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【三好ゼミ連続ブログ】第4週「手間を惜しまず人と関わる」―オリジナリティの考え方―

7/27(土)の講義は、特別講師・林香菜さんによる「オリジナリティの考え方」前後編。舞台芸術の内外から注目を集める団体「マームとジプシー」の劇場規模の変遷と動員の持続、そしてマーム独特の「手触り感」の作り方について、語っていただきました。

 

「動員を持続してきた理由」を理解していることの重要性

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マームとジプシーについてまず注目したいことは、2010年2月の公演以降、ほぼ全ての公演で、前売りチケットの予定販売枚数が終了していることです。今年8月に東京芸術劇場で上演された『cocoon』では、チケット発売日から三日間で予定販売枚数が終了したため、急きょ公演期間が延長になるという異例の事態が起こりました。どうして、マームの公演には人気があるのでしょうか。

 

三好さんは、「『動員を持続してきた理由』を理解していること」が、現在に至るまでの勝因に繋がっていると分析しています。

 

マームとジプシーは、Twitterのブームと共にブレイクしていった団体です。影響力の強い人に、観てもらいたい作品を観てもらえたこと。そして、その影響力の強い人のTwitterでの発言が、人々の関心を集めたことは非常に大きな要素でした。「こまばアゴラ劇場での予約販売枚数が終了したらしい」という話が広まれば、演劇情報をチェックしている人なら確実に興味を持ちます。さらに、マームは、同世代=Twitter世代の人々の共感を呼ぶ作品作りをしています。こういったことを、制作サイドが理解していたことが、勝因に繋がっているということです。

 

Twitterだけでなく、マームはF/T10公募プログラム、KYOTO EXPERIMENT 2010 フリンジ企画HAPPLAY、芸劇eyes番外編『20年安泰』、TPAMなどに戦略的に参加。プロデューサーや劇場担当者などの舞台関係者に知ってもらうことで、各地の公共劇場や海外での公演機会を着実に掴んでいます。

 

手間を惜しまずに人と関わり続けること

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マームについて注目すべきもう一つの点は、講義タイトルにも掲げているオリジナリティです。
マームの作品にある独特の「手触り感」、「ハンドメイド感」の秘密を、三つ聞くことが出来ました。

 

一つ目は、メンバーの在り方です。マームとジプシーの作品に関わる俳優、テクニカルスタッフ、宣伝美術は、これまでほぼ同じメンバーに依頼をしているそうですが、この中には、マーム以外では全く舞台の仕事をしていないスタッフもいます。彼らは、一般的な意味でのプロ(技術的な専門家)ではありませんが、マームの色を作り出す重要なセンスを担う「マームのプロ」であり、彼らのマインドは劇作家・演出家である藤田貴大さんの作品には欠かすことのできないものです。

 

二つ目は、公演で配布される個性的なハンドメイドの当日パンフレット。俳優の青柳いづみさんがデザインしたものを、林さんを中心に本番中ずっと作成しているそうです。青柳さんもまた、プロのデザイナーではありませんが、お客様へのおもてなしのために、スタンプ、エンボス加工、刺繍などの手間をかけて手作りしているといいます。

 

三つ目は、他のカルチャー・芸術作家との創作。2012年の5~7月に行った「マームと誰かさん」シリーズでは、大谷能生さん(音楽家)、飴屋法水さん(演出家)、今日マチ子さん(漫画家)と共作しています。「なぜ一緒にやりたいのか。なぜこれをやりたいのか」をしっかりと話し合い、作家同士がお互いを尊重し合いながら創作するには非常に手間がかかりますが、だからこそ、独特の筆圧が生まれます。共作を経て、藤田さん自身の世界も広がり、演劇作家としてのアイデンティティを考えさせられるものにもなったそうです。

 

ひとつひとつの事例は、受講生自身の活動に置き換えた時に、参考にできないことも出てくるかと思います。しかし、この三つに共通することは、「手間を惜しまずに人と関わり続けること」だと思います。

 

先に動員力について述べましたが、マームの客層は、演劇ファンだけではなく、他のカルチャーのファンが多いように見受けられます。これは、他のカルチャーの作家との共作をきっかけにマームの公演に足を運んだ人々が、こうして生まれているマームのオリジナリティに心惹かれた結果なのだと思います。

 

オリジナリティというと、何か斬新なアイディアかと考えがちですが、人との関わり方が団体のオリジナリティ、そして動員にさえ繋がっていることを知ることができた講義でした。(斉木)

2013年09月17日 講義・セミナーレポート