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植松侑子の「来なきゃ分からないことだらけ from ソウル」Vol.2

12.06/13

みなさんこんにちは。ソウルもすっかり夏になり、冷麺やパッピンス(韓国のかき氷)のおいしい季節になりました!実は、韓国の冷麺は夏の食べ物かと思いきや、もともとは冬に暖房の効いた部屋の中で食べる冬の食べ物であったらしいです。驚き!

それはさておき、1回目のコラムがアップされた後、想像以上にたくさんの反応をいただき非常に嬉しく思っております。読んで頂いている皆様、ありがとうございます!前回はイントロダクションだったので、これからこのコラムでどのように韓国の舞台芸術についてレポートしていくのがいいのか考えていたのですが、まずは政府・自治体レベルの大きなところから始めて、徐々に民間の動き、アーティスト個人や劇団・カンパニー単位のことにフォーカスしていければなぁと思っています。まず大きなシステムを理解したうえで、その枠組みの中(もしくは外)で創作活動をしているアーティストの現状をお伝えしたほうがより伝わりやすいですよね。

まずは国家レベルの大きなところから…というわけで、今回は韓国の国立劇団、そして韓国国立コンテンポラリーダンスカンパニーについて書きたいと思います。

言わずもがなですが、今現在、日本には国立劇団も国立コンテンポラリーダンスカンパニーもありませんよね。では韓国はどうなっているのでしょうか。


国立中央劇場(C)Korea.net

韓国の文化・芸術の一番大きな枠組みから入りますと、国家行政機関で文化や芸術を管掌しているのは文化体育観光部です。この文化体育観光部の傘下にいくつか劇場があり(つまりは国立の劇場)、その中でも一番古い歴史を持つのが国立中央劇場(韓国語では単に国立劇場と呼ばれています)です。この国立中央劇場は1950年にアジア初の国立劇場として誕生し、国立劇団は劇場の開館と同時に設立されました。(ちなみに日本の国立劇場が設立されたのは1966年です。)その後、国立劇団は韓国演劇界の中心的存在として数々の名作を創作・上演してきましたが、80年代以降、激動する韓国情勢のなか、民間の劇団が自分たちの生きる社会を反映した作品を発表する一方、国立劇団は民間の劇団では試みることが難しい大作、世界的な古典名作の舞台化に力を傾けていたため、時代感覚からずれ始め、芳しい成果を上げられなくなっていきます。

そのような状況の中で、国立劇団は既に実績のある演出家を芸術監督に登用する方法を取りますが、結局は民間劇団・民間劇場でやっていたことをそのまま国立劇団で行うにとどまり、国立劇団と民間劇団の作品のボーダーがどんどん曖昧になり「国立劇団の存在意義」が問われていくようになります。劇団員も、国家公務員として毎月給料がもらえるわけですから徐々に怠慢になり、結果、作品のクオリティも低くなり、その状況で国家を代表する劇団と言えるのか、という批判もあったようです。


赤い壁が特徴的な国立劇団の劇場

そして、現大統領でもあるイ・ミョンバク(李明博)政権が2008年に発足すると、この政権下で文化・芸術分野の制度・機関の大規模な見直しと改革が始まり、国立劇団も法人化することになります。

この法人化にあたり、2009年初めに文化体育観光部が法人化研究委託を発注し、その研究報告書を基に2009年7月~8月頃に法人化方針を確定。2010年4月に国立劇団の団員23名全員の契約解雇が行われました。この解雇に関しては、解雇通知が突然だったということもあり、激しい労使対立の末、ストライキによる公演中止なども起こりました。しかしその一方で法人化の手続きは着々と進められ、2010年7月に財団法人国立劇団が発足します。60年の歴史を持つ国立劇団を、計画が立ち上がってたった1年で法人化させてしまったわけですから、これには韓国演劇界全体を巻き込む大論争があったようです。

しかし、この決定から実行までのスパンの短さは、いかにも韓国らしいなぁと思います。もしこれが日本であれば、計画に1年、準備期間に1年を経て、実行までに2~3年はかかるんじゃないでしょうか。

さて、いろいろありつつも財団法人化した国立劇団は現在、芸術監督(1名/任期3年)と常任演出家(3名/任期1年)で年間のプログラミングを行っています。初代の芸術監督にはソン・ジンチェク(孫振策)氏が選ばれ、俳優たちはかつての月給制ではなく、シーズンごとのオーディションで選抜、そのシーズンの評価によって次シーズンの契約をするシーズン契約制になりました。

また、劇場はもともと軍の車庫・整備場として使用されていた場所をリノベーションして専用劇場にしています。もともと車庫だったということもあり、空間自体が非常に面白い場所になっており、春に行われるフェスティバル・ボムのメイン会場のひとつにもなっています。

国立劇団が財団法人化した2010年、ダンス界でも大きな動きがありました。韓国国立コンテンポラリーダンスカンパニーの設立です。

韓国のコンテンポラリーダンス界において、国立カンパニー設立は長い間の夢でした。海外に対して競争力を持つ国立カンパニーを作ること、国内ダンス界の間接支援センターの役割を担い、2010年8月に財団法人国立コンテンポラリーダンスカンパニー(KNCDC)は設立されました。初代芸術監督はホン・スンヨプ(洪承燁)氏が就任。ダンサーは、プロジェクトごとにオーディションにより選抜されるため、KNCDCのウェブサイトを見てみると、ダンサーオーディションの情報が数多く見受けられます。ウェブサイトを見てみると、KNCDCは地域社会にコンテンポラリーダンスを普及させることと積極的な国際プロジェクトを通じてグローバルなコンテンポラリーダンスコミュニティに参入することを目指しているようです。また、公演製作時からソウル・地方・海外公演をツアーで周れるようにし、ダンサーが安定した環境でそのスキルを発揮できることも目標にしているとのこと。


振付家ベースキャンプのチラシ

前身となる母体があったわけではなく、0から1を創り上げて2年も経ってない組織なので、まだまだその真価が発揮されるのは時間が必要といった印象ですが、昨年3月に行われ、面白いと思ったプロジェクトが「振付家・ベースキャンプ」です。(私は3回に分かれた公演のうち、1回だけ実際にソウルで観劇しました。)

当たり前ですがダンス作品を作る際に大切な核となるのは振付家です。創作の中心資産である振付家が、最適の環境で最高の作品を作り上げることができる場所として立ち上がったのが「振付家ベースキャンプ」です。参加する振付家は公募で選ばれ、このプロジェクトに合格し、客員振付家として迎えられた6人は「構想費」の名目で1000万ウォン(約67万円)を支給されます。このベースキャンプは、2010年11月から作品を作り始め、翌年3月に公演となるため創作期間は合計5ヶ月。つまり月で割ると、1か月当たり200万ウォン(約13万5千円)となります。日本円に換算するとイマイチ響かないかもしれませんが、ソウルに住む一般人の生活感覚からするとこれは1か月の月給とするときちんとした金額です。日本もそうですが、韓国も振付家としては食べていくことが難しいので(たぶん日本より韓国のほうがずっと難しいと思います。これについてはまた改めて。)この期間だけはダンスすることにだけ集中しなさいという意味を込めて、この金額になったそうです。ちなみに、公演にかかる費用はまた別に予算化されています。

韓国のコンテンポラリーダンスを見ていると、ダンサーの身体能力の高さと、男性ダンサーの層の厚さが特徴だなと思います。どんな振付も器用にこなすダンサーが多い一方、振付作品全体としてはまだまだこれからといった印象なので、こういうプログラムを通じてどんどん実験をして面白い作品を創る振付家が出てきてほしいな、と思います。
ちなみに、KNCDCは、韓国の国立の劇場で一番大規模な施設である、芸術の殿堂に入居しています。

ごく簡単にではありますが、今回は韓国国立劇団と国立コンテンポラリーダンスカンパニーについて書きました。どちらも財団法人として誕生してまだ2年も経っていないので、まだその真価が発揮されるのはこれからでしょう。しかし、どちらの団体も芸術監督のワンマン体制での作品作り一辺倒ではなく、芸術監督の色を出しつつも、その元で若手の演出家・振付家にも機会が与えられる仕組みを作っていること、オーディション制度で常に俳優・ダンサーの新陳代謝を促しつつ、合格すれば作品に集中できるよう環境を整えていることなど、演劇界・コンテンポラリーダンス界の大きな受け皿として存在している(とはいえもちろん、オーディションに合格するのは難関ですが!)印象です。

また、国立劇団は日本の演出家にも注目しているようなので、今後もこの2団体の活動に注目していきたいと思います。



■植松 侑子(うえまつ・ゆうこ)■
1981年、愛媛県出身。お茶の水女子大学芸術・表現行動学科舞踊教育学コース卒業。在学中より複数のダンス公演に制作アシスタントとして参加。卒業後は制作、一般企業、海外放浪を経て、2008年6月よりフェスティバル/トーキョーに参加。F/T09春、F/T09秋、F/T10は制作スタッフとして、F/T11は制作統括として4回のフェスティバルに携わる。 2012年よりソウル在住。
個人ブログ:http://maticcco.blogspot.com/
twitter:@maticcco


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