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【三好ゼミ連続ブログ】最終週「合理的な考え方、効率的な働き方」

更新がすっかり遅くなってしまいました。三好ゼミの様子を紹介してきた連続ブログは、今回が最終回です。最終日のゲストは、三重県文化会館の松浦茂之さんです。

三重県文化会館での演劇事業について

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現在、三重県文化会館では主催公演として、若手劇団や若手劇作家・演出家を紹介する「Mゲキ!!!!!セレクション」という事業を行っています。開館当初はクラシック事業を中心に展開していた三重県文化会館で、演劇が盛りあがるようになったのは、いくつかの成功要因がありました。

 

「三重県文化会館は楽屋への宿泊ができる」
舞台関係者の間で、このニュースは驚きをもって迎えられました。22時退館が当たり前と思われていた公共ホールでは画期的な試みです。地方公演の場合は、交通費と宿泊費の負担が一番大変なところ。三重県文化会館では、この宿泊費を浮かせることで、他の地方のカンパニーが三重公演をするときのリスクを減らしています。
 

また招聘されたカンパニーは、公演終了後も三重県文化会館と腰を据えたつき合いをしている傾向があります。劇団主宰者から制作者に、次も三重で公演がしたいというリクエストが入ることもしばしばあるようです。

 

これは宿泊をはじめとして親身に接してくれること、そして劇場自体に集客力があることが大きな理由だと思われます。実際のところ、三重県文化会館での公演を行ったカンパニーから話を聞くと、「そこで公演できたことを誇りに思う」という趣旨の言葉を聞くことが多いのです。
ところで、演劇だけで、年間10本の主催公演を抱える三重県文化会館。限られたスタッフ数で細かなケアをしながらこれだけの公演を打つためには、どんなスキルが必要なのでしょうか?

 

どのビジネスでも共通するスキル

三好さんと松浦さんは二人とも、演劇以外の業種で働いたキャリアを持っています。この日の講義の中で松浦さんから、ビジネススキルが足りないことが原因で合理的な仕事ができずにパンクする人が小劇場の制作者には多い印象がある、という指摘がありました。

 

「演劇に詳しいというのは、言ってみれば商品知識に詳しいということ。実際に劇団をやるとか、劇場で演劇ファンを作るにはマーケティング全般を知らないといけない」

 

企画する力、交渉・折衝する力、営業力…。どのビジネスのベースにもなる力が制作者には必要です。

 

三好さんからも、「企画内容を相手に伝えるときでも、『作品が面白いんです』じゃあ通用しない。作品をつくるときにもある程度のコツをつかめば、無駄足を踏まずにすむ」という言葉があり、印象に残っています。

 

また、可能性を感じるタイプの制作者とは「長くやれそうな人」であると松浦さんは言っています。逆を言うと、いつも疲弊している人の場合には、厳しいということになります。これは業種・職種を問わず共通していると思います。

 

では、舞台制作という仕事の特性を踏まえ、かつ疲弊せずに続けていけるには一体どのような方法を知っておく必要があるのでしょう?

 

「合理的な考え方、効率的な働き方」とは何か?

この日の講義テーマは「合理的な考え方、効率的な働き方」。三好さんと松浦さんは共に、自身の仕事の中で「分析とゴール設定」を繰り返し行っている、と語っています。

 

「ゴール」とは、必ず達成しなければならない具体的なもの(数値等、測定や評価が可能なもの)を指す言葉と考えるのが良いと思います。三好さん・松浦さんからは具体的な例をもとに、いくつかの考え方のポイントの説明がありました。箇条書きで、幾つか挙げておきたいと思います。

 

 ・ゴールから逆算して手順を組むこと

 

 ・仕事は分解できる(タスクブレイク)
 →目的が分かっていないとタスクブレイクはできない。
 →例えるならば「パンにバターを塗る」という位、これ以上分解できないというレベルまで具体的な内容になるまでタスクを分解する。

 

 ・タスクブレイクができるかどうかと、報・連・相ができるかどうかが、作業水準を高く保つために必要なこと

 

 ・ルーチンワークはブレーン役の人に集中しない方が良い

 

「コツをつかむことができれば、作業時間が減って、安心して眠れたり、プライベートの時間をきちんととれるようになる」と三好さんは語っています。

 

また講義では受講生に対し、松浦さんが作成したゴールから逆算された公演設計シートが見本として配布されました。三好さんや受講生からは、このシートの内容で重要と思うポイント、良いと思うポイントが、次々と指摘されました。特に印象に残っているのは、なかなか進捗を報告してくれないスタッフに仕事を任せる場合、有効なツールともなるという指摘です。特に進行が順調ではない場合、状況を本人に自覚させ、上司などの関係者が状況を監督できるようにすることが期待できるのではないかと思います。

 

この他にも、キー・ファクター・フォー・サクセス(ゴール・目的達成のための成功の鍵となる要因)についてや、作業環境を良くするためのサイボウズなどのグループウェアの活用方法(スケジュールの共有、電子会議室等)についての説明等がありました。

 

アーティストと制作者の関係、公共ホールと劇団の関係について

アーティストに長く作品を作って欲しいと思ったとき、何が出来るか。それこそが制作者の仕事である。講座を通じ、三好さんからはこの話が幾度か出ています。

 

団体主宰者がアーティストである場合、プロデューサータイプの主宰者か否かによって、制作者の役割や必要となるスキルは変わります。特にクリエイションに専念したいタイプのアーティストのマネジメントをするときには、ビジョンを一致させて、同時に我慢してもらうところを作ることや、我慢することを共有できるようにしていくことが必要です。

 

全国の公共劇場にとって、お客さんを呼ぶという点で劇団とは一蓮托生の関係です。どの劇場が、誰とどんな仕事をしているのかについてアンテナを張っておくことも、カンパニー制作者にとっては重要といえるでしょう。

 

状況を変えて行くために

三重県文化会館では、「みる、つくる、参加」という3つの演劇への携わり方を提唱しています。
松浦さんはこの3つの関係について、「どこかに属するのではなく、『みる』人が『参加』する、『つくる』人が『みる』というように、この3つを移動する人を作りたい」という言葉がありました。

 

そのためには、三重県文化会館の中で完結せず、津という都市、三重県全体で考えてアクションしていくことが必要だ、とも話されています。建物としての劇場というだけでなく、三重という地域でのミッションを考えた、画期的な動きが、三重で起こりつつあると感じます。

 

しかし、このような状況は始めからあったわけではなく、そこに至までには意識改革があったとも松浦さんは語っています。組織全体が、役所論理はおかしいという雰囲気になってきたから、新たな試みが生まれてきたのです。人を変えていく、味方につけていくために必要なことについて、松浦さん、三好さんそれぞれから体験に基づく話がありました。とても言葉に重みがあり、記憶に残っています。私の文章ではなかなか伝わりづらいのですが、特に印象に残ったポイントだけでも、いくつか書き残しておきたいと思います。

 

 ・成功体験を相手と一緒にすることで、相手を納得させていく(三好さん)
 ・常に相手とディスカッションし続ける。そのために、眼力・オーラが必要!(松浦さん)
 ・新しい試みについては、まず実験をしてみること(松浦さん)
 ・厳しく楽しくという絶妙のバランスを作る(松浦さん)

 

講座を終えて

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最終回ということもあり、最後には受講生の中から数名のメンバーが、制作塾で学んだこと、今後の目標についてのプレゼンテーションを行いました。

 

講義終了後、受講生からはこんな声があがっています。

制作としてどのような仕事をやる必要があるのか全く分からないまま参加させていただきましたが、実務的にもマインド的にも合理的なお話をたくさん聞けて、ぼんやりしていた仕事像が大分リアルになりました。 やらなければならないことはたくさんありますが、1つ1つ整理して積み上げていきます。(劇団制作者/女性)

 

好きなだけで進んできた制作の仕事ですが、やはり好きだけでは越えられない壁にぶつかるようになっていました。そんなときに、この講座に出会えて、客観的に自分を見つめなおせたことは、とても貴重な時間がおくれたと思います。(イベント制作者/女性)

 

出席したすべての講座が、とても知的で刺激に溢れ、きびしく楽しかったです。(劇作家/男性)

 

ビジネスの感覚が大事だとわかった。今の自分に必要なものが見えてきました。(制作志望者/男性)

 

実務面とその他の面のバランスがとても良く、刺激が多い1か月でした。これからを今後どう行動に移すのか、が一番大切になると思うので、しっかり行動に移します!!(演出家/女性)

これで制作塾・三好ゼミのレポートは全て終了となります。なかなかこのブログだけでは追えていないところも多いのですが、参加されていない方には制作塾の活動の紹介として、講座参加者には振り返りの一環として、部分的ではありますがレポートとして残させていただきました。この講座で得たことを、皆さんそれぞれの現場で活用するとともに、関心を持ったことについて、さらに学びを深めていっていただければ、非常に嬉しく思います。(藤原)

2013年12月16日 講義・セミナーレポート