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PINstage高崎の「さくてきネクステージ from 福岡」Vol.6

12.09/13

今回の「さくてきネクステージ from 福岡」では、地域によってどのように演劇シーンの状況が変わってくるのかということの前提になる部分について考えてみたいと思います。

東京とは全く異なる地域の演劇シーンをどれくらいの距離と角度から見ればいいのか、その一助になれば幸いです。

下の図は、そこそこの正確さで妥協していますが、都市人口と劇団数や都会・非都会について図にしてみたものです。

演劇が集団創作であることや、ある種の知能集約産業性があることから、人口と劇団数が1次関数に比例するのではなく2次関数的に変化することや、都会・非都会といった概念がグレースケール的に変わることを見て取っていただければと思います。

人口や劇団数のほかにもいろいろな要素があるのですが、それについてfringeブログ「芸術文化環境の地域格差」で詳しく書いたことがあるので、ご興味のある方はご参照いただければと思います。

このように白と黒と二つにわけにくい状況であり、実情はグレースケールとなっているわけです。この中で変化の顕著なところに線をひいて、都市・非都市といっていますが、もっと細分化して線引きすることも可能です。人口が200万を超えるところ、人口が100万を超えるところ、人口が50万以下のところ、それぞれに状況は異なり別の課題を持っています。

地域の状況を一括りにして考えることは難しいということが原則になります。

逆に言えば、地域にいては東京の実情がよく見えません。

たとえば、私は東京でどういう演劇フェスティバルがあるのかはわかるけど、それがどういう層にどういう印象で捉えられているのかは十分にはわからない。どういうところにどういう劇場があるのかはわかるけど、その劇場がどういうポジショニングでどういう見られ方をしているかというとぼんやりしてくる。

東京の状況については同じ国の福岡にいる私より、ソウルにいる韓国の演劇関係者のほうが感覚的に理解しやすいかもしれません。

たとえば、多くの地域ではアマチュアリズムをどう脱却するかするかではなく、アマチュアリズムとどう共生するかがポイントになってくる。小劇場系の練習で昼の稽古は極めてまれである。50席刻みの劇場のラインナップがなく、250席未満の劇場がなかったり、100席よりも大きな劇場を探すと300席の劇場しか選択肢がなかったりする。

行政の支援が手厚く、稽古場に利用料を払う経験をほとんどしたことのない人がいたとしましょう。この人が他地域に行き、そこで稽古場の利用料金が有料であることを知って「えっ、稽古場、有料なんですか!」と驚くという例もききます。

おかれた環境の違いが、他地域の実情の理解を難しくします。バラエティのテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」を見るとよくわかりますが、人間は自分の地域の置かれた状況が日本の状況と無意識に思い込んでしまうものです。

中央一極集中の今の日本の環境で、東京が上述したグレースケールを超えて、白と黒に分けうるポジションにいることは言えるだろうと思います。こういった環境にいて、他地域の実情を見て取ることは基本的には人間の限界を超える要求なのだと思います。

なんらか場合分けして、演劇シーンを前進させるための施策について考えることができるとするならば、やはり東京と非東京をわけて考えることがもっとも有効であるように思います。

表現団体がそこまで他地域のことを詳しく知っている必要があるかというとそれは別の問題と考えています。それは、各地域のアートマネージャーと呼ばれるような人たちが考えればいいことだと思います。

あんまり難しく考える必要はないけど、この先はちょっとわからないところがあるねという理解があれば、それで十分だと思います。

芸術文化環境と芸術表現というのは別に考えることができます。「さくてきネクステージ from 福岡」Vol.3で書いたように、表現団体は優れた作品をもって他地域に芸術表現による刺激を与えるということが期待されているし、優れた作品がそういう環境の違いを飛び越える姿を私は何度も見てきました。

このコラムを始めるにあたって、もっとはやく書いておくべきだったのですが、「地域演劇」という言葉の定義について触れたいと思います。私は地域演劇を以下の4つを満たすものと定義しています。

1:地域の人々を中心として創られるものであり

2:その地域の人にみられることを大前提とし

3:やまぬ演劇的な表現欲求が根元となっていて

4:よりよい公演・表現をするということを主たる目的にしているもの

ですので資本の論理がモチベーションの優先的な要素である商業演劇や、教育を目的とし表現の高みを目指すことを目的としない学芸会等の発表公演や、本拠地外での公演に重点がある公演は対象と考えていません。

もちろん優れた作品は、地域演劇であっても多くの地域に展開していくでしょう。


pro

■高崎 大志(たかさき・たいし)■
地域演劇プロデューサー NPO法人FPAP事務局長 九州地域演劇協議会理事・事務局長
高校の時より演劇をはじめ大学演劇部をへて在学中に劇団旗あげ。役者・制作・照明・舞台監督を担当。
2003年NPO法人FPAP設立、事務局長。演劇公演企画やセミナー・ワークショップ等の地域演劇振興の自主事業の企画、地域演劇の劇評や、福岡・九州の演劇状況、国内の芸術環境格差に関するレポートなども手がける。
2008-10年(財)広島市文化財団 南区民文化センター主催「若手演劇制作者育成講座」講師。09年金沢市民芸術村「地域演劇制作者のための実践的制作講座」講師。2010年福岡・九州地域演劇祭の総合プロデューサー。
NPO法人FPAP:http://www.fpap.jp/
個人ブログ:http://sakuteki.exblog.jp/
twitter:@tahahahi


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