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「今あるモノを花ひらかせよう」鹿児島県大隅半島に移住したダンサーJOUの芸術地域おこし活動レポート Vol.2

13.03/22

「劇場」という枠をはみ出して、「地域」の中で活動されているダンサー・JOUさんによる新コラム!第二回目は、地域おこしにつながる基軸としてのコンセプト「セカンドホームタウン プロジェクト」についてJOUさんの活動とともにご紹介!地域おこしにつながる基軸としてのコンセプト「セカンドホームタウン プロジェクト」


地域おこし協力隊任命後

大崎町で企画した勉強会の様子~休校となる学校施設の利用の在り方を考えてもらうための勉強会

昨年2012年11月1日から1年間、という契約で、鹿児島県肝属郡(きもつきぐん)肝付町(きもつきちょう)より、地域おこし協力隊としての嘱託委任状を授与しました。
昨年からスロー移住を始めて以来、自分達なりの地域と芸術を連動させる広域芸術祭(おおすみ 夏の芸術祭2012)などの活動と、地域おこし協力隊としての活動とが、地方のメディア等に取り上げられたこともあり(メディア掲載一覧)、地方での暮らしや活動に興味のあるアーティストや受け入れを検討しておられる行政の方からも、時々、相談を受けたりもしました。
地域おこし協力隊の情報は、webで拾えますが、実際にお答えした時の情報を整理して、以下に記しておきます。


地域おこし協力隊

三田の家の事例トークの後、「幸せって何だろう?」グループに分かれて書き出すWSを行なった。「健康、仕事、家族、趣味…」住民にとっての「幸せ」を具体的な言葉で共有する作業。ここにはまだ、「アート」という概念もその必要性も存在しない。そこをどうつないでいくか。

窓口としては、JOINというwebサイトがあり、そこに協力隊員募集の各地域からの公募情報が載っています。
JOIN http://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/
志願者は、自分のやりたい仕事や住みたい地域を探して、申し込みをし、地域に面接をしに行き、マッチングが成立したら、協力隊員になれます。1年毎の契約で、延長は最長3年まで。
受け入れ側は、どのような仕事をする人材が欲しいのかと条件とを明記し、公募情報をサイトに掲載します。受け入れ側行政の手続きとしては、議案と予算を議会議決させる必要があります。
その予算に対して、総務省からの補正予算がおりるという形で進行するようです。地元行政内での事務処理や決定は、それぞれのやり方に任せる形で、制度としては、行政年度の途中でも契約成立は可能です。
つまり、どのような形であれ、行政側と志望者とのマッチングが成功すれば、地方に必要な人材を都市部から得るための補助金を出す、という国の制度です。

受け入れ側にとっても、協力隊側にとっても、共通の課題として「期間終了後、地域おこし協力隊の仕事をどのように継続・発展させることができるか?」を常に考えざるを得ない制度でもあります。


“よそ者”が地域に関わる時の3つの側面

肝付町のゆるキャラ「いて丸君」をかぶり、販売促進に参加。チャーミングな動き→子どもたちにモテモテ→モノのイメージUP、という身体表現の力を役場の方に実感して頂く。

実施にあたり、様々な希望や課題はあるにせよ、よそ者が地域に入り込み、新しい視点をもたらすことの利点は多々あります。
ただし、いずれにしても、どのように地域と「よそ者」が協同作業していくのか、ソフト面については、様々な問題と可能性を探りつつ、双方の希望と能力の擦り合わせが必須になってきます。

地域おこし協力隊の立場で接するのは、主に以下の3つに分類されます。

1.新住居地域
2.受け入れ行政
3.元住居地域である都市部

この3つの詳しい説明を以下にあげます。

1.新住居地域との関係

踊る地域案内所オープニングダンス~「柔らかくて骨がないみたい」と、来てくれた地元のおばちゃま達の率直な感想が面白かった。

「人間関係」の温かさが魅力の地方生活はまた同時に、その出身者からしてみると先祖代々からの絆の延長にいるという「信頼」と「しがらみ」があるようです。
反対に、都市部には、絆の薄さとしがらみの少なさがあります。仕事や教育上の理由に加えて、それを選んで、都市部へと出て行ってしまう若い世代が少なくありません。

先祖代々生まれ育った人々の中に、どう溶け込んでいき、どのような信頼関係と理解関係を作っていくか?また、行政側の思惑と地元住民の皆さんの意識とは、必ずしも同じではありません。

アーティストの立場から「地域社会に溶け込んだアートの在り方」を探りたかった私達としては、自分達の活動を地域の皆さんに理解してもらうことと同様に、地域住民になるための日常的な活動を教わり、実践していくことの両方を常に心がけています。
定期的に行なわれる地域の行事や草取りなどの奉仕作業への参加など、積極的に行ないつつ、地域の在り方に合わせたアートの在り方を創造していくことを目指しています。

従来の芸術プロジェクトやアート施設においても、地域住民をどのように取り込んでいくか?は、皆さん、これまでも様々な方法で、工夫と苦労を重ねておられる部分でもあるかと思います。
国内に限らず、海外においてもこうした話は、皆さん、熱がこもります。アートの制作側として「なんとかしなくては」という思いは、万国共通ではないでしょうか。アーティスト側も、隔離された場所での自分達の創作活動だけでなく、社会そのものに積極的に関わっていくタイプの創作活動を試みる人も、少しずつ増えて来ているように感じます。

2.行政との関係

暮れの地域のしめ縄づくりにも夫婦で参加。

地域おこし協力隊に何を求めるかは、各地域のニーズにより異なります。
実際に任務についてみて、地域おこし協力隊は、「前例がない」というのが現状であり、そこに、新しい枠組みを作っていくことの難しさと面白さを感じます。

地方、特に市町村合併により、日々の業務をこなす地域が広がり、限られた人数で広域の業務を執行しなければならない、行政の方の日々の業務は大変です。そのような現状で、地域に馴染みのない人間を受け入れるだけでもまた、業務を増やすことになります。

地域おこし協力隊と行政とで立ち上げた新しい枠組みは、期間終了後にも自立継続できるのか?これは、担当者レベルの問題で解決できることではなく、企画予算の承認をする議会や民意としての住民も含めた、地域全体からの理解が得られて初めて、検討し、取り組める課題でもあります。

3.元居住地、外部との情報連動

踊る地域案内所、竹灯籠イベントでお手伝いしてくれた地元の高校生チーム。

地域おこし協力隊(“よそ者”)として、元居住地である都市部と自分との関係を活かしつつ、地域に貢献できる方法を見つけていくこともまた、他の人にはできないよそ者なりの役目の1つである、とも言えます。

地域社会のもつ魅力を、どのようにアウトプットすれば、地域外に届くのか?あるいは、地域外の情報を、どのように地域に伝え、それを活かすことができるか?これは、国内に限らず、海外と考えても同じことです。

例えば、各市町は、観光用の地図を作りますが、近隣市町の情報は、基本的には載せません。全くの外部から来た人には、市町をまたぎ旅をすることが多いので、わかりやすい全体の地図が得られると非常に助かるという声を良く聞きます。鹿児島県については、広域での情報をいろいろな切り口でまとめていますが、ニーズも細分化されている中で、万人を満足させる広域の情報のまとめ方は、なかなか難しいようです。

これと類似することで、海外の人からよく言われる日本のアート社会についての指摘の1つに「日本には、情報の連動と共有があまりないようだ」というのがありました。近年、日本でも少しずつ増えて来ていますが、情報面だけでなく、予算面や企画面も含めた「広域連動」というネットワークをこれからもどんどん作り、共有していくことは、日本全体にいろいろな可能性をもたらしてくれるように思います。


アートが社会にできること

2ヶ月間の地元密着型企画により、じわじわとリピーターも増え、踊る地域案内所クロージングイベントには130人の観客が集まった。

先日のヨーロッパ滞在中、子どもたちがゲームから離れない現代社会において、ゲームやパソコン上という枠の中に創造性が特化しつつあるようだという話で盛り上がりました。実際の身体やモノが提示できる表現や質感など、リアルな創造力の可能性をどのように社会の中に浸透させ、活用できるか?政治でも宗教でも商売でもない存在になり得るアートが社会にできることは、何なのか?

行政や社会は、数字を基準にします。例えば、フェスティバルが地域にもたらす経済効果などは、数字に現れる効果の1つであるでしょう。しかし、数字にはなりにくい未来への「可能性」こそが、アートならではの社会における重要な役割ではないでしょうか。創造的な表現や創作過程やクリエイティブな関係が、住民の皆さんの日常に浸透することにより、生活そのものが豊かな創造性に溢れたものになるという可能性をどのように数字的に説明できるのか?それはアートと社会をつなぐ役割の皆さんが、日々ご苦労されておられることかと思います。

競争によって「No.1」を生み出す価値観は、日々「No.1」を淘汰し続けます。勝つものは、いつかは負ける日が来ます。もちろん、競争による淘汰も進化の過程において必要ではあるのでしょうが、それはアートではなくてもどの分野でもしていることでもあります。アートが社会にできること、アートでなければできないことの1つとしては、沢山の「Only one」の事例を生み出し、「Only one」の価値観を浸透させることができる力ではないか、と考える今日この頃です。誰とも比べる必要のない「Only one」の価値観を創造することで、競争の原理は当てはまらなくなり、共存共栄の可能性がより高くなってきます。

地域おこし協力隊の任務の中で、今後ますます人口が減少し、経済が縮小するという未来の統計予測をみていると、勝つか負けるかの競争よりも、共存共栄へと考え方をシフトさせることが、本当の意味での未来の繁栄につながる1つの道なのではないかと思います。

考えてみれば、「共存共栄」は、新しいものではなく、日本古来の生活文化の中に深く根ざした考え方でもあり、それも踏まえて、近年、海外の人からも興味深く聞かれることが多くなりました。

共存共栄のDNAを持つ日本人としてこれから、アート活動の中で、私達1人1人が何をどう提示していくか、今とても重要な立場なのではないかと思っています。


セカンドホームタウン プロジェクト

踊る地域案内所クロージングイベントには、スパイラルホールの宮久保さんも駆けつけて下さり、アフタートークの進行をお願いした。皆さんが来て下さること、関わって下さることが、何よりの贈り物。

「アートが社会にできること」をアーティストの立場から考えつつ、地域活性に取り組む中で、「セカンドホームタウン プロジェクト」は生まれ、育っていきました。

「わざわざ東京から移って来て、こんな田舎で何するの?」という地域の皆さんからの疑問に答える言葉を探す過程で、それは明確になっていきました。

例えば、「地域に人を呼ぶ」〜イベントや観光施設への集客、という従来の考え方は、中央の人口過多地域からアクセスの良い地域や、観光施設を作る大規模予算がある地域にとっては有効な手段です。反面、折角作った施設には、必ず寿命があります。世界一高いタワーは、必ず数年後には世界一ではなくなります。時代とともに、遊園地等のアトラクション施設も、必ず老朽化し、人気が衰える時が来ます。

一方、人を呼びづらいアクセスの悪い地域や観光施設のない地域ほど、手つかずの自然の恵みに満ちあふれ、お金では作ることができない美しい天然の風景と、その風景の中で自然と共存しながら暮らす人々の生活の知恵という、貴重な文化がまだまだ豊かに残っています。そしてその地域がもし、自分の故郷であったなら、人は必ず1年に1度、あるいは数年に1度は、帰るでしょう。

自身を振り返れば、アメリカ、マレーシアでの生活後、東京を拠点に国内外、沢山のつながりを作り、ダンスの活動して来たこの12年でしたが、仕事上のつながりは、仕事のある期間中でしか存在しないと言える程、都市部での生活は忙しく、常に時間に追われています。仕事の現場が違うと、同じ都内に住んでいるのに、何年も会わないまま時間が過ぎてしまいます。

創造的な側面をベースにしながらも、そうした都会的な関係を、もう少し突っ込んだ人間的な関係に切り替えていきたい。そのように感じ始めたここ数年でもありました。

「セカンドホームタウン プロジェクト」では、先に述べた「アートが社会にできること」という大きなお題目と、個人的な人間関係や価値観を今一度、見直していくための1つの提案として「友だちを作ろう、家族のように助け合える友だちを」という大小2つの側面を同居させたコンセプトとして、立ち上げました。

日々のイベントや暮らしの中で、住民の皆さんとの距離が少しずつ近くなっていくのがうれしい。

そこに「地域活性」をつなげると「ただいま、おかえり」を言い合える様な「第二の故郷を作るためのアートイベント」を手段として行なっていくこととしましたイベントを通して、人と人を出会わせ、地域とアーティストとの関係を育み、持続可能な関係を促すことを主眼においています。先に述べた3つ、地域住民、行政、外部との関係を、アートで創造的に育むことを心がけつつ、アーティストの立場から、様々な企画や提案、時には運営までを行なっています。このことそのものが、自分達のクリエイションであり作品である、との位置づけを掲げたところ、地元の皆さんには馴染みのない分野ながらも、少しずつ理解して頂きつつあるようです。


2012年度の主な企画実績としては、

1.広域循環型芸術祭~おおすみ夏の芸術祭2012
  (鹿児島県鹿屋市、志布志市、曽於郡大崎町、肝属郡肝付町)
http://odorujou.blog100.fc2.com/blog-entry-2119.html(日記)
http://dapco.jp/oaf

2.まちおこしのための先例事例勉強会(鹿児島県曽於郡大崎町野方)
http://odorujou.blog100.fc2.com/blog-entry-2332.html

3.おおすみ踊る地域案内所(鹿児島県肝属郡肝付町)
http://odorujou.blog100.fc2.com/blog-entry-2211.html(日記)

日記blogのリンクを読んで頂けると、日々の様子がわかるかと思います。また、地域に向けて、芸術祭の総括レポートとして、きもつき情報局にもコラムを掲載しています。
http://kimotsuki.info/pages/read/columns/columnist003/

[参考]
メディア掲載一覧:http://odorujou.blog100.fc2.com/blog-entry-2238.html


■JOU(じょう)■
23才で踊り始める。ダンスで人やモノや場をつなぐ作品作りをする。2008年ソウル国際振付祭にて外国人振付家特別賞を受賞。2013年、肝付町踊る地域おこし協力隊として鹿児島県に移住し、劇場舞台の枠を越え、地域おこしとつながったダンス活動を創作中。おおすみ夏の芸術祭(OAF)2012発起人。おおすみ踊る地域案内所所長。
JOU日記: http://odorujou.net
大隅文化生活http://osumiart.exblog.jp/


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