制作ニュース

小室明子の「北国の劇場から」Vol.5

13.06/01

北海道札幌市にある劇場「コンカリーニョ」の演劇プログラムディレクター、小室明子さんの連載コラム。第五回は、コンカリーニョ主催で行っている市民劇についてをご紹介。琴似を舞台に創作される市民劇、温故知新音楽劇のこと。


つい先週まで寒い寒いといっていたのに、今日は驚くほどの快晴、そして突然の夏日! これを書いている今日(5月27日)は、琴似神社のお祭りです。この辺りの学校は休みになるのか、昼間から子どもたちが露店に集っておりました。中には浴衣姿の若い子たちも。天気がよくてなによりでした。

JR駅と地下鉄駅を結ぶ琴似のメインストリートに並んだ露店

コンカリーニョでは2005年度より、劇場のある琴似・八軒地域の史実を取材して創作し、地域住民が出演する「温故知新音楽劇」を主催しています。初めての温故知新音楽劇「とんでんがへし琴似浪漫」が上演された2006年2月はNPOが立ち上がって3年目、劇場がオープンする少し前のことです。2004年より管理運営している地下鉄駅地下のイベントホール・ターミナルプラザことにPATOSでの上演でした。その頃は、いかに地域に溶け込むか、この地域に劇場があることを有意義だと感じてもらえるか、というのが活動の軸でした。この公演が劇場コンカリーニョのオープンへの弾みとなったのは間違いありません。
劇場のある「琴似・八軒」地域は屯田兵が最初に入植してきた地域で、歴史のない札幌の中ではそれなりに歴史があります。まさに、今日、5月27日が明治8年に琴似屯田兵の入植が完了した日、ということで、それを記念した神社の春大祭です。といった地域の特性を生かし、地域への愛着を深めるとともに、世代間の交流を演劇を通じて体験してもらうことを目的に始まりました。


地下鉄琴似駅そばにある、屯田兵屋(復元)。
中も見学できます。どうやって冬の寒さをしのいでいたのか疑問です。
詳細→http://www.city.sapporo.jp/keikaku/keikan/rekiken/buildings/building35.html

連日、劇場や近くの地区会館などで稽古が行われています。今回の出演者は小学校低学年から70代までの総勢24名。脚本は札幌ハムプロジェクトのすがの公。昭和18年の琴似の神社を舞台に、宮司である父親と、キリスト教信者の青年に恋をした神社の娘のバトルを描く、“琴似版ロミオとジュリエット”です。脚本、演出と講師的役割の俳優数名とテクニカルスタッフはプロによるものですが、出演者は毎回公募を行っています。少しずつ入れ替わりながら、毎回参加している人、仕事や家の都合などで参加したりしなかったりな人、役者から裏方に転向する人、それぞれのペースで関わり続けいます。この温故知新音楽劇への参加をきっかけに、ボランティアスタッフとして劇場やNPOの活動のお手伝いをしてくれるようになった人もいて、我々の活動にも広がりができました。毎年7月に行っているコンカリ夏まつり(今年はお休み)とお正月のもちつき大会といった地域向けイベントは、音楽劇メンバーを中心とするボランティアスタッフが運営を担っています。
8年目ともなると頼もしいもので、数年前からは制作チームも編成され、宣伝や票券管理 、稽古スケジュールの管理、協賛金集め、時代考証や小道具作成までを参加者が行っています。それぞれ、何を思って劇に参加しているのかまでは分かりませんが、中には人生が変わったという人もいて(参加者、齊藤久美子さんのコラム→http://www.concarino.or.jp/2010/01/vol37/)、仕事の重みを思わされたりしますが、関わることで少しでも生活が楽しくなったりし演劇が好きになってくれていたら嬉しいです。

この音楽劇チーム、2011年2月には初めての札幌外公演を行いました。場所は士別市朝日町、あさひサンライズホールです。

↓朝日町の地図。札幌から高速を利用して車で2時間半ほどのところにあります。

北海道、公益財団法人北海道文化財団で組織された実行委員会が主催する「北海道舞台塾」の北の元気舞台地域間交流公演事業の枠組で実現したものです。あさひサンライズホールでも毎年市民劇を作成し、今年が10周年記念公演でした。その他、先生たちの演劇公演や学校などへのアウトリーチ活動も盛んに行っているホールです。2010年には朝日町市民劇(作・演出は劇団イナダ組のイナダ)が同じ枠組でコンカリーニョで公演を行いました。
北海道で市民劇が盛んになったのは80年代からだそうですが、現在も各地で市民劇の取り組みが行われています。札幌ではほかに、札幌市こどもの劇場やまびこ座が持っている東区市民劇団オニオン座、3年前からは空知管内の6市2町による「そらち演劇フェスティバル」がスタートしました。最近ではそのような札幌以外の地域の市民劇に札幌の演劇人がワークショップの講師、公演の際の脚本・演出等の仕事を請け負うことも多いです。
一部で、市民劇といわゆる演劇との境界線があいまいになりつつあり、それは問題のようにも思いますが、札幌、北海道のように日常的に演劇に触れる機会のない土地では、やる人が増え、観る人が増え、演劇の魅力に触れることのできる機会が増えることは、まずは、喜ばしいことなんじゃないかと思っています。
 今年の温故知新音楽劇「桑の実の色づく頃には」、公演は6月8日(土)と9日(日)。稽古も佳境です。今日もテーマソングの練習の声が聞こえてきました。


<公演情報>
コンカリーニョ温故知新音楽劇「桑の実の色づく頃には」
http://www.concarino.or.jp/2020/12/ongakugek/

2012年3月上演。「シャッポおじさんの写真館」より。


■小室 明子(こむろ・あきこ)■
1974年生まれ。札幌市出身。コンカリーニョ演劇プログラムディレクター。大学在学中に演劇と出会う。大学卒業後、タウン誌の編集者などを経て2001年に上京。東京ではフリーライター・エディターとして生計を立てつつ演劇の世界もうろうろ。2006年、fringe主催の「PmP2006」に参加したのをきっかけに、2007年4月に札幌へ戻り、以来、NPO法人コンカリーニョに勤務。札幌演劇の活性化、演劇人の実力の向上を願い、他地域の劇団などとの交流企画や演劇祭、在札劇団の道外公演のプロデュースなどを行っている。


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