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【サロンレポート】「アーティストと制作者が出会うためには?」(13/11/11開催)

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11月11日、制作塾の新しいイベント「オープンサロン」の第一回を開催しました。オープンサロンは、舞台制作にいろいろな形でかかわっている人々が集まり、身近なテーマについて話し合うサロンです。これまで制作塾で行ってきた講座では、制作の知識や実務ノウハウなどを、第一線で活躍する制作者が受講生に伝授する形を採ってきました。その中で、受講生同士での意見交換をしたい、制作塾に来ていない人からも意見を聞きたいという声が、次第に上がるようになってきました。これから、こういった機会を2か月に一回程度設けて、気軽な話し合いを行っていきたいと思います。

 

第一回は、「アーティストと制作者が出会うためには?」をテーマに掲げ、アーティストが求める制作者、制作者が求めるアーティスト、そしてアーティストと制作者の関係性を軸に話をしました。参加者は15人。演出家、振付家、俳優といったアーティストがおよそ半数。残りの半数は、現役制作者や制作志望者、学生などの方々です。ゲストは、制作者の斎藤努さん(ゴーチブラザーズ)。

 

参加者から、事前に「ゲストや他の参加者に聞いてみたいこと・相談したいこと」を募っていましたので、当日はその内容に沿いながら、斎藤さん自身のお話を聞いたり、参加者が今現在直面している問題について話し合いをしたりしました。ここでは、今回の話の中で興味深いと思ったトピックをいくつかご紹介したいと思います。

 

制作者は何を求めてアーティストと出会おうとするのか

学生参加者のこの質問から、サロンはスタートしました。斎藤さんは、現場に多くの若手制作者を受け入れてきている経験から、「制作者のスタートラインは、好きな劇団やアーティストの公演のお手伝いである場合が多い」と話します。好きな作品にかかわりたい、好きなアーティストのもとで働きたいという場合、「アーティストとの出会い」そのものの難しさはありません。しかし、出会った後に問題になる場合があります。

 

若手の制作者がお手伝いを経て知識をつけたり、仕事を覚えたりして、いざ制作担当者になったとき、自団体の作品のよくない点に気付けるかということは大切なことです。作品が好きであることは、作品のセールスポイントが分かるという点で大きなアドバンテージになります。しかし、盲目的に「面白い」というだけでは、続けられなくなる場合もあります。

 

例えば、団体やアーティストが「伸び悩みの時期」になった時。何故そうなったのかを客観的な視点で見ることができれば、アーティストが活動を継続していくための手段を考えられるようになりますが、「面白い」という思いだけでは、どうしたらいいのかわからなくなってしまうかもしれません。

 

そして、何かよくないことがあった時に、アーティストと対等に話ができるかどうかということも大切です。アーティストにしてみれば、制作者は自身の活動を好意的に受け止めている人だったはずなので、否定的な意見に抵抗感があれば、一緒に仕事をしていくことが困難になるかもしれません。客観的な視点を持つこと、そしてアーティストと対等に話ができる関係を作ることが、この場合に大切になります。

 

舞台全般への関心と舞台制作の仕事、収入、ボランティア

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一方で、最近は「舞台芸術が好きだから、それにかかわる仕事がしたい」という人も増えています。この日は、会社勤めなどで社会人経験を積んでから、舞台に軸足を移そうという人が何人か参加していました。

 

そのうちの一人のお話を聞くと、「今はいろいろな公演の当日手伝いや制作者のサポート、商業公演のアルバイトをしているけれど、制作業務の全体像がまだ見えておらず、企画立案に関わる部分には達していない」とのこと。そして、「グッズが売れている現場ではアルバイト代が出るけれど、手伝いはほとんどボランティア」という厳しい現実にも直面しているようです。

 

アーティストや団体に深くかかわっていかないと、制作の全体像は見えにくいものです。また、特定のアーティストや団体をサポートしたいと考えていない場合、コネクションなしの状態から、ある程度の給与が保障されている制作の仕事に就くのは難しいことでもあります。

 

斎藤さんは、「舞台にかかわりたい人の中にも、制作志望者と、ただ純粋に舞台に関わりたい人の二種類がいる」ことを指摘しています。特に近年は、国際芸術祭やアートによるまちおこしが注目を集めており、アート分野でのボランティア人口が増えています。公演が集中している首都圏では、公演のお手伝いはボランティアという場合が多いのです。

 

少し話が変わりますが、「ダンサーのワークショップ(WS)収入の可能性」を話題に挙げた参加者がいました。近年、舞台芸術の手法を使った一般向けWSは、公共ホールのアウトリーチ活動などでさかんに行われています。しかし、WSは「WSをする技術」がないとうまく進めることができません。この参加者は、「WSの技術を磨くWS」を行っていると言います。

 

別の演出家からも「ノウハウがないので、学校WSの依頼を断った」という声が上がりました。アーティストが仕事を獲得していくことで、他のセクションにも報酬が支払われる可能性は十分にあり得ます。こういった、「舞台芸術とお金(報酬)」、「舞台の現場でのボランティア」といったトピックも、今後継続して話し合っていきたい内容です。

 

制作者になるために、学生のうちにやっておくといいことは?

質問者は、大学で演劇サークルに所属している制作志望の学生です。Webを使った宣伝や広報に興味があるそうですが、サロンに参加をして、現場を知ることも大切だと感じたそうです。これについて、様々な立場から意見やアドバイスが出ました。

 

「制作インターンでは思っていたより現場を知ることができなかったので、実際に制作業務をやるしかないのではないか」という意見を言ってくれたのは、現役大学生の参加者です。インターンプログラムは受け入れ先によってさまざまなので一概に「現場を知ることができない」とは言えません。けれど、もし身近な先輩などに経験者がいれば、自分が考えているようなものなのか、応募する前に聞いてみたほうがいいと思います。

 

現役の制作者からは、「就職する」というアドバイスが出ました。この参加者は、卒業後すぐに制作業務に就いたそうですが、「一般企業などのいわゆる新人研修を受けていれば、もっと早く事務能力を身につけられたと思う」とのこと。社会人経験が舞台制作の現場で役立つことは、今夏に行った三好ゼミでも度々話題になりました。斎藤さんも、「就職して何を学べるかは個人の意識次第だけど、『新卒』を使えるのは一回だけだから、使っておいてもいいと思う」とコメントしています。

 

このほかに、学内イベントの運営委員になる、遠足や飲み会を率先して企画するなど、比較的取り掛かりやすい意見も出ていました。あまりに身近なことなので見落としがちですが、確かに、企画立案や運営を行う力を培うためのいい方法です。

 
 

オープンサロンではこのように、参加者から出た質問や意見をもとに、メインテーマ以外にもいろいろなことを話し合っていきたいと思っています。次回は、12/26(木)19:30~21:30に開催。ゲストに、次期レギュラー講座に登壇する宮永琢生さん(ZuQnZ)をお招きします。詳しくは下記をご覧ください。(斉木)

 

2013年12月09日 講義・セミナーレポート