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『せんだいメディアテーク 考えるテーブル「あるくと100人会議」 〜まちの再生、アートの再生~』第一部 ARC>Tの報告 -この一年歩いて出会った全ての人と-

13.03/18

イントロダクション

2013年3月、震災から2年が経ちました。

震災によって浮上したさまざまな課題や、アートと街の関わりから見えてきた出来事を、過去のもの、終わったものとしてしまわないよう、昨年2012年4月に、仙台で行われた「あるくと100人会議」の模様をお伝えします。

2012年の4月7日は快晴ながら、粉雪が風にあおられて舞っていました。まだ春を感じるには少し間がある印象だった仙台。会場は、ガラス張りで明るく開放的な「せんだいメディアテーク」の1Fオープンスペース。チョークで書かれた「あるくと100人会議」の表示。受付で手渡された「イイネ!」(共感)の札と「コメント」(発言したい)の札。至る所に、手づくりの温もりに満ちた一風変わった会議が穏やかに始まりました。


Art Revival Connection TOHOKU(アートリバイバルコネクション東北 略称:ARC>T 通称:アルクト)は、震災直後、宮城の舞台芸術関係者が中心になって立ち上げたネットワークです。HP→ http://arct.jp/

震災直後は、地震と津波と原発事故によるショックと被害の甚大さ、被災した人々が日常を取り戻すことに必死であった状況に、現地の舞台表現者たちも無力感を感じ、とまどったそうです。また劇場の損壊により、アーティストは表現の場を、テクニカルスタッフは劇場という職場をなくしました。

しかしARC>T(アルクト)は、宮城を中心としたアーティスト、制作者、テクニカルスタッフへの対応と、ニーズに応じての児童館、幼稚園、保育園などの幼児向けのワークショップ、小学生向けのイベントへの協力、老人福祉施設、障碍者施設で造型や身体のアクティビティの提供を行うことで被災者と向き合ってきました。
それは、震災以来、精神的に集中する事が困難になった中で、人には日常を忘れて夢中になる時間が必要だという実感をもとにした活動であり、“寄り添いながら、共に生きる”ことを実践してきた活動と言えるものです。
彼らは、プログラムの提案ではなく、ニーズを受けて動くその活動を“出前活動”と名付けました。

そのARC>Tの1年間の活動の総括と、これからどういう形でまちの再生とアートの再生を行っていくのかについての会議が行われました。あえて3・11に何も特別なことをしなかった彼らは、震災そのものを対象とするのではなく、震災後の仙台という町と、舞台芸術の在り方、人には果たして何が必要なのかを問い、真摯に見つめ直すための会議を多くの人と共に行いました。

参加したのは、ARC>Tの事務局、ARC>Tに所属する宮城を中心とした東北の舞台芸術関係者、東京や神奈川などから参加の舞台芸術関係者、また震災からの1年、ARC>Tと連携を取ってきた行政の方や、出前活動先の施設の方々、さらに通りがかりの市民の方など実に多彩な人々でした。

せんだいメディアテーク 考えるテーブル「あるくと100人会議」
〜まちの再生、アートの再生~
http://arct.jp/Meeting/old-index.html

ARC>Tの報告 -この一年歩いて出会った全ての人と-

第一部は、時系列に沿って、単発の活動や、継続して行っている活動の紹介が行われました。また、そのプログラムを実施したアーティスト、ワークショップを依頼した施設の館長などが、登壇して実感や成果を語り合う場となりました。数十に及ぶ活動事例の中からいくつかを紹介します。


■2011年4月 多夢多夢舎・中山工房
「美術の時間」「ダンスの時間」※活動自体は震災前から
千田みかささん(すんぷちょ ダンス/体操/美術)

中山地区には内陸部であるため直接の大きな被害はなかったが、地震の揺れ、長く続いた停電状態により施設にいる人たちに大きなショックと不安があった。声が出なくなった、夜眠れなくなったという話を聞き、最初は一緒に絵を書き、5月からは一緒にダンスを踊った。本人も気づいていない感情や意思の表現方法を探った。

(受講者の感想)
皆、とても明るくなった。今後も継続して続けて欲しい。


■2011年4月、5月 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンよりの依頼 
夢トラック劇場/劇団「夢とらっく〜結〜」『セロ弾きのゴーシュ』
白鳥英一さん
(TheatreGroup”OCT/PASS” 俳優/演出/劇作)

宮城県(石巻市・東松島市)、岩手県(陸前高田市・釜石市)など6カ所の避難所や学校、広場に10tトラックで行き、その荷台をステージにして音楽劇を巡回公演。子供たちは提供されたダンボールを使い、親子で椅子を自作。まためいめい音の出るものを持ち子供たちも上演に参加。上演後は支援物資、特にお菓子とおもちゃを配った。この頃、さまざまな場所から集まった支援物資が山積みになっていたが配りに行く人手がどこにもなく、渡せない状態になっていた。人に集まってもらい、くまなく配る方法として上演が考案された。また避難所に行ったときに、子供たちがおもちゃを持っていなかった。それは津波で流されてしまったから。「自分の“名前を書いていい”おもちゃ」を提供しようというのが主旨だった。


■2011年5月、6月 気持ちよく眠るためのからだほぐし
千葉瑠依子さん
(ダンス)

避難所での体の機能の回復をめざし実施。からだほぐしのマッサージとストレッチを一緒に行い、お茶の時間を設け、交流の場をつくった。避難所となった場所は、通常は市民センターとして活動していた場所だった。眠れないという悩みを聞いており、リラックスできる空間ということで照度を落とすアイデアが出た。毎回、裸電球と照明卓を持ち込んで、施設の蛍光灯をすべて外し、付け替えて実施。


ここにご紹介した事例は、ほんの一部で、他にも
「ARC>T出前部」による出張活動。
「ウォーキングARC>T」などの実演家向けのワークショップ。「招聘部」による宮城、岩手、福島の被災3県の劇団の他地域公演など、多岐に渡る報告がありました。

刻一刻と変わる被災地の状況、必要とされることの変化、その状況や変化と共に変わっていく感情は、寄り添う形で見つめ続けないと気付くことができないことだと皆さんのお話を聞いていて思いました。

「名前を書いてもいいおもちゃ」や「裸電球に付け替えて実施」する対応はそこに居る人、ひとりひとりを見つめることから生まれてきた発想だと思います。

これまで大きなメディアを通じて語られた「復興」とは別の観点があることに気づかされる事例報告となりました。

第一部 了。 
第二部「まちの再生、アートの再生」に続く。

文/川口聡


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