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制作者は店長?ウエイター?――経営者と運営スタッフのどちらが必要か、どちらになりたいか

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11月11日に行った「制作塾オープンサロン」では、「アーティストと制作者が出会うためには?」をテーマに話し合いをしました。私たちはこれまで、「制作者を探しているが見つからない」というたくさんのアーティストの声を聞いてきています。その一方で、「制作を仕事にする」ために、何人もの制作者志望者や若手制作者が制作塾に集まってきました。両者はなぜ、うまく出会うことができないのでしょうか。それは、アーティストが「制作者に任せたい仕事」と、若手制作者が「今できる仕事」との間に、齟齬があるからかもしれません。今回のゲスト・斉藤努さん(ゴーチブラザーズ)から聞いたお話をご紹介したいと思います。

 

アーティストが求める職能は、経営能力か?運営能力か?

斎藤さんは、劇団や公演の運営は、飲食店経営に置き換えられると言います。例えば、演出家は作品を作る人なので、レストランではシェフにあたります。俳優は実際にお客様が観るもの=食べるものなので、食材です。照明や音響などのテクニカルスタッフは、パティシエやソムリエ。公演の企画立案、予算管理、宣伝・広報、所属俳優のマネジメントなどの役割を担う制作者は、店長(マネージャー)にあたります。そして、公演当日に劇場で受付や場内整理などのを行う運営スタッフは、ウエイターやウエイトレスです。

 

「舞台制作」という言葉は、団体や公演に関する様々な職能を指す総称のような言葉なので、私たちは日頃、この例でいうところのウエイター/ウエイトレスのことも「制作者」と呼んでいます。しかし、アーティストが「制作者を探している」という場合の「制作者」が、マネージャーなのか、ウエイター/ウエイトレスなのか、ということは、はっきりさせておかなければなりません。

 

例えば、大きなレストランを作りたいのなら、規模が大きい分、経営に専念するマネージャーが必要になってくるでしょう。しかし、世の中には、屋台のラーメン屋さんのような小さな営業形態のお店もあります。屋台の場合、ラーメンを作る人が店の切り盛り役も兼ねていることが多く、だからといってそれが悪いわけではありません。こういったラーメン屋さんのように、アーティストが制作業を兼ねながら活動をする場合には、公演当日に観客を迎えてもてなすウエイター=当日運営スタッフが必要です。制作者を探しているアーティストは、自分がどのようになりたいのか、どのような団体を作りたいのかを考え、それにふさわしい職能を持つ人を探す必要があります。

 

マネージャー型?ウエイター型?制作者の将来ビジョン

アーティストが「制作者を探している」という場合の「制作者」は、前述の例でいうところのマネージャーである場合が多いというのが、私たちの今のところの実感です。「作品を理解してくれている人にお願いしたい」と言うアーティストはたくさんいます。

 

しかし、ここで問題になるのは、「マネージャーを務められる人にはどこで出会えるのか」ということです。じつのところ、経営を担うことができる制作者は、未だ少ないのが現状です。それには、環境が大きな影響を及ぼしていると斎藤さんは指摘しています。

 

2000年代以降、舞台制作を取り巻く環境はずいぶん改善されました。大学でアーツマネジメントを学べるようになって舞台制作そのものへの敷居が下がっていますし、ボランティアが主流の当日運営でも、仕事内容によっては対価が発生する場合も増えています。そのために、経営まで勉強しなくても、当日運営の仕事だけで生活できる制作者も出てきているのです。若手制作者や制作志望者は、そういう先輩をモデルに将来のビジョンを描くので、自然と経営よりも当日運営のノウハウやホスピタリティに重きを置くようになります。

 

「では、対価を支払っていけば経営能力を身につけた制作者が育つのか」と、アーティストは思うかもしれません。確かに、対価が支払われれば、制作者はそれ相応の努力を積まざるを得なくなります。ただし、必ずしも順調にマネージャーが育つという保障はありません。当日運営のお手伝いの経験しかない制作者が、突然劇団全体の運営を任されても、何をしていいのか分からずパニックに陥ってしまうかもしれません。

 

このような話を聞いて私が思ったことは、どんなキャリアビジョンを描くにせよ、自分は今何ができるのか、これから何をしていきたいのかを、できるだけ具体的に考えることが第一歩なのだということです。そして、団体・組織内で仕事のトレーニングを受けられない立場、つまりフリーランスの制作者や、先輩制作者のいない団体で制作を担う人ほど、どんな仕事をすればいいのか、何が必要なのかを自分で考えて、準備しなくてはいけないのだと思います。

 

ここでは、マネージャーと当日運営(ウエイター/ウエイトレス)という言葉を扱いましたが、今私たちが「制作」と呼んでいる仕事は、これだけではありません。単発のプロジェクトなのか、劇団なのか、劇場なのか、制作会社なのかによって、制作の仕事内容は全く違うものになる場合もあります。

 

「仕事には正解がない」ということは、いろいろな場面で言われる言葉です。これは難しいことでもありますが、決まりがないからこそ、「こうしたい」という具体的な希望を持って取り組むことで、他にはないような、自分に合った働き方をしていくことだってできるかもしれません。

 

とはいえ、何事も言うは易く行うは難し。我が身を振り返ると、「こうしたい」という具体的な希望を持つことも、案外難しいことだと思うのです。制作塾の講座やこのブログが、少しでもみなさんのキャリアプランニングのヒントになるよう、これからも情報を発信していきたいと思います。(斉木)

2013年12月13日 スタディノート