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【井神ゼミレポート】第二回「様々な公演予算のシミュレーション」

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こんにちは。事務局の斉木です。第一回ゼミのレポートは新入社員・石井がお届けしましたが、偶数回は私がレポートしてまいります。どうぞよろしくお願いします。

 

前回のゼミでは、「団体や公演の目標を見極めた予算策定」や、「関係者を満足させられるお金の使い方」について学びました。第二回は、ゲストの植松侑子さんから海外公演の予算組に関するレクチャーを受け、前回の説明も踏まえて、様々な公演形態の予算を少人数のグループワークで作成していきました。

 

海外公演の予算組レクチャー

前半は、植松さんの作成した「ソウルのフェスティバルに招聘された日本のダンスカンパニーが、日本で上演した作品を再演する」という設定のモデル予算を使って、海外公演特有の収入・支出項目や、注意点を見ていきました。

 

今回のモデル予算では、フェスティバルからの上演料と渡航費などに対する助成金が収入源で、チケット収入は全てフェスティバルの主催団体へ入る設定になっています。もちろん、招聘ではなく完全な自主公演として海外公演を行う場合は、現地でのチケットの売り上げが収入源になります。海外公演の場合、特に注意しなければならないのが「税込価格か、税抜価格か」ということです。

 

海外公演を行う場合、税率が約20~30%かかります。もし、上演費として支払われる金額が税込み価格であるにもかかわらず、税抜き価格と勘違いをしていると、予定よりも収入が大幅に少ないということになってしまいます。仮に上演料が税込100万円なら、税金は20~30万円にもなりますので、よく確認する必要があります。

 

会場や舞台に関する支出では、日本にしかない機材を現地に持ち込むことや、字幕を作成して舞台上に表示する必要があることなど、作品に合わせて考慮に入れておかなくてはなりません。

 

また、国内でもツアーなどで自宅に帰ることができない公演の場合に、スタッフや出演者に支払う「日当」もポイントです。受講生からも、日当に関する質問が多く上がりました。具体的な金額については、ツアー先の物価にもよるので一概には言えません。今回は収入源が上演料と助成金という設定ですが、上演料や助成金は公演の後に支払われるものですので、ツアーの当日に関係者に支払おうとすると、カンパニーが立て替えなければなりません。それができるかどうかはカンパニーの経済状況によりますが、少なくとも、後日に支払うということにするならば、現地での生活に関わることですから、事前に関係者に伝えておくべきだと植松さんは言っています。

グループワーク

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後半は、第一回と、今回の前半を踏まえて、予算をシミュレーションしました。受講生が三つのグループに分かれて、三種類の公演の予算をそれぞれ作っていきました。

 

◆ 一班 ある政令指定都市の演劇祭に東京から参加する
(ジャンル:ダンス、出演人数:4人、日程:土日2回)
優秀な作品には、次回の公演資金が贈られる演劇祭への参加です。1時間の話し合いで考えられた支出合計は約45万円。交通費はカンパニー持ちですが、宿泊費は出演者の自己負担。稽古にかかる費用や、スタッフへの報酬も最小限に抑える緊縮財政です。一方収入は、動員数が総客席数の8割と考えても約40万円。5万円ほどの赤字になります。他地域から参加するカンパニーですので、実際の動員数はさらに厳しいかもしれません。

 

この公演のみを考えると厳しい経済状況ですが、賞金をどう考えるかということも大きなポイントになってきます。賞金を勝ち取って、翌年も演劇祭に参加することが最大の目的なら、赤字も是ということになります。

 

◆ 二班 東京の公共劇場(収容人数約200人)で単独公演
(ジャンル:演劇、出演人数:10人、日程:2週間)
小劇場の公演としては、やや規模の大きな公演です。話し合いで算出された支出の合計は約400万円。これに対し、収入が約930万円と、かなり多めです。この班のメンバーによると、「期間が2週間と長い分、大きくなる収入をどのように使うのか、それで本当に収支が合うのかということをシミュレーションするには、もう少し考える時間が必要だった」ということです。

 

「何に、どのくらい使うべきか」、「メンバーをどのように満足させるか」ということは、一回目のゼミのキーポイントでした。実際には、やったことのないような大きな公演にいきなり挑むことはめったにないと思いますので、経験を踏まえ、時間をかけてシミュレーションしていけば、現実的な公演予算を組むことができそうです。

 

◆ 三班 ヨーロッパ三か所を回るツアー
(ジャンル:演劇、出演人数:6人、演出家:1人、舞台装置あり)
舞台装置を運びながら、ドイツ、オーストリア、ハンガリーの三か所を回るツアーということで、今回のグループワークの中では、最もおおがかりな予算シミュレーションになりました。

 

支出は約670万円。対して、各国で支払われる上演料をベースにした収入は約550万円。120万円ほどの赤字になりますが、この分は助成金を申請してカバーしたいとのこと。もし、申請が通らなかった場合は、出演者から1人20万円程度の参加費を徴収することになるのだそうです。移動日や仕込み日、オフの日も盛り込んだスケジュールが大まかに立てられ、飛行機と鉄道を使い分ける工夫もなされており、現実的な数字だといえそうです。

 
 

国内なら国内ならではの、海外なら海外ならではの事情が発生することだと思います。今回は、特に海外公演特有のお金の使い方や、シミュレーションに重点が置かれましたが、状況に合わせて、目的を達成するためのお金の使い方を考えるという基本の部分は、国内公演と変わりはないのだと分かりました。

 

最初に植松さんにお話しいただいた「海外公演の税率」のような知識を得ることや、配慮すべき点を押えることは、経験者に尋ねたり、自ら経験を積んだりすることでしかクリアできないと思います。けれど、グループワークを行うことで、メンバーから知識を得たり、別の視点を取り入れたりすることで、予算の精度を上げていくことができそうです。

 

次回までの課題として、受講生には「予算シミュレーションの“自由研究”」が出題されており、この“自由研究”は、次回ゼミ内で発表されます。受講生それぞれの活動に応じた予算の組み方や、いろいろな視点を知る、とても刺激的な回になりそうです。(斉木)

2014年06月26日 講義・セミナーレポート