制作ニュース

『地域のシテン』第6回後編 平松隆之ほか

14.08/18

静岡から社会と芸術を考える合宿ワークショップ
レポート&インタビュー
「劇場が行う対話型ワークショップの可能性」(後編)

制作手帖×ON-PAM地域協働委員会 リレーインタビュー「地域のシテン」第6回
ゲスト:平松隆之(劇団うりんこ)/白川陽一(Keramago Works)/平田大(公益財団法人静岡県舞台芸術センター)
取材・文:藤原顕太(Next/ON-PAM地域協働委員会会員)

制作手帖とON-PAM地域協働委員会がコラボレーションして不定期でお贈りしているインタビューシリーズ『地域のシテン』。今回は、昨秋静岡県舞台芸術センター(SPAC)で実施されたイベント「静岡から社会と芸術を考える合宿ワークショップ まちと劇場と祝祭と Dialogue & Act for future」を、企画者と主催者へのインタビューを通して掘り下げるスペシャルレポートを前後編2回に渡って掲載します。取材は、昨年も同イベントに参加し、制作手帖に体験レポートを寄稿したNext舞台制作塾コーディネーターの藤原顕太。

前編はこちら http://www.next-nevula.co.jp/techo/?p=3016


オープン・スペース・テクノロジー〜収穫の時間〜

2日目の夜は「オープン・スペース・テクノロジー」(以降OST)というプログラムが行われた。
OSTとは「ホールシステム・アプローチ」の一つの手法で、情熱と責任をもって話し合いたいテーマを参加者が自ら提案し、対話をする手法だ。
提案した参加者がテーマごとにテーブルに分かれてホストとなる。他の参加者は自分が参加すべきだと思うテーブルに行って対話に参加する。もし自分がそのテーブルでの議論に加わるのが適切ではないと思うときには、主体的にテーブルを移動する。
「ワールド・カフェ」が「気づき」を連鎖的に広げていくプログラムだとすれば、OSTは「気づき」を自分の中でまとめていく、収穫の時間を味わえるプログラムだ。

白川:
ワールド・カフェとOSTは一つのWSでセットにされることが多いんですよ。その理由は、ワールド・カフェはどちらかというとアイディアを拡散していく方法で、OSTはもやもやした状態を収束させていくのに役立つ方法だからです。
その人の中で問題意識を持っていないと、OSTをやっても自発的なアイディアは出ないです。深く対話をするためには、問題意識をその時間までにどう育んできたかということが大切です。今回の場合、一日目のサーカス物語や二日目の午前・午後のプログラムを体験したからこそ、出てきた問題意識があると思います。それともう一つ深い対話をするために大切なことは、「この人たちに対してなら自分が何を言っても大丈夫だ」という安心感ですね。

平松:
WSでは主催者側が取り扱いたいテーマをオープンにして参加を呼びかけると、そのテーマには関心を持っているけれど自分の課題を説明できるほどではない、という参加者も集まってきます。そのような参加者たちとWSを通して色々な角度から考えていくと、課題がはっきり見えてくる。それと同時に、一緒に時間を過ごすことで、安心して話せる関係性ができてくる。そうすることで初めて、OSTの場でアウトプットされるんです。

白川:
当初はOST以外の案も考えました。今年の参加者の場合には、自分がやっている活動を何とかしたいという問題意識を強く持った人が多かったので、結論を出す事を必ずしも求めないOSTよりも、問題意識を持っている人のためにみんながアイディアを作って貢献していくようなアプローチの方が良いのではないかと思ったので。
しかし、最終的にはやはりOSTを選びました。助け合いっていうのが、表面的すぎてもいけないんですよ。つまり、当事者以外に共有できない問題は、他の人にとって貢献しようがない。自分自身にも関係あると思える問題だからこそ、貢献したいと思うことが出てくる。「あなたの問題は私の問題でもある」ということを本当に強く実感できるためには、ある程度長い期間が必要だと思っています。
ただ今回、WSを実際にやってみたら、いくつか具体的なアイディアが参加者から出てくるところも見ることができました。

会場の壁には、OSTに参加する上での「四つの原理」が貼り出された。
「ここにやって来た人は誰でも適任者である」
「何が起ころうと、起こるべきことが起きる」
「それがいつ始まろうと、始まった時が適切な時である」
「それが終わった時が、本当に終わりなのである」

白川:
OSTに参加するときにこうありたいと思う態度をまとめると、自然にこれらの原理になっていくのだと思います。壁に貼り出したのは、それまでと違う雰囲気にして、この時間を大切にして欲しい、と思ったことが一番の理由です。
これらの言葉は参加者の会話的なレベルや心持ちによって、受け取られ方が違います。人と話し、向き合い、探求するということの喜びや辛さをよく知っている人にとっては、再確認する程度の内容だと思うんですね。だけど、これまで意識的にそういう体験をしたことがない人や、対話をする準備ができていない人にとっては、とても厳しい縛りに思えるかもしれません。

OSTでは参加者が話し合いたいテーマ(議題)を最初に提案し、その議題をもとに番組表を作っていくのだが、今回のWSでは議題が出る過程に驚いたと、二人のファシリテーターは語っている。

平松:
まだルールの説明も終わっていないくらいのタイミングですでに、何人もの人から話し合いたい議題が出てきました。去年も参加していてOSTのことを知っている人ならともかく、今年から参加した人は、どの段階で提案しようと決めていたのだろう(笑)。
それと、議論したい内容が一致しているとは思えない人たちの間でも、自主的に議題を整理しようとする動きが起こっていたのも、すごく不思議だった。しかも「前半にこの話をやって、後半にこっちの話があると良い流れだ」って、順番まで主体的に提案してくれる人までいて。

白川:
僕がこれまでOSTの進行をした中でも、これだけ活発だったのは初めてです。
二日目午後のペアインタビューのときにいっぱい喋り、聞くことができたという高揚感があったからこそ、議題を出そうとする思い切りの良さが生まれたのではないでしょうか。

平田:
皆さんが日頃から色々なアンテナを張り、行き詰まりを感じているからこそ、意見をぶつけることができたのではないかと思います。対話の実践場所となっていたのではないでしょうか。ゴールのない議論について、色々な人の意見を引き出しながら自分の意見を伝えてブラッシュアップしていくのは非常に興味深かったですし、自分も参加していてすごく楽しかったですね。
ここまでで築き上げてきた「何でもこの場であれば言える」という空気感がある。かといって参加者の皆さんが乱暴になるわけでもない。WSの冒頭でいきなりこのプログラムをやったとしたら出てこなかったであろう、哲学的なテーマが議題にのぼってくるのは、2日間かけて段階を踏んできたからこその成果ですね。今回のWSの一つの醍醐味だったのではないかと思います。他のテーブルにも自由に行くことができるという、参加者の自主性が尊重されるルールもある。全体のプログラムがうまく帰結した感があります。

参加者の内面に何が起きた?

3日目の最後の時間、参加者が自由に宣言する場が設けられた。東京から大阪までの広い地域から参加した、今回のメンバーたち。
このWSでやりたいことが顕在化した人もいれば、参加した感想や気づきを言葉にする人、言葉にすることを保留する人もいる。同じプログラムを体験した後でも、実に多様な考えを持っていたということに驚かされる。
ファシリテーター達は、そんな参加者達を見てどのように感じていたのだろうか。

平田:
最後の方は参加者も盛り上がって、言うことが抑えられないという感じでしたね。
メンバーにも恵まれていたと思います。私たちと同じように静岡県民に向けて働くということをミッションにしている方たちも今回のWSには参加されていましたし、観客としてよく劇場に来てくれている地元の方もいました。
比較的身近な人であっても、これだけ本格的に深く話す機会は、普段なかなか無いですね。まして東京や大阪から来てくれる人とは話をする機会自体が少ないので、それこそこういった機会に知識や意見を交換したい。だからこそ、このWSが静岡で開催できたということは意義深いですね。
この集まりは制作者の会議ではなく、舞台芸術の関係者ではない人も入っていた。個人の立場から、それぞれの課題や、やりたいことを見つける場になったのではないかと思います。
僕個人にとってもこの企画に携わることができて、本当に良かった。僕は元々舞台制作業界でキャリアを積んだ人間ではなかったので、演劇界にどういう人がいるのかということを知るきっかけにもなりましたし、終わった後も参加者とはFacebookで友達になっています(笑)。
時間を濃厚に過ごした仲間たちとの関係は過去の思い出だけにはならず、ネットワークとして繋がりが続いていくと思います。今後もそれぞれの方たちが活動を続けていくにあたって、お互いの近況報告をしたり、日頃の活動で持っている疑問や課題を出し合うような、プラットフォームのような役割になっていくのではないでしょうか。

白川:
「自分の自転軸がずれたような体験を何度もしました」というすごい感想を言われていた方がいます。自分で揺るがないと思っていたものが、揺らいだっていう。
演劇の専門家も初めてお芝居を見る人も、共通の体験をする。そしてその体験をもとに、お互いの持っている認識の違いを埋め合わせるというところから、コミュニケーションを始める。そうすると、「あなたの言っていることははっきりとは理解できないけれど、でもだいたいこの辺りのことを言っているのね」位のことは分かるようになる。
僕の中でこのWSをするときの一つの基準は、専門家ではない参加者が入りやすいかどうかってところなんですね。一応演劇に関心はあるけれど、動機としては地元で開催しているから来ました、というくらいの。そういった人がこれまで参加してくれたから、豊かさが生まれている気がするんです。本当に強調したいのは、体験で喋ってくれということ。知識はある意味で分断を生む。答えがあるかないか分からないようなことに対して、知識をもとに喋ることでは、なかなか新しいものを生み出せないと思います。体験から出てきている生の言葉をみんなで洗練化していく作業にこそ新しい発見とか創造性とかいうものがあるはずで、そういうようなワークショップにしたいという思いが僕はすごく強かったんですよね。
それと、参加者同士での親密性が高まっているということは、お互いについてよく知っている部分が増えているということだから、その状態での「会話」では安心して気楽に喋れるぶん、新しい情報ってなかなか出てこない。知らない部分をお互い探っていく「対話」とはまた別の時間ですよね。

静岡という場所から生まれる意義

このように、参加者の中に多くの深い気づきを残して、今回のWSは終了した。
このWSが静岡という場所で行われた意義とは何だったのだろうか?

平田:
SPACは静岡の県立劇団です。他ならぬ静岡でこのWSを主催することの意義や、実施したことで何が静岡県に還元されたのかという成果についての説明は、必要だけれど難しいことでもあります。しかし、実際にこれだけ参加した人たちに変化や気づきをもたらすことができたことは、成果の一つです。
今回のWSは、静岡らしい、SPACならではのプログラムになったと思います。劇場は箱ではなく、機能としての役割や存在意義が求められています。こういう試みを行っている劇場はまだ多くはないと思うし、他の場所、劇場にも広がって欲しいと心から願っています。そしてその時には、その劇場で行う意義や特徴が何なのかは、それぞれの劇場が考える必要があると思います。

また今回のプログラムでは、静岡ならではのゲストを招いての講演会が行われた。
1日目にはSPAC芸術総監督の宮城聰氏による、祝祭というテーマについての基調講演が行われた。「画家も音楽家も、芸術家は一芸に秀でている人だからこそ価値があると認識されている。だが俳優はコミュニケーションが得意な人たちだろうか?むしろ逆の人が多く、普段のその人にとって苦手なことだからこそ、そこに立ち向かっていく姿の素晴らしさがあるのではないか」などの様々な言葉は、その後3日間のWSを通じ、さまざまな局面で、参加者に影響を与えている様子が見受けられた。

白川:
基調講演にとらわれていたという見方もできると思うんですが、それにしては宮城さんの話し方は問いかけベースでした。「こういう風に世の中がなっている」ということではなく「わたしはこう思っているんですけれど、皆さんどう思いますか?」という感じで話していたから、結果的にみんなの考えを推し進める起爆剤になって、それはある意味WSの三日間を通じて、柱になっていたと思います。

また3日目には、「大道芸ワールドカップin静岡」でプロデューサーを務める甲賀雅章氏の話を聞く機会が設けられた。

平田:
静岡を代表するイベント「大道芸ワールドカップin静岡」を一から作ってこられた甲賀さんの話を聞くことができて、とても良かったです。前日まで頭で考えていた「劇場と路上」ということを、具体的な実例としてリアルな部分を含めて聞くことができました。制作者の立場としても、ビジョンが明確でとても参考になる話だと思いました。

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