど(笑)。

――その当時、本谷さんから将来的なビジョンを聞かされたりしてたんですか?

明確なことはなかったんですが、「この劇団はこんなものではない」っていう、目に見えない自信はすごく持っていました。「それは、やり方を変えれば実現出来ることなんだ」というのが彼女自身から溢れ出ていた感じがするんですよ。だから付いて行けた。実際、『腑抜け~』の前の公演で動員がぐっと落ちるんですけど、そこで「お前たちは何をやっていたんだ」って、何が問題だったのかを検証する会議が行われたり。そういうことに対してはすごくシビアでしたね。

 

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