制作ニュース

第1回ゲスト:三好佐智子(有限会社quinada代表/「サンプル」「ハイバイ」)

12.02/01

主宰劇団での挫折と、松井周、岩井秀人との出会い

――スロウライダーでの活動はどのようなものだったんでしょうか?

スロウライダーはその時点で7年活動をしていて、私が辞める公演が10本目だったんですね。ペースとしては1年で1~2本の上演をして、徐々にレギュラーの俳優が固まってきていて。ただ観客動員が(私が)思うようには伸びず…。いや、動員というより、これは旗揚げ間もない劇団なら大抵経験することですけど、助成金がとれても小額だし、劇場費が掛かるのでずっと赤字だったんですね。出演者や制作や劇作家にギャラを発生させることはなかなか出来ないことで、最終的には「動員が伸びないのは、私と作家のどっちがいけないのか?」ってところにまで2人が追い込まれていきました。私自身は「自分のせいだ」って思っていたんですけど、それすらも相手には「当てつけ」のようにみえたかも。その精神的な追い込まれ感がきつかったですね。人間関係もだけど、自分の能力が足りないというか、どう頑張っても状況が好転しないという「現実」が苦しかったです。9本目にやった『Adam:ski(アダムスキー)』(2007年)という作品が自分にとってはとても面白い作品だったけれども、動員は1000人に満たなかったし、戯曲賞の候補にもならなかった。評判にもならなくて次に繋がらなかった。それで、「これはもうどこにも打開策が見い出せないな」っていう「現実」を突きつけられた気がしました。

――退団後も制作を続けていったのはどうしてですか?

その頃には松井(周)さんと岩井(秀人)さんの制作もやるようになっていて、理由はそれだけです。サンプルもハイバイも伸び盛りで、水を与えればすくすく育つような状況だったのが、シンプルに楽しかったです。

――あ、そうだったんですね?お二人との仕事は、スロウライダーを離れてからだと思ってました!

そうなんですよ。スロウライダーを辞める最後の1年は3劇団の制作をやっていました・・・。それでさすがに、OLやりながらでは回せなくなったので会社を辞めました。やっと演劇だけで食べていけるようになったわけですけど、今思えば結構色々なことをいっぺんに決めた壮絶な時期でしたね(笑)。辞めた後の生活より、辞める前1年くらい悩んでいた時期がきつかったです。

――お二人(松井さん、岩井さん)と仕事をすることになったきっかけは?

松井さんの場合は、もともとスロウライダーの劇作家と二人で、彼の作品のファンだったんです。それまでは「制作やりませんか?」という外部のお話は全部断っていたんですが、松井さんからお話を頂いた時に「どう思う?」って彼に訊いて「今回だけはやりたいことをやったほうがいいと思う」って言われたので、思い切ってやってみることにしました。岩井さんの場合は、最初に飲み会で会った時、開口一番「なんか、あんたムカつくな」みたいなこと言われて(笑)、「なにこの人感じ悪いなー」って思ったんですけど、「これ見てみてよ」って渡されたハイバイのDVD(ポンポン初演)がものすごく面白くって、「これはどうしてもやりたい!」って思いました。それからしばらくは「制作協力」という形で、2008年の『て』(駅前劇場)から正式に「制作」として参加することになりました。

――「制作」を受託するかどうかの判断は、作品の“面白さ”を基準にしているんですか?

実際、「劇団を売る」ために制作をやっている部分ってあると思うんですね。そうすると、「その劇に動員できるかどうか?」っていうのは、「脚本の良さ」に極まります。脚本が面白くないものは、絶対に売れないんですよ。そういった意味でDVDからですら、岩井さんには抜群に才能を感じましたね。

――しばらく「制作“協力”」だったのはなぜですか?

岩井さんってすごく個性の強い人だし、私もそれまでワンマンで主宰と制作をやっていたから、自分のやり方を曲げるっていうことがまぁ苦手なんですね。実際、「制作“協力”」だった時期でも相当喧嘩しましたし。それに「サンプル」はたまたま劇団化第一作だったので新しいやり方をやらせてもらえるタイミングでしたが、「ハイバイ」はある程度自分たちで制作をしてきた人たちだから「実績を上げないと認めてもらえないだろう」と直感的に思ってました。

――「実績を上げる」ためにどんなことをしましたか?

「ライターさんとかは誰と仲がいいですか?」って訊いたらいろんな人の名前が挙がったんですけど、それが「線として繋がっていない」印象を受けたんですね。メディアリストが整理されていないな、と。それでまず、「ハイバイのファンを作りませんか?」って提案しました。最初にやったのは、『おねがい放課後』(2007年)の時に、ハイバイのプロフィールが分かる絵本と舞台写真をオリジナルエコバックに詰めた「ハイバイセット」っていうのを作って、来場したライター、編集者、劇評家、劇場関係者などのステークホルダーに「今度制作協力で入った三好です。ハイバイという劇団を改めて知っていただきたくてこれを作りました」って手渡していきました。とにかく「ハイバイのことを覚えてもらおう」という作戦です。それは、ほかの劇団では出来なかったことで、ハイバイの個性に合っていることだからこそ可能だったんですね。結果的にその公演の劇評が後でぶわーっと出たこともあって、岩井さんも「広報って楽しいね」って思ってくれたようで、さらにその次の公演の時には一緒に情宣に来てくれました。「こういう風にしてネットワークを作っていくんだ」ってことに気づいてそれを面白がってくれたんですね。それでその次から「制作をやろうか」って話になったと記憶しています。

――スロウライダー時代とは、アーティストとの関係性がずいぶん変わったように思いますが、それは意識されてましたか?

「結婚してる人と仕事するのって、なんて楽なんだろう」って思いました!

――え?それはどういうことですか?

劇団の頃は、ネタ出しのために泊まり込むとか、深夜に5時間ぐらい電話で話すとか普通にしてたし、完全に劇作家と私は体の一部というか共生してる部分がありました。脳味噌も、何か面白いものやきれいなものをみて、心に残ることがあるたびに「彼はどう思うだろう?」みたいなことを考えていたんで、(きっと私だけではないけど)生活のペースが完全に相手本位でしたね。それに比べると松井さんも岩井さんも結婚しているということもあって自然と「線」が引けるから「楽だなー」って。それに二人とも多分そういうのに慣れてるからだと思うんですけど、重い荷物を持ってくれたり、打ち合わせの時にはお茶代を払ってくれたりする(笑)。それには最初、「え?人間扱いされてる!!」って感動しました。それまでそんなことされた記憶がなかったから。

――「自分で作った劇団」と、「後から参加した劇団」との違いもあるんでしょうね。一方でキャリアのある劇団に後から加わる難しさもあると思うんですが、「サンプル」と「ハイバイ」とは相性が良かったんでしょうか?

サンプルは「青年団」の流れを汲む独特の“家風”があります。(外からはわからないかもしれないけど自分的には)慣れるまで、2年か3年ぐらい掛かったと思います。ただ、大事なことは、スロウライダーを辞める時に「制作もOLも何もかも一度辞めよう」と思っていたのに松井さんと岩井さんの作品があったから「まだやりたいことがある」って演劇界に残れたことです。今でも、いつも心は揺れていますけど、「この二人の作品に関われなくなるときは、制作をやめてもいいかも」って思います。やっぱりそんなに多くの人に心を尽くせないですからね。

――同時期に上り調子の劇団を掛け持ちすることでの苦労もあると思いますが?

よく「どうやって2団体やってるんですか?」って聞かれるんですけど、多分、単純に2倍働いてるんだと思います。だから、最近はサンプルとハイバイの公演期間の間隔が狭まってきてることが辛いです。大きな特徴は、それぞれの劇団の方向性が全く違うこと。岩井さんはどっちかというと映像業界の方に注目されたり、観客は学生から普通のおばちゃんまで幅広かったりする。松井さんは文学やアートに興味と、素養がある人から特に注目されている。ということは、ノウハウを転用することが必ずしもできないので、何をやるにしても1から準備していかなければならないんです。これがすっごく楽しいですけど、大変な点でもあります。出会う人も話す内容も全然違う。たまにサンプルでは知的レベルの高い会話がとびかって、何を話してるのか分からない(笑)。難しいカタカナを使って「社会性」とか「公共性」とか言ってるけど「何の話だろう?」って(笑)。で、こっち(ハイバイ)はこっちで、「ゲームにitunes cardで課金?2,000円でお相撲のキャラクターを買った?何やってんの?」って子供っぽさが時にはあって。二つの世界をいったりきたりしています。

――(笑)何か対策は講じていますか?

今やっているのは、quinadaの層を厚くすることです。例えば、あるスタッフが語学留学をしていたり、あるスタッフが1年の大半を外部の仕事で、現場に出てたりしたんですけど、各自のキャリア志向を前提にその上で、加速度的に忙しくなっている「サンプル」と「ハイバイ」をクオリティーを下げずにいかに回していこう?どうやってquinadaの総合力をあげていこう?ということをいつも考えています。「勉強したいんです」って集まってくる方たちも含めて、層の厚い会社にしていかないと。

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