Next舞台制作塾
こんにちは。Next舞台制作塾事務局の斉木です。
もう半年前になりますが、4月22日、制作塾では、オープンセミナー「ダンス酔話会@亀戸」―世界のマーケットで生き残るために、アーティストと制作者が知っておくべきこと―を開催しました。
この回のゲスト・乗越たかおさんは、『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイド HYPER』(作品社)や、『どうせダンスなんか観ないんだろ!?―激録コンテンポラリー・ダンス』(NTT出版)、『ダンス・バイブル コンテンポラリー・ダンス誕生の秘密を探る』(河出書房新社)など、読み物としても面白いダンスの本を数多く出されている作家・ヤサぐれ舞踊評論家です。お酒好きとしても有名であり、お酒を飲みながら行うダンスレクチャー「ダンス酔話会」を津々浦々で開催しています。普段はコンテンポラリー・ダンスの歴史や、最新ダンスの紹介などが中心の酔話会ですが、今回は、舞台制作や環境整備に焦点を当て、参加者からの質問への回答をベースに、海外の事例紹介を織り交ぜてお話しいただきました。
私たちは制作塾の活動を通じて色々なジャンルの舞台芸術に関わる人と知り合う機会があるのですが、ダンサーや振付家にも自ら制作を担っている人は多く、またダンスカンパニーの制作者はとても少ない状況にあるようです。そのためダンスにおける関心は非常に高く、この日は若手からベテランまでの多くのダンサーや、公共劇場の制作者、民間劇場のプロデューサー、カンパニー制作者などなど、ダンスに関わる様々な人々が集まりました。
質問1・海外でダンサー・振付家がどのようにキャリアを重ねていくのか、それに対してどのような支援(官民問わず)があるのかに興味があります
これは、公共劇場に勤める制作者からの質問です。これに対して乗越さんからは、中央ヨーロッパ諸国の大きなダンスカンパニーには基本的にダンス学校や若手カンパニーがあること、そこでダンサーのスキルアップや、劇場・フェスティバルとのコネクションづくりをサポートしているということを紹介していただきました。
また、支援策については、EUの文化政策のほか、中東、東欧、北欧などの例も紹介いただきました。国の地の利を生かしたり、中央ヨーロッパの先例から学んだりして、独自の支援を行っているところが増えているそうです。アーティストだけでなく、ディレクターや評論家もともに育成するプログラムもあります。乗越さんは、「(アーティストと社会をつなぐ役割を担う制作者や評論家こそ)アーティストと社会をよく知り、両者にとって一番いい方法を選べる判断力と知見を持たなければいけない」と言っています。
質問2・海外の人たちは日本のダンサーに何を期待しているのでしょうか? また呼ばれやすいダンサーやカンパニーの特徴などありましたら教えてください
これは、カンパニー制作者からの質問です。海外で公演ができれば、自国の人とは違う価値観を持ち、違う見方をする観客から、全く想定外の反応を得られる可能性があります。それはアーティストにとって貴重な経験になることは間違いありません。しかも、乗越さんによると、海外からの日本のダンスへの関心は非常に高いようです。とはいえ海外は遠く、LCC(格安航空会社)の時代だからといっても自力での渡航には未だ大きな障壁があります。
世界のマーケットを意識するなら、「自身の作品について語れるかどうか」が重要なことだといいます。作品の解釈は人それぞれですので、作品について積極的に語りたくないアーティストもいることでしょう。けれど、世界のマーケットでは作者自身が語ることができない人は、作品に対する責任を放棄しているとみなされることがあるようです。
また、逆説的ですが、「最もマーケットに受け入れられるのは、しばしばマーケットを拒否したものである」とも乗越さんは言っています。「舞踏」がまさにこのような広がり方をしたものの一つです。前述のとおり、海外で上演することには大きな価値がありますが、「招聘されやすい」ことを重視しすぎてしまうと、自身の創作ではなく、「招聘されやすい」作品を作り続ける「市場の奴隷(マーケットスレイブ)」になってしまいかねません。「招聘されやすい」ことと同時に、「招聘したくなる作品」を作ることを考える必要があります。
3時間の長丁場でしたが、知識と刺激に溢れた会になりました。
参加者からも様々な質問・話題が出ましたが、その中でも四つご紹介いたします。
- 海外の情報はインターネットではかなり限られた条件でしか見たことがなかったので、歴史などの背景を踏まえてのお話は大変参考になりました。(ダンサー)
- とても愛を感じるレクチャー&エールでした。(カンパニー制作者)
- 制作という立場になって日が浅いのでまだまだ勉強中の身です。そんな身でもわかりやすく、楽しめたセミナーでした。海外のことなど、情報をどう得ていいかわからないことも聞け、よかったです。(フェスティバル制作者)
- あやふやになっていること、感じているけど言語化出来ないものが明確になりました。(振付家・ダンサー)
わたしたちも、行ったことのない世界の国々でのダンスの扱われ方を垣間見て、日本の状況だけ見ていては考えも及ばない舞台芸術の広がり方のヒントを得ることができました。ぜひ今後の制作塾のプログラムづくりに活かしていきたいと思います。
世界のダンスに関する動向をもっと知りたい、ダンスを取り巻く環境についてもっと勉強したいという方には、前述の乗越さんの本は個人的にもおすすめです。ダンスの教科書というよりも、もっとダンスを観たい・応援したいと思える読み物だと思います。
また、雑誌「シアターガイド」で乗越さんが連載していた「アーティスト・サバイヴ 世界のどこかで生き残れ!」(2013年6月号~2014年4月号 偶数月掲載)では、今回の酔話会で話題に挙がったことが度々登場しています。「シアターガイド」は公立図書館にも置かれていることが多いので、お近くでバックナンバーを探してみてください。また現在は月刊「ぶらあぼ + Danza inside」誌で「誰も踊ってはならぬ」を隔月連載中です(ネット版もあり)
海外での舞台芸術の事情を知りたい場合には、セゾン文化財団の広報誌「view point」や、国際交流基金のWEBサイト「Performing Arts Network Japan」などで情報を得ることができます。世界各国の舞台芸術の動向や芸術支援について詳しく紹介されています。
先日、ダンスフェスティバルの「Dance New Air」や、国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 2014」が終了したばかりですが、これから開催される「フェスティバル/トーキョー14」や、「TPAM in Yokohama 2015」など、国内でも国際的な舞台芸術のフェスティバルが続きます。舞台制作に関連するレクチャーのプログラムも開催されている場合が多いので、わたしも個人的に、こういった機会を利用して勉強していきたいと思います。
世界と関わりながら仕事をするための基礎を学ぶゼミ(仮)|2015年2~5月(全10回)
国際的に活躍する制作者をゲストに招き、世界のさまざまな文脈を知るとともに、海外公演で役立つ制作知識・英語表現などを学びます。詳細は後日、公開予定です。(終了しました)
2014年10月22日 講義・セミナーレポート