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『地域のシテン』第6回前編 平松隆之ほか

14.08/11

3日間のプログラムを作る

平松氏・白川氏は、昨年の良い点を残しつつ、より充実したプログラムを考えた。3日間の流れは参加者にとって、思考の拡散と収束が意識されるものであった。特に重要なことは、テーマである「まちと劇場と祝祭」を、プログラムにどのように組み込むかであった。

【1日目】
会場:静岡芸術劇場
・SPAC活動紹介
・SPAC芸術総監督宮城聰氏の講演
・『サーカス物語』観劇
・バックステージツアー
・WS1 『サーカス物語』の感想をシェアするワールド・カフェ
・演出家ユディ・タジュディン氏のレクチャー

【2日目】
会場:舞台芸術公園(休憩所 カチカチ山)
・WS2 アートのある路上と劇場について考えるWS其の壱
・WS3 アートのある路上と劇場について考えるWS其の弐
・WS4 オープン・スペース・テクノロジー

【3日目】
会場:駿府城公園(およびその周辺)
・「大道芸ワールドカップin静岡」プロデューサー 甲賀雅章氏の講演
・「大道芸ワールドカップin静岡」視察(フリータイム、昼食込み)
・「大道芸ワールドカップin静岡」SPAC参加作品観劇
・ふりかえり「《私たち》と《祝祭》」

白川:
SPACの方たちとも話しながら、まち・劇場・祝祭というキーワードは挙がったのですが、まちと劇場は一緒に考える上で扱いやすいものの、最初は祝祭を扱う理由を言葉にすることは難しいことでした。しかし、ミーティングを重ねていくうちに分かってきたことがありました。
SPAC芸術総監督の宮城聰さんが祝祭とお祭りの違いについて話されているのですが、都市の祝祭とは、独立した個人で構成されていることが前提になっている集まりです。WSも同様で、様々なバックボーンを持った人たちが集まってきて、互いの異質性や多様性というものを受け止め合いながら時間を過ごします。だから、祝祭ということを話し合うコンテンツとしてテーブルに上げるというよりも、WSという行為自体が祝祭的であると考えたときに、3つのキーワードがつながりました。

「ホールシステム・アプローチ」という考え方

ここからはプログラムの中でも、実施されたWSのことを中心に話を進めたい。
今回行われたWSのうちいくつかは、
「特定の課題やテーマに関係する人たちが一堂に集まって話し合う中で、全体の文脈を共有してゆき、最後には創造的な意思決定やアクションプランの策定をする」
…という流れに沿ってデザインされている。この一連の方法論は「ホールシステム・アプローチ」と呼ばれている。
シンポジウムが知識をインプットしていく作業だとすると、ホールシステム・アプローチは集団でのインプットとアウトプットを繰り返しながら、情報を知恵に変換していく作業だ。

「ワールド・カフェ」〜観客同士の対話がここから始まる〜

1日目に行われたWSは、「ワールド・カフェ」。
今回使われた「ホールシステム・アプローチ」の一つで、比較的少ない時間で、お互いの知恵をアクティブに拡散することに適している。カフェのようなリラックスできる空間を作ることで、参加する人が主体性・創造性をもってオープンに語り合えるようにすることが狙いだ。

今回の「ワールド・カフェ」はSPACの舞台『サーカス物語』を見た後に、参加者が4人組でテーブルを囲み、「あなたが劇中に見た○○とは?」(○○の部分はテーブル毎に異なる)という問いについて話し合った。話し合いの中で出てきた言葉は、テーブルの上にある模造紙に書き込んでいく。20分ほど経過すると、メンバーチェンジ。テーブルに1人が残り、他のメンバーは別のテーブルに移動する。これを3回程度行う。

観劇と「ワールド・カフェ」を組み合わせるというのはとてもユニークな発想で、舞台芸術の本来持っている価値や魅力を観客が深く味わうために有効なツールであることが分かった。
自分の感想を言葉にした後で、他の人たちから沢山の気づきを聞いていくと、観劇体験が深く掘り下げられていく。自分だけではぼんやりとしか思い出せない作品のディテールが記憶から引き出され、作中の一つの言葉の中に、実に多様な意味を見いだせることに気づく。「ワールド・カフェ」の終了後には、演出家のユディ・タジュディン氏によるレクチャーが設けられたが、聞く側の関心がとても高まっていて、感想が曖昧なときに行われるアフタートークよりもはるかに深い対話がされていたように思う。それはまさに、作り手と自分自身が作品を通して対話しているかのような体験だった。

白川:
今回は人間関係づくりのためのアイスブレイクとしても使っていますが、ワールド・カフェの最大の醍醐味は、席替えをしたときに、他の人の知恵と自分の知恵がつながって思わぬ化学反応が起こるという体験です。

平松:
(作品が)面白いかつまらないみたいな議論はこの場ではする必要がないと思いました。たくさん喋る人がいたとしても、トーキング・オブジェクト(※テーブルの真ん中に置かれているモノのこと。それを手に取ってから話をするというルールがある)を使っていたので、全員が少なくとも一言は喋れる場になりました。また、自分にとってはもやもやしていたことが人の話によって紐解かれていく瞬間があるという意味では、喋るのではなく、聞く側に立った方が得をするという場合もありますね。

グループワークで「劇場」と「路上」の関係を考える

2日目の日中には、「アートのある路上と劇場について考えるWS」と題し、二つのプログラムが用意された。

5人グループで、「劇場」と「路上」のどこに作品・アーティストが位置するかという座標軸を作る。模造紙の上に、一本の横軸を書き入れる。左側が「路上」、右側が「劇場」だ。参加者はそれぞれ付箋に色々な作品・アーティスト(舞台芸術に限らず)の名前を書き入れて、模造紙上のふさわしい場所(例えば『サーカス物語』であれば「劇場」寄りの位置)に貼り付け、マッピングしていく。
しかし実際に取りかかってみると、公園に張られたテントで公演をしている場合や、劇場のロビーでのコンサートなど、適切なポジションが見当たらないというケースが多く出てきた。
そこで後半はもう一つ、「オープン」「クローズド」という縦軸を模造紙に加え、付箋を再び、貼り直してみた。これによって「劇場・路上」と「オープン・クローズド」の組み合わせで作品を考えることができた。
貼り終わると、今度は「なぜその位置に貼ったか」ということをグループ内でディスカッションをする。そして最後にまとめとして「劇場」と「路上」の特徴について、各グループが発表をした。

ポストイットをどこに貼るかということは正解がある訳ではなく、グループ内での合意形成が求められる。しかし、この「劇場」「路上」の考え方がそもそも人によって違うということに気づいたメンバーは、他のメンバーの選択に、ある種の寛容さをもつようになった。この場では、貼られる場所が正しいかどうかよりも「そういう見方もあるのか!」という発見をすることの方が自分自身にとっての価値がある、という気づきだ。

平田:自分自身、今まで当たり前に感じていたことへの疑問が生まれました。正解があるわけではないので、困れば困る程面白くなる。その試行錯誤にこそ価値があるWSだと思います。

白川:
合意形成として考えを擦り合わせるというよりは、自分と考えていることが違う人がいるということを確認し、その体験を分かち合うための時間にしようと考えていました。人は合意するとしても対話するとしても、お互いの違いを自覚していないと、それを前提にして話せないんですよね。お互いがもともと同じだって思い込んでいる人たちは、簡単に相手と合意できているって思い込んでしまう。違いを確認し、なんとかお互いを近づけようとする営みは、やっぱり大事ですよね。その違いが分かるための基準として、「劇場と路上」という横軸、「関わる度合」という縦軸を使いました。

平松:
事前に模擬的にWSをやってみたところ、横軸だけだと途中で会話が停滞することが分かったので、「関わる度合」という縦軸を増やしました。
当日の進行では、会話の少ないグループがいたときに、それが退屈してる状態なのか、それとも次の扉を開けようとしている難産の状態なのかという判断が、外から見ただけではなかなか分からないことが多かったのです。時間配分についても同様です。そのため今回は、参加している人に率直に聞いてみることにしました。「どんな感じ?」と聞いて、「あ、今大丈夫だよ」とか「今深めている時間」と言ってくれることで、「今は待っていい時間だ」という手応えをつかんでいきました。

このWSには「社会→個人」というベクトルが存在しているのではないかと思う。つまり、最初は全員で同じ一つの概念について考えているつもりでも、参加者には徐々に、一人一人が考えているイメージの差異が見えてくる。そして、その差異を顕在化させながらも寛容に受け入れることが、参加者には問われているのである。

ペアインタビュー〜個人の体験を社会化する〜

午後は「劇場アート(路上アート)」の体験がわたしたちにとってどのような価値があるか」と題し、アートに関わる「私たち」にフォーカスを当てたWSを行った。参加者でペアを作り、舞台芸術公園の好きな場所で、お互いに30分程度のインタビューをする。インタビューのテーマは、これまでで最も心を動かされた「劇場でのアート体験」と「路上でのアート体験」についてだ。

白川:
ペアインタビューは、自分の感じたことを持ちよって対話をし、意味を考える手法です。ここで目指したかったのは「個人の体験を突き詰めていくとある種の普遍性にたどり着く」ということです。

平松:
「今まで生きてきた中でとても感動したことを喋って」と言われると、意識しなくても自分の中で思いが強かった体験を引っ張り出してくることができる。そうすると二人で掘り下げたときに、相手が信じられないくらい覚醒するので、これはすごいと思った。相手のことを救ったと言ってもいいぐらい。びっくりした。

平田:
明確にプロセスとゴールを設けて、合意のもとに対話を実践するという経験ができたことは、僕にとってもすごく良かったと思います。対話って、相手の話も聞いて自分も表現しながら、それこそ寛容になっていくもの。そういった能動的なプロセスやコミュニケーションは、日常にあるようでいて、案外、ないんじゃないかなと思っていたので、そういうところに意識を持っていくことも、一つの気づきとなると思います。それと当初は屋内でインタビューをする予定だったのですが、白川さんが機転を利かせ、屋外に出て公園全体を使ったワークショップを行ったことで、参加者もリラックスしながら、心を開いて話せる場を作ることができたと思う。あれはファシリテーターの直感と手腕ですね。

ペアインタビュー終了後は再び全員で集まり、二重の輪を作る。輪の内側の人と外側の人で組みになり、インタビューで自分が話したことを、今度は別の相手に対し、5分程度の時間で伝えていく。お互いが話し終わると、オクラホマ・ミキサーのように輪の外側の人が動き、次の人にも話していく。同じ内容でも、繰り返し話すことで、話す内容は自分が相手に伝えたいと思った部分の比重が、次第と大きくなっていった。

白川:
当初はあんなことまったくやろうと思ってなかった(笑)。
元々は、何人かで輪になって一人の話を順番に聞くようにしようと思っていましたが、ペアインタビューの雰囲気を見ると、参加者がすごい落ち着いてゆったり話していると感じたんですね。この先のプログラムの流れも考えると、ここでもう少しアクティブな活動を入れようと思い、即興的に中身を変えました。
本来このプログラムが目指していたのは、自分の体験は他の人にとっても意味がある、というある種の普遍性を体験するということだったのですが、中身を変えたことでこれは達成できなかったかもしれない。
しかし新たに選んだ手法によって、話をする態度への関心はものすごく高まったので、結果オーライになった。このことをどう評価すべきかはまだ分からない。やってみたらそういう事が起きた、としか言いようがないのです。

ペアインタビューによって相手の体験を言葉として引き出す作業をし、引き出された人は、その言葉を他の人に説明する。この一連の作業は、自分の中に深く沈んでいるものを、順序立てて公開できるようにしていくプロセスである。ここに見られる「個人→社会」というベクトルは、私的な営みである芸術が、その価値を複数の他者に伝える言葉を獲得しようとする行為と通底するものがあった。

(後編に続く)後編: http://www.next-nevula.co.jp/techo/?p=3019


■平松隆之(ひらまつ・たかゆき)
劇団うりんこ/うりんこ劇場制作部長。子ども、地域、演劇に関する様々な活動を行う。2005年、劇団うりんこ入団。09年、大阪大学第1期ワークショップデザイナー育成プログラム履修。NPO芸術の広場ももなも理事・SPAC静岡から社会と芸術について考える合宿WSファシリテーター・せんだい短編戯曲賞審査員。主なプロデュース作品、10-12年「お伽草紙/戯曲」(戯曲=永山智行・演出=三浦基)、11-12年「クリスマストイボックス」(作/演出=吉田小夏)、14年「妥協点P」(作/演出=柴幸男・舞台美術=杉原邦生)など。
■白川陽一(しらかわ・よういち)
対話と学びの場のファシリテーター。
Keramago Works(ケラマーゴ・ワークス)の屋号で、ワークショップの企画、計画、運営とそのお手伝い、司会・進行(ファシリテーター)、その他教育活動を仕事にし、自らのリソースを使った人助けやコミュニティデザインをナリワイとする日々を送っている。
■平田大(ひらた・だい)
静岡県舞台芸術センター(SPAC)制作部・2013年度スタッフ。主催公演を幾つか担当する他、ワークショップや県内の中高生が参加するシアタースクールを担当。
■藤原顕太(ふじわら・けんた)
Next舞台制作塾コーディネーター。神奈川県秦野市出身。2006年Next入社。チラシ折り込み代行等の担当後、2012年より現職。制作者へのサポート業務として、人材育成と労働環境改善に取り組む。舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)では事務局を担当。

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