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【三好ゼミ連載ブログ】第3週―長坂まき子さんとのゲストトーク、予算管理、票券、広報―

こんにちは。少し間隔が開いてしまいましたが、三好佐智子ゼミ第3週の模様をお伝えします。この週は、土・日にかけて4コマ(8時間)の講義が行われました。

 

長坂まき子さんとのトーク

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第3回講義には、大人計画・代表取締役社長の長坂まき子さんにゲストとしてご参加いただきました。劇団として継続して公演を行いつつ、所属している作家・俳優のマネジメントを行われている、仕事のことについて話していただきました。

 

三好さんと長坂さん、二人のポジションの違いは興味深いです。三好さんはquinadaという制作会社の代表として、劇団サンプルをはじめとする松井周さんの活動、ハイバイをはじめとする岩井秀人さんの活動のマネジメントをしています。一方長坂さんは、大人計画の代表として、作家・俳優と一緒の劇団に所属して活動するというスタンスをとっています。

 

少し話が飛びますが、2000年以降の東京では、若手劇団の構成が小規模化していくのに伴い、制作者の劇団への携わり方が多角化して、劇団に所属するだけでなく、フリーの制作者を外注スタッフとして依頼する形が出てきました。これにより良かったのは、制作者の仕事が「劇団の雑用をしてくれるお手伝いさん」という認識から、プロフェッショナルな仕事へと、少しずつ意識が変わってきたことだと思います。複数の劇団に制作として(ギャランティが発生する形で)関わることが、若手の制作者でも出来るようになりました。

 

しかし同時に、劇団と制作者が一緒に育っていくチャンスは減ってしまったというのではないかと思います。劇団の経営と公演の制作業務が分離してしまい、制作者の仕事の分業が進むと、「(失敗も含めて)プロデューサーが団体ないで育っていく」という土壌を作るのが難しくなります。
ただ、構造は全ての原因ではありません。舞台芸術業界の状況は時代によって変わり、その状況の中でできることを最大限に行い、さらに状況自体を変革しようとしている人は沢山います。(そういった人たちを、制作塾では紹介していきたいです)

 

団体との携わり方にしても結局、どちらのスタンスが良いかということからではなく、自分がやりたいことのゴールは何なのかということから発想し、最適な仕事のスタンスを選んでいくことが何よりもまず大切なのだと思います。

 

話を講義内容のことに戻すと、受講生からさまざまな質問が飛び交い、普段なかなか聞く機会がないであろう、営業についてのエピソードなどを聞くことができました。今では舞台だけに留まらず、映画・ドラマなどでも大活躍の大人計画メンバーですが、その開拓期に長坂さんがネットワークをどのように作ってきたのかを伺ってみると、いかに合理的に考えられてきたのか、ということがよく分かります。

 

もう一つ印象に残ったのは、ワーク・ライフ・バランスについての話です。仕事とプライベートとをどのように区別するかについて悩む制作者の人はとても多いと思いますが、この日の講義では「主軸は家庭」と語る長坂さんと「幸せになるための仕事をする」と語る三好さん、二人の考え方を聞くことができました。

 

私なりにまとめると、制作者のワークライフバランスを考えるときのヒントとなるのは、

 

 ◆ 作家・演出家・俳優・テクニカルスタッフなど、それぞれの人の職種がまず違うということを前提としておくこと
 ◆ 成果を大切にして、合理的で最適なプロセスを立てる(ある一定時間でできる最良の成果を考えて導き出し、行動すること。これは三好ゼミ第9回「合理的な働き方」でもテーマとなっています)

 

…といったことなのだと思います。

 

やろうとすると際限がなくできる仕事だからこそ、物差しを作ること、そして一番重要なのは、その物差しを一緒に仕事をする人と共有することなのだと感じました。この他にも、スタッフに求める適正の話についての話など、様々な話がなされた、充実した2時間となりました。

 

最後に、長坂さんの著書を2冊、紹介したいと思います。

 

『大人計画社長日記』(太田出版)
大人計画との出会いから、マネジメントの仕事のこと、公演のピンチのことまで、赤裸々に綴られた最初のエッセイ。阿部サダヲさんが本番に大遅刻してきたときのエピソードは必見です。

 

『産んじゃえば?』(幻冬舎)
仕事と子育ての日々について書かれたエッセイ。特に、仕事と家庭の両立に悩む制作者の方にはお薦めします。

 

予算管理について

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長坂さんの講義終了後、土曜日の後半は予算の管理についての講座です。「予算を立てるとは、予算を守ること。予算を守らせることが制作者の重要な仕事」という言葉が出て、気が引き締まります。

 

三好ゼミでは、講義と同時進行で、受講生は課題に取り組んでいます。この予算管理の回でも、前の週に作った企画書をもとにした予算作成の課題が出されていて、講義の最初に受講生には結果が返されました。企画を予算にしたときに実現性が急に乏しくなってしまった人や、いつも自分の団体で予算オーバーをしてしまう人もいるようで、講義の中では「こうやったけれど上手くいかずどうしたらいいか」といった具体的な内容の質疑応答が相次ぎました。

 

予算管理とは、収入と支出、2つのコントロールのことです。支出については、出来るだけ最初からクリアにしておくことの利点(各関係者も制作も仕事がしやすくなる)や、逆に各予算がフィックスしないことのリスク、必要経費を考えていくコツについてが語されました。(収入については次回の講義、票券管理の回で語られます。)

 

自分たち自身の企画制作費や運営費の計上について「グロスでの○○万円」という形で受注することや、そこに関係性などでの割引を要望されたときについての考え方について、インパクトのある話がされました。

 

また助成金についても、助成金が拠出される根拠(裏を返すと、助成金が出ない場合の理由)についても、話題となりました。特に近年は、公的助成に関するトラブルを防止するために、全般的に会計の透明性が求められるようになっています。「支出を明確にすること」の重要性についてもまた、講義では述べられました。

 

票券について

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翌日の第5回では、本講座のアシスタントもしているquinadaの冨永直子さんがゲスト講師を担当され、票券管理について講義が行われました。

 

票券の仕事は、特性上、テクニックと経験が重要になる仕事です。この日は受講生が提出した配券の課題のフィードバックと、そして具体的な票券の仕事についてのレクチャーが行われました。告知・配券・営業・前売券の特長・発売日決定とスケジューリング予約管理システムとプレイガイドの比較・週報による販売管理・見切れ席や事故席の準備・指定席を増やす理由など…。

 

票券の仕事の特性として、テクニックと経験が重要になり、かつ外注が可能な仕事のため、制作志望者にとっては、出来るだけ早く身に付けた方が良いスキルであるという話が出ました。冨永さんは一般企業で長く働いてきたキャリアを持たれている方で、その経験が制作の仕事をされるときにも、スキルとして活かされています。例えば票券の現場に落とし込むと「お客さんが次の公演も見に来たいと思ってもらえるようにする」という目標を達成するためには、適切なコミュニケーションが必要となります。こういった能力や、仕事の進め方・考え方は一般企業で仕事をしてきた人が制作の仕事をするとき、強みとなることが多いと感じます。

 

(と書くと、一般企業で最初に働くことが良いという結論のように映りますが、決してそういうことではないと思います。まず大切な第一歩は、自分自身の長所と弱点を自覚して、かつ、ある程度客観視できることだと思います。自分に足りないものは何か、仕事として勝負できるものは何かを、傲慢にも卑屈にもならず、謙虚に知って成長しようとすることから、キャリアは始まるといってもよいのではないでしょうか)

 

広報について

第6回は、広報の定義から講義が始まります。広報(Public Relations)の目的とは、社会との関係性を向上させること。キーワードとしては「世論」「公的な信頼・理解」といった言葉が出てきます。関係の円滑化を通じて、自分たちの価値を高め、維持し、下げないための活動です。また、それを大きく揺れ動かすもの(不祥事・事故・スキャンダルなど)からのダメージを最低限に抑える(リスクマネジメント)活動であると言い換えることも出来ます。
 

それを支えているのは組織の倫理観、社会性です。組織の倫理観はプロデューサーから発信されることが多く、つまりはプロデューサー自身の倫理観が絶え間なく問われているとも言えるでしょう。

 

これら基礎となる考えを学んだ後、広報と広告の違い・「インフルエンサー」の存在・発行物からみるブランディング・webサイトで注目すべきこと等について、見ていきました。

 

例えばwebに関しては、受講生の団体のサイトを全員で実際に見たときの感想(何を知りたいか、知りたい情報が見つかるか)を出し合って、ディスカッションを行いました。

 

企画書の講義ともつながりますが、「自分のやりたいことが相手(受け手)に伝わっていない、逆に自分(受け手)が必要としていることが、相手が分かっていない」といった齟齬の存在に気づき、いかに結びつけるかということを、この講座の中ではトレースしていたのではないかと思います。

 

次回はマームとジプシー制作の林香菜さんによる講座「オリジナリティの考え方」についてのレポートを掲載します!(藤原)

2013年09月12日 講義・セミナーレポート