制作ニュース

矢作勝義の「劇場オープンまでの長い道のり from 豊橋」Vol.3

12.07/13

気がつけば既に7月。今年もすでに半年が過ぎ去り、残り半分と言ったところでしょうか。

さて今回は、鋭意建設中の『穂の国とよはし芸術劇場PLAT』のことについて触れたいと思います。

コンクリの打設(だせつ)作業が進み、少しずつ足場シートに囲われていたコンクリートの壁が姿を現し、あんな所にこんな大きな窓らしき物がある、というような物が見えるようになってきました。

壁面に見える穴のうち、下側の大きな穴は『創造活動室B』の窓になる部分です。
現在は、外に出ていますが、最終的には建物の内部に入る部分です。
ちなみに、上側の穴は窓ではなく機械室のための穴だそうです。

先月上旬には、現場の中を見学させていただきました。ちなみに、2〜3ヶ月に一回は、豊橋市が広報で公募して建築現場の見学会を実施しており、8月には夏休みの子ども向け見学会も予定されています。この見学会は平日の昼間に実施するため、どうしても参加者は高齢者中心で、少しもったいない気もします。建設現場の案内には現場監督さんの勤務事情もあり、どうしても見学可能な曜日が限られているのは仕方がないことかもしれませんが。建物の中では、空調ダクトやパイプ類、ケーブル類などの敷設作業が行われていました。ちなみに、まだ屋根はかかっていないので、屋内から青空が見えていました。

これにはいくつか理由があるそうです。一つは、大型の機械や鉄骨などの資材を屋根のないところから建物内にクレーンで入れるため。もう一つは、太陽光というか明かりを取り入れるため。屋根をかけてしまうと、太陽光が入らず、作業用の照明が必要になり、電気代がかかってしまうことになる。その分の電気代すらも節約して、トータルの建設コストを削減するという涙ぐましい努力が行われているのです。(建設現場では普通のことかもしれません)

さて、現場の方々が連日作業で追われている中、私達は一体何をしているかと言いますと、最終発注に向け設備・備品の仕様や数量などの確認作業を行っています。当初予定されているものの一覧表を確認していると、なぜこれがこの数?なぜこれが設定されていないの?さらには後から調整して増やした部屋の設定などが抜けていたりするので、一つ一つ確認しています。初期設定については、建設会社のコーディネーターの方が、他の劇場施設の状況などから設定をしていたりするのですが、実際にはこの部屋はどういう使い方をされるのか、どういう機能が必要なのか、などまでは想像できているものではないので、そのあたりを細かく確認し調整しています。備品などの予算枠は当然限られており、その中で調整しなければならないのですが、最終的には建設コストも影響してくるので、それとも調整しなければならないため、調整すべきポイントが多岐にわたり単純にはいかない部分もあります。

具体的な例を紹介します。劇場には3つのバンド練習スタジオができます。一つが少し大きめで、残りの二つは同じサイズ。基本的には同じ機材が備品として設定されていたのですが、リストを確認すると、二つのスタジオは2台設定されているギターアンプが、一つのスタジオは1台しか設定されていませんでした。トリオバンドなら構わないのですが、ギターが2本あるバンドなどはいくらでもあるので、同じサイズの部屋ならアンプの数は同じく2台にしておくべきだと指摘しました。このようなことは、建設会社の方に分かれというのも酷なモノ。このようなところで、大学時代に軽音学部でバンド活動をやっていたという経験が役に立つとは。

あとギターとベースアンプ機種選定で音響メーカーの方と話していてわかったのは、大手の国内メーカーでも今ではアンプを作るのを止めてしまっていたり、トランジスタより真空管アンプが主流になっているのだけれど、貸出施設では真空管はメンテナンスコストが高くてちょっと導入しにくいとか。マイクは何本常設にするか?ミキサーの仕様は?また、最近はアンプとスピーカーについては一体型が主流だとか。ドラムはこの程度のグレードのものを入れましょうとか。常設のキーボードはエレピ系のものにしましょうとか。キーボードスタンドの今時の仕様のことなどを聞いたりして、すっかり時代は様変わりしていることを認識したのでした。

こんな話で盛り上がっているのは、私と音響メーカーの担当者の二人だけで、他の人は何の話しをしているか全く分からなかったそうです。その他、どの様な椅子を各部屋に何脚用意しておけばよいかということも、バンドの編成や、このサイズの部屋ならどの程度の編成が入ることができるかなどが分からなければ、適当に設定されていたのだということが分かりました。

実際に使用される状況を具体的に想定できるかどうかで、開館後の使い勝手が大きく異なることになると思うのです。もし、だれも分からない状況ならば、納入側の担当者がどこまでこだわるかだけが頼りとなっていたと思うと、他も同様のことが起こりうるのだと再認識しました。

そう考えると、どうしてこれがこうなっているのか分からないような劇場や施設というのは、誰もそれを使う状況や使う人のことを想像しなかった結果なのだと思うのです。

自分が現在このような立場にあり、ぎりぎり調整ができる場面に居合わせることができているので、一つでも多くのものが最善の状態にできるように、諦めることなく、粘り強くやり、少しでも使い勝手の良い劇場にするべく頑張っています。



■矢作 勝義(やはぎ・まさよし)■

1965年生まれ。東京都出身。公益財団法人豊橋文化振興財団『穂の国とよはし芸術劇場PLAT』事業制作チーフ。東京都立大学(現・首都大学東京)演劇部「劇団時計」から演劇に本格的に関わる。卒業後は、レコーディング・エンジニアを目指しレコーディングスタジオで働き始めるが、演劇部時代の仲間と劇団を旗揚げするため退職。劇団では主宰、演出、音響、制作、俳優を担当。ある忘年会で、当時世田谷パブリックシアター制作課長だった高萩宏氏(現東京芸術劇場副館長)に声を掛けられ、開館2年目にあたる1998年4月から広報担当として勤務。その後、貸館・提携公演などのカンパニー受入れや劇場・施設スケジュール管理を担当するとともに、いくつかの主催事業の制作を担当した。主な担当事業は、『シアタートラム・ネクストジェネレーション』、『リア王の悲劇』、『日本語を読む』、『往転-オウテン』など。また、技術部技術運営課に在籍したり、教育開発課の課長補佐を務めるなど、世田谷時代は劇場の何でも屋的な存在としても知られた。2012年3月末をもって世田谷を退職し、2013年5月オープン予定の“穂の国とよはし芸術劇場PLAT”の開館準備事務所にて事業制作チーフとして勤務中。


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