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小室明子の「北国の劇場から」Vol.10

13.11/01

北海道札幌市にある劇場「コンカリーニョ」の演劇プログラムディレクター、小室明子さんの連載コラム。11月です。札幌では1ヶ月にわたる札幌劇場祭Theater Go Round2013がスタートしました。そして1月18日から行われる札幌演劇シーズン2014−冬のチケットも発売になります。札幌演劇大繁忙期へと突入です。本場から考える札幌演劇シーズンの課題


11月です。札幌では1ヶ月にわたる札幌劇場祭Theater Go Round2013がスタートしました。そして1月18日から行われる札幌演劇シーズン2014−冬のチケットも発売になります。札幌演劇大繁忙期へと突入です。

札幌演劇シーズン2013-夏の終了から1ヶ月が経った9月末、札幌演劇シーズン実行委員会の中核団体である演劇創造都市札幌実現プロジェクトのメンバーが、アメリカ・オレゴン州アシュランドで毎年行われている「オレゴン シェイクスピア フェスティバル」と、札幌の姉妹都市・ポートランドの劇場を視察する旅に出ました。プロジェクトが札幌で実現を目指す“100人の演劇人が暮らす街”のモデルである劇場や創造団体の在り方を実際に見るためです。ここはひとつ現場の人間たちにも今後のために本場の演劇祭を見せてはどうか、という展開を期待したものの、現実はそんなに甘くありませんでした。残念。アメリカに行けなかった私は旅に同行した通称・事務局さんにお話を聞きました。


演劇創造都市札幌プロジェクトの一行の訪問が紹介されています。

客席数1,200席のエリザベス野外劇場。

旅の模様は札幌演劇シーズンfacebookで紹介しています。

アシュランドは、人口2万人ほどの小さな町。その約半分が、演劇科があり全米から学生が集まる南オレゴン大学の関係者だとのこと。町の中心部に3つの劇場(客席数1,200、600、360の3つ)があり、毎年2月〜11月という長期間のフェスティバルが開催されています。町の一大産業です。NPOで運営しており、約70人の俳優を含め約600人を雇用、小さな街に演劇を観るために期間中40万人が訪れるそうです。1キロくらいのメインストリートにホテルや100店ほどの飲食店が並びます。滞在中に観たどの作品も言葉がわからなくても楽しむことができ、俳優の実力を感じるものばかりだったそう。現在の札幌から考えたらまったく夢のような状況です。「何から手をつけたらよいのか」と、事務局さんも途方にくれていますが、注目すべき点がありました

それは、フェスティバルの収入の75%を入場料収入が占めているという点です。残りの25%は寄附等による収入。それは長い時間の積み重ねがあってのことだとは思いますが、この事実には驚かされるばかりです。札幌演劇シーズンに目を向けると、2012年度は63%が補助金・協賛金、入場料収入は37%です。公的助成をもっと、と訴えるばかりではいけないということを痛感します。

お客さんはオレゴン州から35%、隣のカリフォルニア州から45%、ワシントン州から10%、カナダなど外国から10%の比率だそうです(そのため、1演目終わるごとに仕込み替えをして演目を変え、2泊3日程度の滞在期間でも多くの作品が鑑賞できるようにしているとのこと…)。フェスティバルのお客さんのほとんどが白人ということで、マーケティング部門にはその他の人種をターゲットとする担当者がいて創客を行っているそうです。マスメディアを使った広告宣伝はあまりやっていないように見えた、というのが事務局さんの実感です。チケットの主な価格帯が71〜96ドル(数は少ないですが25ドル、59ドルという設定もあり)ということですから決して安くはありませんが、平日にも関わらずどの劇場もほとんど満席に近い入り。資料によるとフェスティバルを通して94%の入りだそうです。

劇場と学校、コミュニティが結びつき、盛り上がりに繋がっていることを実感した模様。どれをとっても札幌の現状からは気が遠くなるほど遠い話ばかりですが、よい作品をつくり多くの人に見てもらう、その地道な積み重ねしかないのだということを再認識させられました。事務局さんが痛感したのは“経営のプロ”の必要性だったそう。先に挙げたマーケティングもそうですが、演劇人を雇用するために劇場にたくさんのお客さんを呼ぶ、今の札幌ではそのための人手または知恵が足りていないということだと思います。

札幌は人口190万人の都市ですから、アシュランドのように一つの産業に特化できるような規模ではありませんし、当然文化的な違いもあります。同じことをしても同じようにはならないと思われますが、一行はこの旅で大きな刺激を受け、ヒントを得たようです。今後、札幌演劇シーズンを担う演出家、俳優、若い製作者にも現地視察できる機会があるといいのですが。

ここ札幌で、演劇で、いかに経営のプロとなれるかが、今後のカギになると思われます。2014-冬シーズンは1月18日(土)開幕。雪祭りも開催中の札幌へぜひ。


■小室 明子(こむろ・あきこ)■
1974年生まれ。札幌市出身。コンカリーニョ演劇プログラムディレクター。大学在学中に演劇と出会う。大学卒業後、タウン誌の編集者などを経て2001年に上京。東京ではフリーライター・エディターとして生計を立てつつ演劇の世界もうろうろ。2006年、fringe主催の「PmP2006」に参加したのをきっかけに、2007年4月に札幌へ戻り、以来、NPO法人コンカリーニョに勤務。札幌演劇の活性化、演劇人の実力の向上を願い、他地域の劇団などとの交流企画や演劇祭、在札劇団の道外公演のプロデュースなどを行っている。


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