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矢作勝義の「劇場オープンまでの長い道のり from 豊橋」Vol.2

12.06/13

皆様ご機嫌いかがでしょうか。愛知県豊橋市からVol.2をお届けします。
豊橋での生活も3ヶ月目に入り、非常に安定した状況になってきました。早起き、自転車通勤、自炊、弁当男子、湯船に浸かってゆっくり入浴。早寝だけは崩れてきましたが、東京にいた頃には考えられないような生活パターンです。劇場のオープニングが近づけば忙しくなってくるでしょうから、この生活もいつまで続くかは分かりません。
この1ヶ月間の状況ですが、ゴールデンウィークに新劇場オープンに向けてのプレ事業として、『とよはしアートフェスティバル』を実施しました。これは、5月3日・4日の2日間に駅周辺広場などを会場にした大道芸イベントと、5月4日・5日に芸術文化アドバイザーである平田満さんが主宰するアル☆カンパニー「家の内臓」の上演を駅前文化会館という前回紹介した会場で行いました。
今回のような本格的な大道芸イベントは豊橋では初めてだったようで、見に来た人達はとても楽しんでいたとのことでした。大道芸のプロデュースは、世田谷の『三茶de大道芸』や、高円寺の『びっくり大道芸』などの数々の大道芸フェスの仕掛け人であり、東京都ヘブンアーティスト審査員でもある橋本隆雄さんです。彼のセレクションによるアーティスト達の芸は、豊橋の人たちにとって、これまでの大道芸のイメージを遙かに凌駕するほどのものだったようです。背高のっぽの怪鳥ダークラクーの後を子どもたちが追いかけ、ゴールデンズ(大駱駝艦)の金粉ショーは、中高年のカメラおじさんを引き寄せていました。朝早い時間は雨天だったこともあり天候には最後まではらはらさせられましたが、開始時間には雨もあがり、最後まで雨が降ることもなく行われました。ただし、ゴールデンウィークと言うこともあり、出演者の豊橋への移動手段確保に苦労したり、バス移動組は渋滞に巻き込まれて到着が遅れたりと、様々なハプニングはありましたが、来年に向けて様々な課題と展望を確認できました。そのようなことよりも、見に来てくれたお客さんがとても楽しんでくれていたのが印象に残りました。
さて、今回は豊橋周辺の劇場施設の状況をご紹介したいと思います。周辺と言った場合、静岡、愛知、岐阜、三重といった東海・中部エリアが周辺地域と言えるかと思います。

このエリアで積極的に活動している劇場として目安になるのが、まずは文化庁の「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」の助成対象となっている施設かと思います。重点支援劇場・音楽堂で5年継続採択なのがSPAC静岡県舞台芸術センターで、地域の中核劇場・音楽堂で5年継続採択なのが愛知県の知立市文化会館(パティオ池鯉鮒)、岐阜県の可児市文化創造センターalaです。また、地域の中核劇場・音楽堂で24年度単年度採択の施設としては、静岡市静岡音楽館AOI、静岡県コンベンションアーツセンターグランシップ、愛知県芸術文化センター、三重県総合文化センター(三重県文化会館)があります。

それ以外に積極的に活動している劇場としては、愛知県の長久手市文化の家があげられるかと思います。音楽事業を中心としたところは他にもあるかと思いますが、演劇・舞踊事業を積極的に展開し、様々なところで取り上げられているのが上記の施設かと思います。

この中では、重点支援劇場に指定されているだけあり、丁度今行っているフェスティバルを見て分かるとおり、SPACが行っている自主制作公演、海外招聘公演のクオリティとボリュームは圧倒的なモノがあります。これは全国レベルで見たとしても別格とも言えるでしょう。
次に、位置関係を確認します。白地図に私が主な劇場と土地をマーキングしましたので、それをご参照ください。(多少の誤差はご容赦ください。)

静岡から名古屋へ向かう新幹線の途中駅に、浜松、豊橋が隣接してあり、この2つの距離は新幹線で15分程度になります。この間が静岡県と愛知県の県境になります。ちなみに、こだまで静岡〜浜松が30分、豊橋〜名古屋も30分程度です。
次に、名古屋を基点にしての距離を見てみます。

在来線の特急・快速などを利用した場合、それぞれ名古屋から、三重県文化会館は1時間強。可児市文化創造センターは約1時間。豊橋は50分。知立文化会館が、名鉄線とバス・タクシーで約30分。長久手市文化の家は、地下鉄とリニモと徒歩で約40分となります。(距離的には名古屋からは長久手が一番近いのですが、他が特急・快速を利用した時間なのでこうなっています)移動時間だけを見ると、東京の感覚からするとそれほど離れていないように思われるかもしれません。しかし、首都圏とは異なり、在来線でも特急・快速を使用しての1時間ともなると相当の距離になります。つまり、それぞれは顧客圏がほとんど重なっていないようです。どの施設もいかにして地元地域からお客様を集めるかを努力しており、広範囲からの集客に依存しているわけではないようです。もちろん、内容や状況により遠くからもお客様が来ることもあり、広範囲からの集客を見込むことはあるかと思いますが、全体としてはそれをあてにしているわけではないようです。

この中では知立が豊橋と一番近く、知立市文化会館(パティオ池鯉鮒)は名鉄線で豊橋から40分程度の距離にあるのですが、顧客圏としては被っていないというのが双方の実感です。それに、豊橋の人はあまり東三河の外にでない傾向にあるようですが。

だとすると、本来ならばもっと東海・中部圏内でのツアーなどが積極的に行われてきてもよかったのではないかと思うのです。それぞれの事情などもあるので一概には言えませんが。この点に関しては、劇場がオープンした際には、豊橋が東と西の橋渡しの機能を果たすことが求められているのではないかと考えています。
5月〜6月にかけて上記の劇場・ホールなどを含めいくつかの施設へお伺いしました。積極的に事業を展開し、それがある成果を生み出している施設の共通点は、キーとなるアイディアマンでありかつ積極的に行動されている方がいること。地域との協働事業が上手く展開していること。ボランティア組織・集団が劇場のサポーターとして機能していること。最後に、スタッフがその劇場・施設に対する愛に溢れていること。

立地条件や建物としての施設環境や予算などはそれぞれの事情があるかと思います。しかし、そんな中でもデメリットをメリットに、ウィークポイントを強みに転嫁できるような工夫と発想と努力と行動があってこそ、建物としての施設に魅力が備わってくるのではないかと思います。

豊橋もこれからオープンする後発の劇場としては、先人の叡智を受け継いで多くの方に愛される施設になるために何をするのかを考えて行動していきたいと考えています。



■矢作 勝義(やはぎ・まさよし)■

1965年生まれ。東京都出身。公益財団法人豊橋文化振興財団『穂の国とよはし芸術劇場PLAT』事業制作チーフ。東京都立大学(現・首都大学東京)演劇部「劇団時計」から演劇に本格的に関わる。卒業後は、レコーディング・エンジニアを目指しレコーディングスタジオで働き始めるが、演劇部時代の仲間と劇団を旗揚げするため退職。劇団では主宰、演出、音響、制作、俳優を担当。ある忘年会で、当時世田谷パブリックシアター制作課長だった高萩宏氏(現東京芸術劇場副館長)に声を掛けられ、開館2年目にあたる1998年4月から広報担当として勤務。その後、貸館・提携公演などのカンパニー受入れや劇場・施設スケジュール管理を担当するとともに、いくつかの主催事業の制作を担当した。主な担当事業は、『シアタートラム・ネクストジェネレーション』、『リア王の悲劇』、『日本語を読む』、『往転-オウテン』など。また、技術部技術運営課に在籍したり、教育開発課の課長補佐を務めるなど、世田谷時代は劇場の何でも屋的な存在としても知られた。2012年3月末をもって世田谷を退職し、2013年5月オープン予定の“穂の国とよはし芸術劇場PLAT”の開館準備事務所にて事業制作チーフとして勤務中。


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