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大澤寅雄 文化生態観察日記 | vol.9「食べたり飲んだりすることは大事だと思う」

15.04/21

文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。
大澤寅雄の連載コラム!

年度が切り替わって、相変わらずやらなきゃいけないことは多いものの、ようやく、少しずつ、畑に出られるようになりました。先日、畑に自分で種を蒔いた春菊と、育てた覚えはないのに勝手に生えてきた三つ葉、フキ、それと畑の隅にある柿の木の葉っぱと裏山のタケノコで、天ぷらをしました。
春菊、三つ葉、フキ、柿の葉、タケノコはタダで調達したものの、動物性たんぱく質もほしいなぁと思って買い物に。近海で取れた白身魚のコノシロと、薬味として山椒を買いました。コノシロが285円だったのはよしとして、山椒が185円もしたのには驚いたなぁ。くやしい。ぜったい山椒の生えているところを探してやる。

「食べる・飲む」という行為を介すると、その対象物と自分との関係は、ずっと身近になります。私は、畑に勝手にウジャウジャ生えている草を、1年間くらいは三つ葉だという認識がなかったときは、生えていてもそこは単なる「雑草エリア」でしかありませんでした。なのに、食べられると思うと、そのエリアにちょいちょい足を運んでは、食べ頃なのか、まだなのか、食べ頃を過ぎちゃったのか、見に行くわけです。
生えてきたものが食べられるものだと思えば、その名前を覚えて、どんな葉っぱの形や色をしているのか、食べられない草と識別してよく観察します。それを味わったときに、イメージしていた味との違いも認識します。気のせいと言われればそれまでですが、自分の畑で取れた野菜は、スーパーで買った野菜とは、ぜんぜん違います。その違いが分かることが幸せだったりもします。演劇やダンスや音楽や美術を鑑賞するときに感じる幸せに近いなぁとも思います。

さて、自分は文化や芸術とは関わりがないと思っている人は、少なくありません。劇場にもホールにも美術館も、関わりがないと思っている人も、少なくありません。どうすれば、「自分にも文化や芸術と関わりがある」と思ってもらえるんだろう、ということを、私は考えています。
演劇やダンスや音楽や美術を「食べられるもの」「おいしいもの」として提示することも考えられます。誰にでも楽しめるものですよ、口にしてみればイケますよ、というアピールをすることもあるかもしれません。ただ、そのために「食材そのもの」の味よりも、調味料や添加物をいっぱい投入するのも、いかがなものかという気もします。

私は、実際に「食べる・飲む」という行為を、もっと積極的に文化や芸術の中に組み込むといいのになぁと思います。観たり聴いたりする前に、食べたり飲んだり。休憩中に、食べたり飲んだり。観たり聴いたりした後に、食べたり飲んだり。
実際、古今東西を問わず、お祭りや芸能の場では飲食が欠かせない要素でした。今でも、文化や芸術をすでに楽しんでいる人は、食べたり飲んだりすることも、併せて楽しむための術を知っている人が多いはずです。ところが、文化や芸術に接することが少ない人に対して、食べたり飲んだりすることにも誘引しようとする努力は、あまりアプローチされていない気がします。出演者、スタッフ、関係者の打ち上げも大事だけれども、観客の鑑賞前後の飲食行動に対するアプローチも、考えたいところですね。

当たり前といえば当たり前ですが、食べたり飲んだりすることは、大事です。食べたり飲んだりすることと、文化や芸術の創造や享受との間に、もっとたくさん接点があれば、それらの営みの循環が社会環境をより豊かにしてくれるような気がします。



■大澤寅雄(おおさわ・とらお)■
文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント”ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。


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