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大澤寅雄 文化生態観察日記 | vol.7「いつも「演劇」の線を引き直す」

15.01/06

文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。
大澤寅雄の連載コラム!

2014年に、私はいくつかのシンポジウムやフォーラムの進行役を務めました。それぞれの機会でテーマは違えども、議論を深めていったときに、かなりの頻度で「いま議論の中心になっている『芸術』って、いったい何なんですか?」という質問が起きたりします。そういう場合は、私の進行がうまくいっていない状態でもあるんですが(泣)、それを棚上げさせていただいたうえで、こんなことを書こうと思いました。

このコラムの読者は演劇やダンスに関わっている人が多いと思うので、例えば、「そもそも演劇ってなんだろう?」という疑問が浮かぶとします。演劇だけじゃなくて、ダンスでも、音楽でも、美術でもいいんですが。そんな疑問が浮かぶのはどんな時だろうか、と考えると、私の場合は、「演劇」という前提で見たものの中で、今まで見たことのない表現に出会ったとき、体験したことのなかった感動や違和感や憤りを言葉に変換するとき、自分と他人との間でその感動や違和感や憤りが著しく違っているとき、そういう状況が思い浮かびます。
「演劇とはこういうものだ」という考えは、言語化しているかどうかはともかく、なんとなく誰にでもあるものだと思います。その領域からはみ出ている表現に遭遇したときに「これが演劇なのか?」と。その時、その人の中で、「演劇」と「演劇以外」の線引きは揺さぶられて、「演劇とはこういうものだ」という自分の中の線引きを動かさないのか、あるいは、線を引き直すのか、という、態度が分かれます。
また、誰かと対話していて、「演劇」についての自分の線引きと、相手の線引きがズレているときに、線引きが違ったまま対話を続けるのは難しいこともあります。そこで、相手の線を修正させるのか、自分の線を修正するのか、そこも態度が分かれます。
「自分の線引きは変えない」という態度は、それ以前の自分と、その後の自分の価値観や世界観を守ることになると思います。それも大事なことだと思いますが、私は「いつでも自分の線を引き直せるようにしたい」と思っています。なぜかというと、例えば自分の中の「演劇」が変化することで、世の中に対する見方も変化し、それが自分のいる「世の中を変えること」でもある気がしているからです。
ただ、「これも演劇」「それも演劇」「あれも演劇」と、どんどん線を開いていくと、対話の相手に線引きの修正が伝わらず、対話にならなくなってしまう可能性もあります。また、一つひとつの表現に対して、誠実に向き合うためには、そんなに簡単に線を引き直してしまうわけにもいきません。なので、心の中で葛藤を繰り返しながら、そもそも演劇ってなんだろう?と、いつも自分の線引きを確認しています。

社会は変化し続けています。社会の変化に演劇が適応していくために、社会と演劇とが乖離しないように、演劇自体も「演劇」の線引きを常に変えざるを得ないのではないか。その演劇に関わっている当事者は、時々、自分が引いてきた線を見つめ直すことも大事な気がしています。



■大澤寅雄(おおさわ・とらお)■
文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント”ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。


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