Next舞台制作塾

「静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ」に参加して考えたこと、始めたこと

静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ vol.3『フェスティバルと私→たち』
静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ vol.3『フェスティバルと私→たち』の様子

 

こんにちは。Next舞台制作塾事務局の斉木です。
近頃、巷で「対話型ワークショップ」とか「ファシリテーション」といった単語を見聞きするようになりました。そういった言葉を直接聞いたことがなくても、「よりよい会議の進め方」というようなビジネスセミナーや、ネットの記事を見かけたことがある方は多いのではないかと思います。多様な人々の社会参画が推進され、また、企業、まちづくり、アートイベントなどにおいても、様々な立場の人々が協同して仕事をしていくことが増えてきたことを背景に、今、「話し合いの作法」には多くの人の関心が向けられているように感じています。

 

昨年の夏、制作塾でも、「事例紹介と実践で知る、対話型ワークショップの可能性」と題したオープンサロンを行いました。これは、静岡県舞台芸術センター<SPAC>で開催されている「静岡から社会と芸術を考える合宿ワークショップ」の事例紹介と、ファシリテーションの手法を実際にワークショップに参加しながら学ぶ二部構成の会でした。そしてその後、今年の冬に行われた「静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ vol.3『フェスティバルと私→たち』」では、実際に三日間の合宿に参加して様々なワークを体験しました。この記事では、私がワークショップとファシリテーションに触れて、その後どうしたのか?何に取り組んでいるか?ということを書いてみたいと思います。

 

私は人の話を「聴いて」いたか?

Next舞台制作塾オープンサロン「事例紹介と実践で知る、対話型ワークショップの可能性」の様子

Next舞台制作塾オープンサロン「事例紹介と実践で知る、対話型ワークショップの可能性」


じつは「静岡から社会と芸術を考える合宿ワークショップ」に触れる以前にも、私はワークショップを用いた集まりに何回か参加したことがありました。しかし、その時はその場に「なぜこんなことをやらされているのか分からない」という空気が流れていたり、「対等な立場で自由に話をしている実感に乏しい」感じであったりもしていて、自分なりのその会を振り返ることが難しく、ワークショップの手法自体がそれほど重要なことであるという実感はありませんでした。また、日頃の社内の会議で(とりわけ大規模な会議では)閉塞感を感じていたこともあって、あまり納得はいかないものの、「人と話し合うということはこんなものなのかな」と安易にあきらめていた節もありました。

 

しかし、この「合宿ワークショップ」に関する一連の体験で、私は対話型ワークショップの実力を思い知ることとなりました。最初にその実感をしたのは、「事例紹介と実践で知る、対話型ワークショップの可能性」の時です。この会は、SPACの「合宿ワークショップ」でファシリテーターを務めている平松隆之さん・白川陽一さんから、事例紹介とワークショップ手法の説明を受け、翌日に平松さんがファシリテートするワークショップに参加し、その手法を体験しながら「どういう場で有効なのか?」ということを実感していくものでした。このワークショップの中で、私は一般の参加者の方々と一緒に場を構成する一員として意見を言い、他の人が話す番では「この人はどんなことを考えているのだろう?」と想像ながらよく聴いて、深く考える時間を過ごす体験をしました。

 

例えば、人と話をしようというとき、話の主導権を握ってしまえば、思い通りに話を進められます。これはある一定の局面で(例えば、人に具体的な指示を出すときには)有効な方法であるとは思います。けれど、話し合いによって何かを決めようという時にこれをしてしまうと、一方的に訴えるばかりで他の人に発言の余地を残さないことになってしまいます。話し合うことを通じて、参加している人ひとり一人をよく知り、議論を深めたり、新しいものをつくったりしていくためには、そのための作法があり、話し合いの作りにもテクニックが要ることが、この体験を通じてよく分かりました。

 

こうした作法の中で、私にとって難しかったことは、「人の話を聴く」ということです。話し合いをする場では、人が話している間も「自分は何を話したらいいだろう?さっき発言したことは間違ってなかったかな?」ということばかり考えてしまい、人の話をしっかり「聴く」どころか、自然に耳に入ってくる言葉を「聞く」ことさえあまりしていないことに気が付きました。

 

SPACの合宿ワークショップに参加したこと

合宿ワークショップの流れ
1日目 合宿ワークショップ参加者紹介
『グスコーブドリの伝記』観劇&アーティストトーク
『グスコーブドリの伝記』観劇体験をシェアする話し合い(ワールド・カフェ)
鑑賞がより深い芸術体験となるように参加者同士で語り合う。
2日目 「フェスティバルと私→たち」について考えるWS 其の壱
フェスティバルに対する期待や可能性を、参加者同士の対話などを通して共有/深掘りする。
「フェスティバルと私→たち」について考えるWS 其の弐
言葉や身体を駆使し、実際に「フェスティバル」が「私たち」みんなのものになる過程そのものを探求的に体験する。
オープン・スペース・テクノロジー(この指とまれ方式の対話の時間)
「フェスティバルと私→たち」について自分が関心のあるテーマを出し、出されたテーマごとにグループで語り合う。
3日目 プロアクション・カフェ(発案者の「その気」が「やる気」になるための話し合いの時間)
1日目・2日目の体験を踏まえ、何かのアイディアを前進させたい人々と、それをサポートしたい人が相互に影響し合いながら、アイディアの実現に向けた第一歩を踏み出すための話し合いを行う。
ふりかえり

今年一月には「静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ vol.3『フェスティバルと私→たち』」が行われ、対話型ワークショップへの関心が高まっていたこともあって、この会に三日間参加してきました。

 

SPACは「ふじのくに⇄せかい演劇祭」という舞台芸術のフェスティバルを行っており、地元の方のみならず各地から多くのファンが観劇に足を運んでいます。一方、SPACの代表作『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』を昨年夏(2014年7月)に招聘したアヴィニヨン演劇祭は開催期間中、街を挙げてフェスティバルが行われ、街中がその熱気に包まれることが特徴的です。それぞれのフェスティバルならではの、特有の雰囲気や高揚感、その雰囲気が集まる人々に与える影響は一体なんなのか?ということが、『フェスティバルと私→たち』というテーマに込められています。

 

しかし、参加者は舞台芸術の関係者に限りません。また、地元の方もいれば、他の地域から参加している人もおり、年代も様々でした。雑多なメンバーが三日間かけて、様々な形の対話をしていくものですが、ハイライトはなんといっても、二日目に行った「フェスティバルを作る」ワークだったと思います。ワークの流れは、こんな感じです。

 

  1. 午前中のワークで「フェスティバル」について、考えを広げるだけ広げる。
  2. 劇場のキャラクター『すぱっくん』を中心に据えたフェスティバルのアイディアをひとり一人が考える。
  3. アイディアが似た者同士でいくつかの小グループを作る。
  4. いくつかのグループを合体させて、最終的に二つのチームを作る。
  5. 午後いっぱい使って、チームごとに即席のフェスティバルを作る。

 

まず私は、「『すぱっくん』が増えたら面白い」と直感的に考え、似たようなアイディアを持った人々と一緒のグループになりました。そしてそのあと、同じようにアイディアを中心にして結成された小グループ同士で合体して、一つの大きなチームを作りました。このチームでフェスティバルを作ることになったのですが、時間制限があるなかで、全てのアイディアについて一つ一つ全員で話し合うのは困難です。例えば、「『すぱっくん』が増える」ということを一つとっても、「何故増えるのか?」「どう増やすのか?」といったことを考えて決めなくてはなりません。「これでは時間が足りない!」ということで、チーム内で意見が一致し、分業体制を敷くことになりました。そのため、私たちはフェスティバルづくりの時間のほとんどを、「『すぱっくん』を紙に書いて量産するグループ」、「『すぱっくん』人形を高いところから落とす仕掛けを作るグループ」、「出し物を行うグループ」、「このフェスティバルがどういうものなのかを考えるグループ」の四つのグループに分かれて過ごしていました。

 

作業は制限時間のギリギリまで続きましたが、最後の最後でフェスティバルのコンセプトが決定しました。『すぱっくん』が劇場のキャラクターであることや、その特徴的なビジュアルから想起されるイメージから、『すぱっくん』を「芸能と縁結びの神様」と見立て、「そのご神体を年に一回取り換える儀式」というものです。そして、「参加者は全員『すぱっくん』の被り物をして、第三の目でご神体を見ないといけない」という決まりができたことで、『すぱっくん』が増える理由ができました。儀式のイメージがなんとなく全員で共有できたことから、それまでバラバラだったグループの作業が一気にまとまって、自然と厳かな雰囲気になり、無事にフェスティバルは完成しました。

 

静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ vol.3『フェスティバルと私→たち』 劇場キャラクターの「すぱっくん」を祀るフェスティバルを一緒に作った面々

静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ vol.3『フェスティバルと私→たち』
劇場キャラクターの「すぱっくん」を祀る厳かなフェスティバルを一緒に作った面々

 

結果的には、分業体制が功を奏してこのフェスティバルが完成したので、メンバーの感想としては「早めに作業してよかった」というものが多かったのですが、個人的には、最初に「このフェスティバルがどういうものなのか」という明確なイメージを共有しないまま『すぱっくん』を量産してしまうことには不安を感じていました。実際、分業しているときは、誰もこのフェスティバルがどういうものになるのか分からなかったはずです。しかし、それぞれがお互いの様子を見ながら、このワークに取り組んだことから不思議な一体感が生まれ、結果としてきちんと打ち合わせたわけでもないのに厳かな雰囲気が自然に生まれてきたことは、考えの違う他者と協同していくことの難しさと、一体となった時のエネルギーの大きさを両方実感できた不思議な出来事でした。

 

「話し合いをする場」をもう少し身の回りに作ってみよう

社内ミーティングの様子

社内ミーティングの様子


合宿ワークショップは非日常的な経験ではありますが、この頃、私は「人と話をして考える機会が、もう少し身の回りにあったらいいのに」と思うようになっていました。制作塾の仕事と関連付けて、そういった機会を通じて「より多くの人が自信を持って楽しく働いていけるようになるのではないか」と思ったのです。

 

そこでまず企画したのは、舞台芸術に関わっていきたいと考えている学生と行う、キャリアをテーマにしたワークと座談の会です。多くの人が、卒業・就職を前に進路について悩むものだと思いますが、制作塾では、新卒での舞台関係への就職や、所属団体の継続方法についての悩みが多く寄せられます。
こういうとき、友達同士で愚痴を言い合うことは多いだろうと思います。また、制作塾ではゼミの中で舞台制作に関わる仕事について、いろいろな観点から講義を行ってきました。しかし、同じ志を持つ者同士で自身の状況や悩み、人生設計についての考えを共有する機会は、あまり作ってこなかったことに気が付きました。舞台制作の仕事には横のつながりも不可欠ですので、自身の将来について考えるだけでなく、仲間づくりの機会にもしてほしいと思い、実施することにしました。

 

これに関連して、社内の同年代のメンバーを集めて、キャリアに関するワークショップを密かに実施してみました。学生を対象にした会の試験実施という形で、参加人数はごく少数でしたが、普段は話題にのぼらないような仕事、生活、人生に関する話をすることができ、仕事や組織に対する見方も様々であることが分かりました。

 

もう一つ、最近「パワーアップキノコミーティング」という活動を始めました。これは、社内のメンバーが手元のタスクから離れて思考の余剰を作り、仕事を別の角度から見たり、より深く考えたりすることを通じて、パワーアップを図ろう!というミーティングです。ゲームに登場するアイテムをモチーフにして、仕事に対するモチベーションを上げたり、より良い仕事をつくったり、やりがいを持って働いていけるようにしようという意味で名づけました。同じ会社の中といっても、部署が違ったり、立場が違ったりすれば同じ土俵で向かい合うことが難しい場合がありますし、スタッフの一人ひとりが抱えている事情や、大切にしていることもそれぞれ違います。だからこそ、考えややりがいを共有したり、関心を広げたりしながら、それぞれが最大の力を発揮できるような職場環境を目指して、まさにスタートしたところです。

 

このように、昨年から色々な形で対話型ワークショップの手法に注目し、取り組んできました。未だに、人の話をよく聴けなかったり、話し合いやすい雰囲気を作っていくことが難しかったりもしますが、幸い肯定的に受けとめてくれる人たちに囲まれて前向きに進んでいけています。まだまだ途上のことも多いですが、これからも機会を見つけて、ワークショップのことを勉強していきたいと思います。

 

静岡から社会と芸術について考える合宿ワークショップ vol.4
「アートで民主主義をジブンゴトに変える」

 

日程:2015年11月7日(土)~9日(月)
場所:静岡芸術劇場、舞台芸術公園
締切:10月16日(金) ※定員20名。達し次第締切。

 

記事内でご紹介した「合宿ワークショップ」のvol.4が開催されます。募集要項は劇場のウェブサイトをご覧ください。

2015年10月08日 スタディノート