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第3回「海外進出」 ゲスト:吉井省也  (現・舞台芸術財団演劇人会議プロデューサー/在籍期間:1984年~2000年) 聞き手:山内祥子(パパ・タラフマラ制作/在籍期間:2008年~)

12.02/05

舞台芸術は何も残らないのが宿命。だから、やり続けるしかない。

山内:現在はどういったお仕事をされてるんですか?

吉井:舞台芸術財団演劇人会議という所で働いています。全国で200人くらいの芸術家、演出家、劇場の企画者、行政官、研究者など舞台芸術に関わるいろんな人を会員とする公益財団法人です。すべて個人の会員で団体の会員ではないです。で、「演劇祭の開催」の他「劇場の運営のあり方の研究」とか、「地域や国を超えた共同作業」「舞台芸術の人材育成」などを会員自身が行います。本部は、富山県の利賀村にあります。

山内:利賀フェスの利賀村ですね。

吉井:そう、それが一つの特徴で、東京の事務所もあるんですけど、特に知られている事業は、夏の利賀で行われる様々なフェスティバルと人材育成プログラムです。「利賀演劇人コンクール」、「利賀演劇塾」、「利賀インターゼミ」などいろんなことをやっています。

山内:こんなことを聞いていいのか分かりませんが、舞台の仕事を続けていらっしゃるのは、何故なんですか?例えば、テレビとかイベントとか、もっとお金が稼げたり、手軽に広げていけるメディアもいっぱいあると思うんですけど…。

吉井:なぜかと言われても考えたことないですね。だけど、一つ言えるのは、ずっと続けられてる人っていうのは、何らかの形で国際的なことを経験した人ですよね。

山内:国際的な経験?

吉井:例えば、日本国内の小劇場で10年やる。そうするといろんなものが見えてくるよね。「自分のやりたいことを曲げてまで、商業ベースに歩み寄りたくない。でも、このままじゃ食っていけない」っていうような壁に30歳から40歳くらいでぶつかるんですよね。

山内:はい、そうですね。

吉井:その時に、「日本の演劇」という枠内に留まっていたら、もうやれなくなっちゃう。だけど例えば、「ヨーロッパでは舞台芸術はどういう位置づけなのか」とか、「アメリカで一流の舞台芸術っていうのはどういうものなのか」ってことが、イメージできたり、実体験として持ってると、ちょっと相対化できるんですよ、日本と。そうすると少しは「失望」はするんだけど、「絶望」にはならない。「こうすれば良くなるのに」って思えるんですよ。だから、どこか迷いながらも、続けられるということはあると思います。ヨーロッパやアメリカがいいっていう話ではなくて、日本のやり方だけがすべてじゃない、オルタナティブな何かがイメージできるっていうことです。日本から出ていくことがいいって言ってるように捉えられるとちょっと違うんですけど、そういう意味ではなくて、作品を国内の身内だけの反応じゃなくて、いろんな場に晒してみたことのある人っていうのは強いと思うんだよね。そういう人たちが持っている見聞や経験、闘いっていうのは、国内だけのそれとは、まったく違うものですね。だから東京の演劇、特に若い人達の表現が、今だいぶ内向きになっているような気がして、今後どうなっていくのかなって感じだね。

山内:小池さんもしきりにそれをおっしゃっていましたね。演劇関係者だけでなく、日本人全体が海外に行きたがらない。それで内向きにいっているのは非常に危険なことじゃないかって。

吉井:危険だと思いますね。インターネットで分かった気になっちゃうからね。

山内:行った気になって…。

吉井:もう行かなくていいやっていう感覚。それは非常に良くない。

山内:あの、制作をやっている若者に、若者にって言ったらアレですけど(笑)先輩からのメッセージというか、何かお言葉を頂けると…。

吉井:そうだなあ、舞台芸術は悲しいことに、とにかくやり続けるしかないものなんですよ。何も残らないものだから。

山内:残んないですね。

吉井:これはもう苦しいだろうけど、映画とか小説とか美術に比べて、何一つ残らないものなんだっていう、その宿命をきちっと理解すること。だからやり続けるしかないと思うんで、そこに疑問を持ってもしょうがない。やり続けないと過去は全部消えちゃう、ぐらいな、そういう仕事なんですよね。…特に制作はそうでしょ。演出家は舞台は残らなくても歴史に名を残すことはあるかもしれないし、戯曲、劇作家は作品が残ることはあるかもしれないけど、制作者はやり続けて、目の前のリアルと対峙してないと、過去にすがったりすると、ちょっと誤ったりするわけですよ。恐ろしいことですよね!

山内:そうですね。

吉井:だけど、そこが舞台芸術のいいところでもあるんですけどね。何のアドバイスにもなってないですけど、やり続けてください。立ち止まるとどうしようもないっていう感じで。

山内:振り返った瞬間に崩れていく、みたいな(笑)

吉井:跡形も無いからね。ほら、チラシしかないもん!

山内:(笑)

構成・文/郡山幹生

写真:大澤歩

注釈
*1 1988年11月~12月、フランス外務省(AFFA)による文化交流のための招聘滞在
*2 ウィリアム・フォーサイス(1949年-)アメリカ出身のダンサー・振付家。モダン・バレエを解体し再構築することで現在のコンテンポラリーダンスの歴史を作った。
*3ベルギーの振付家・アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルが芸術監督を務めるダンスカンパニー。
*4 「Association of Performing Arts Presenters」の略称。全米のプレゼンターの団体。ニューヨークで開催される大規模な舞台芸術マーケットを開催している。
*5 「Brooklyn Academy of Music」の略称。1861年設立、アメリカの前衛アートシーンの旗手として名高いアーツセンター。ピーター・ブルック、ロバート・ウィルソン、ピナ・バウシュなど世界中の最上級の演劇作品を上演する。日本からは蜷川幸雄や山海塾の作品が上演されている。


■吉井省也(よしい・せいや)■
舞台芸術プロデューサー。1964年生まれ。一橋大学社会学部卒業。1984年パパ・タラフマラ(タラフマラ劇場・当時)に参加。以後、制作、パフォーマーとして活動。2000年に退団。財団法人舞台芸術財団演劇人会議のプロデューサーとして、利賀フェスティバル、利賀演劇人コンクールなどを担当。現在、公益財団法人舞台芸術財団演劇人会議常務理事

■山内祥子(やまうち・しょうこ)■
1985年生まれ。多摩美術大学彫刻学科諸材料専攻卒業。在学中はパパ・タラフマラの美術ボランティアとして「シンデレラ」「東京⇔ブエノスアイレス書簡」等の美術・小道具作成を担当。フェスティバル実行委員会の事務局長。

【パパ・タラフマラ ファイナルフェスティバル】
『三人姉妹』
■出演:白井さち子/あらた真生/橋本礼
■日程:2011/12/20(火)~22(木)
■会場:北沢タウンホール
■チケット料金:3,500円 他
■上演時間:約60分

『島~ISLAND』
■作・演出・振付:小池博史
■出演:小川摩利子/松島誠
■日程:2012/1/13(金)~15(日)
■会場:森下スタジオCスタジオ
■チケット料金:3,500円 他
■上演時間:約60分

『SHIP IN A VIEW』
■作・演出・振付:小池博史
■出演:小川摩利子/松島誠/白井さち子/関口満紀枝/あらた真生/池野拓哉/菊地理恵/橋本礼/南波冴/荒木亜矢子/縫原弘子/開桂子/ヤン・ツィ・クック ※菊地理恵/荒木亜矢子はダブルキャスト
■日程:2012/1/27(金)~29(日)
■会場:シアター1010
■チケット料金:8,700円 他
■上演時間:約90分

『パパ・タラフマラの白雪姫』
■作・演出・振付:小池博史
■出演:あらた真生/白井さち子/菊地理恵/橋本礼/南波冴/荒木亜矢子/石原夏実/小谷野哲郎/アセップ・ヘンドラジャッド
■日程:2012/3/29(木)~31(土)
■会場:北沢タウンホール
■チケット料金:4,500円 他
■上演時間:約75分
■お問い合わせ先:パパ・タラフマラ ファイナルフェスティバル実行委員会事務局 03-3385-2066
■公式サイト:http://pappa-tara.com/fes/

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