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第2回ゲスト:加藤弓奈(急な坂スタジオ・ディレクター/「中野成樹+フランケンズ」「岡崎藝術座」)

12.03/01

舞台制作のトップランナーに、これまでの道のりと仕事観を尋ねる新シリーズ“制作者のキャリア”。今回のゲストは、「急な坂スタジオ」ディレクターの加藤弓奈。小劇場の職員、あるいは先進的な文化拠点施設のディレクターという立場からさまざまなアーティストと絶妙なパートナーシップを築いてきた彼女のキャリアから、制作者として働くための心得を探る。

劇場って人を育てる空間なんだ

――加藤さんが舞台と出会ったきっかけは?

舞台ではないんですけど、両親が映像関係の仕事をしていたので、生まれた時から作家や演出家という仕事が身近にある環境だったんですね。それから、祖母が宝塚やミュージカルを好きだったので、小学生になる頃には普通に連れて行ってもらっていました。

――その頃特に刺激を受けた作品などはありますか?

これはっていう作品は無いですけど、祖母に舞台に連れて行ってもらうのと、両親に映画に連れて行ってもらうのとが交互にあったせいか、映画は映画で面白いけれども、でも映画の中で起きていたような特別なことは、人の生身の体でも表現出来るんだっていうことに興味を持っていました。だから、映画館に行くのと同じような感覚で劇場に足を運んでいた気がします。

――ご自身で劇場へ行くようになったのは?

高校生の時にNODA・MAPさんが旗揚げされたんですけど、どうしても観に行きたくて、自分でチケットを取りました。野田秀樹さんの作品はもの凄く観てますね。

――作る方に関わり出したのはどんな経緯ですか?

実は両親がそういう仕事をしているっていうのもあったので、私自身は作り手にはなりたくなかったんです。

――あ、そうなんですね!?

絶対、作る人にはならないって決めてたんです。でも、大学進学の頃には、よく考えたらその仕事しか見てこなかったし、俳優や作家以外にも舞台の仕事はあるんじゃないかっていうことにすごく関心を持つようになっていました。それで、演劇・映像専修はあるけど実技はやらないっていう早稲田大学の第一文学部を志望しました。

――つまり、大学に入学した時には、この業界で働いていこうという意思があったわけですね。大学ではどんなことを学びましたか?

おもに歴史、評論、仕組みですね。評論家になるためとか、研究者になるための勉強です。

――その間、ご自身で舞台を作ったりしましたか?

いっさいないですね。あ、一度だけワークショップの授業の一環で、川村毅さんに演出していただいて、早稲田どらま館で「オイディプス王」を上演しましたが、それぐらいですね。

――「研究」から「マネジメント」へと意識が変化していったのはどんな経緯からですか?

ちょうど各地に公共ホールが立ち揃って、「アートマネジメント」みたいなことが言われ始めた時期だったんですね。でも、私が通っていた大学にはアートマネジメントの学科はないし、実際、マネジメントできるほどのマーケットも、今はないだろうという実感を持っていました。だからこの先これを仕事にしようとするなら、公共ホールに入るか、あるいは制作会社に入るかってことぐらいしか思いつかなかった。そんな時に劇場ホール実習という授業が新たに出来て、劇場にインターンとして行けることになったんです。世田谷パブリックシアターさんや新国立劇場さんや明治座さん、といった受け入れ先劇場の中にSTスポットがあったんですね。他と比べて明らかに規模が違うし、仕組みも全然違うので、ここに行けば劇場で起こることのすべてを見ることができるんじゃないかと思い、STスポットでインターンをさせていただくことにしました。

――よくぞSTスポットを選びましたね?

神奈川県民ホールさんなどでアルバイトをしていたので、大きいところは大体こんな感じかなっていうのが分かっていましたから。あと、出来たばっかりの授業だったし、受け入れるホール側からすると、「学生から2~3人で勉強させてくださいって言われても、任せられるのはチラシ折り込みぐらいだろ」って思うんじゃないかなって。

――するどいですね(笑)。

実際、ある大劇場に行った友人は、「ずっとハーゲンダッツを売っていた」って(笑)。困ったんだと思います、受け入れ側も。本人は「すごく売れたよ!」って喜んでましたけど(笑)。

――STスポットでのインターンシップはどんな感じでしたか?

いや、もう、すごい2週間でしたよ(笑)。とにかくもう、ありとあらゆることが間に合ってない(笑)。ちょうど、「ラボセレクション」っていうコンテンポラリーダンスのフェスティバル期間中だったんですが、3日間仕込んでソロ作品6本を3日間連続上演、2日で仕込みを変えて、中編2本立てを3日間上演、また2日で仕込みを変えて長編を2回上演・・・という、とにかくパツパツな状態で、しかもアルバイトスタッフもダンサーだったりするので、作品になると出演しちゃうんですよ。それで最初っから、「インターンが動いて!」みたいな空気になっていて、お弁当を買いに行ったり、当日パンフレットの原稿集めや印刷、挙句の果てには照明のケーブル交換とかもやって、劇場のありとあらゆることをやりました。インターンは2人いたんですけど、「ここまでやれれば、きっと私たち大丈夫だよ!」なんて励まし合いながら(笑)。

――それは確かにハードでしたね。

いきなり「はい、じゃあ受付始まるから座って!」って言われて、何が何だか分からないまま受付に座り、お客様とお金のやり取りをしました。チケットの種類もたくさんあったので、未経験者にはかなりハードルが高い状況だったと思います。でも、当時の館長の岡崎松恵さんに、「私はあなたたちが学生でインターンだと理解しているけど、お客さんにとっては受付として座っている以上、劇場の職員にしか見えないんだから、そのつもりでやってね」って言われて、「学生だとかインターンだということに甘えちゃ絶対ダメだ。プロとして仕事をしなきゃいけないんだ」って思ったんです。岡崎さんの言葉はすごくありがたかったですね。劇場の館長がインターンに対してそこまで言ってくれるとは思っていませんでしたから。

――そのポジションを学生のインターンに任せるなんて自分ならできないかも。

普通はそうですよ。だから、私にとっては岡崎さんがそういう人だったっていうことが本当に大きかった。

――本当に大変な2週間を過ごしたわけですが、その中で面白いと感じたこともあったんですね?

面白いと感じたのは、やっぱり劇場が持っている可能性ですね。毎日たくさんの人が入れ代わり立ち代わりやってきて、劇場の様子がどんどん変わっていく感じだったり、また、自分自身も明らかに変わっていると実感したり…。「劇場って人を育てる空間なんだ」っていうのをすごく感じたんですね。それで「ああ、本当に劇場って面白いんだ」って。

――それじゃ、劇場から「就職しないか」って誘われたときも全く迷いなく?

なかったですね。あと、勉強しようって思ったんですね。卒業するタイミングが、あまり就職状況のいい時期ではなかったので、「一年間ひとまず劇場で働いてみて、目につくことを片っ端からやってみて、自分が本当にこの仕事に向いているのかも含めて、一年間勉強させてもらおう」って。それで、卒業と同時にSTスポットに就職しました。

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