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「制作のスパイス」第3回:樋口貞幸さん(NPO法人「アートNPOリンク」常務理事 兼 事務局長)

15.06/23

「アートNPOリンク」の活動

僕は「アートNPOリンク」ってアート団体ではなくて人権団体だと思っています。個々のアートNPOというのは、地域社会、コミュニティの中において多様性を保障する存在であるし、表現の自由を担保する存在であると思います。その意味において、基本的人権に関する活動をしていると捉えています。
アートの存在が認められない社会というのはどういう社会でしょう。そこから考えるとより鮮明になるかもしれません。端的には、“表現の自由”が保障されていないということです。
自由に意見が言えない、表現が抑圧される、集い話し合うことが許されない…そんな社会の実現を夢見る人はほとんどいないと思います。アートという極めて個人的な表現とは、それこそが極めて政治的なことであり公共存在であるということです。アーティストがそれを認識しようがしまいが、僕にとってアートとは、極めてパブリックな存在なんです。ときどき、アーティストから、私たちは政治的なイシューに関わっていませんと表明されることがあります。逆説的かもしれませんが、政治に関わらないというその選択こそが政治的であると思います。

それは、理事や参加しているNPO団体との間で合意していることなのですか?

どうでしょうね。そこはいろいろな捉え方があっていいと思います。

そのあたりの具体的な論理というのは、樋口さんの中ではいつごろから明確になっていったのですか?

人権団体と自覚し始めたのは、沖縄で全国アートNPOフォーラムをやった頃(2008年)かもしれません。でも設立当時から、「自治」という言葉を使っています。「第1回全国アートNPOフォーラム」で生まれた「アートNPOリンク」のステートメントには、「市民自治の理念に基づき・・・」と最初に書いてあり、行政ではなく市民自ら文化振興を担うと言っているんですね。そこは揺るぎないです。

表現の自由を奪われないように守る、その理念の浸透を加速させていくという活動とも言えるわけですね。

劇団やアート団体の法人化について

ここで少し話題を変えたいのですが、劇団やアート団体が、法人になる場合に、どういった法人の形態があり、どういった法人形態が活動に合致するのか、そのあたりのお話を伺ってもよろしいですか?

組織論を先にするのか、活動の話を先にするのかで変わってきます。ただ、個人的に思うのは、そもそも何かしらやっている活動や切実にやりたいことがまずあって、必要に迫られて法人化するというのが本来だろうと思います。なので、組織論が先にあるのは、正直、理解に苦しむところです。
自分たちの活動の実態に合致しているものを選べばいいだけだと思います。
法人格を先に決めてから活動をはじめると、法人に帯びる性格と活動の実態とが一致しないアイデンティティ・クライシスを起こしかねません。

2008年の新公益法人制度の施行によって、選べる法人格が格段に広がりました。
「営利」か「非営利」かを選ぶのは比較的わかりやすいですよね。もちろん、営利を目的としながら社会的な活動をする社会的企業もありますが、いずれにせよ営利を目的にするなら、「株式会社」「合資会社」「合同会社」「合名会社」「総合会社」から選ぶことになると思います。
非営利で公益を担う場合は、「公益社団」「公益財団」「特定非営利」「認定特定非営利」になります。それ以外だと、「一般社団」「一般財団」「宗教法人」「社会福祉法人」「医療法人」「労働組合」「農業協同組合」「監査法人」などから選ぶことになります。

広義では、非営利の組織的活動を総称してNPO(Non Profit Organizetion)というので、法人格のある無しは問いません。

公益に資するという点に加えてもうひとつ大事なことは、民主的なプロセスと公共性の担保をどのように制度化したかという点です。
特定非営利活動法人は、NPO法によって理事は3名以上必要で、業務と経理の透明性を確保するために監事が必要だと定められています。さらにもっとも重要な意思決定機関である総会で議決権を持つ社員(法律上の用語)が10名以上必要だと決められています。最低でも、組織の運営に10人もの人が必要となるんです(理事と監事は兼務できないが、社員になることはできるため)。
それに比べて2008年にできた「一般社団法人」は、理事は1人以上、社員は2人でかまいません。つまり、独断が比較的簡単にできる形態といえ、迅速さを要求される現場や、当事者性の強いグループに比較的向いています。
もしかすると、演出家の権限の強い劇団であれば、「一般社団」の方が向いていると言えるかもしれません。
いずれにしても、何のために私たちは演劇をやっているのかというところに立ち戻ることになると思います。

当事者以外も参加していく構造を、必要とするかどうかということですよね。

補足します。当事者だけでもいいのですが、自分たち自身をエンパワーしたいという場合には、「一般社団」が向いていると思います。当事者の存在を公的(パブリック)な問題として社会に提示していくという場合には、社会的な議論が必要になりますから、「NPO法人」が向いていると思います。

とはいえ、向き不向きだけともいえない興味深い事例もあります。「一般社団法人」ができる前は、「NPO法人」か「株式会社」しか選択のしようがなかったので、多くの実演団体が「NPO法人」となりました。ある音楽実演家団体が、自分たちの公演機会を増やすことが目的だったにも関わらず「NPO法人」にしたことによって、社会に対して自分たちの存在意義を問うていくということが必要になり、必然的に社会を意識するようになったという話を伺ったことがあります。なるほど、そういうことも起こりうるのかと思いました。

外見が性格を変えていくこともあるんですね。

おもしろいですね。なにごとにも例外があるということでしょうね。あと、瑣末なことかもしれませんが、公益の認定主義、認証主義というのがあります。「一般社団」、「一般財団」、および、「NPO法人」は、基本的に書類に不備がなければ、法人として設立が認められる「認証主義」という形態をとっています。
一方、「公益社団」、「公益財団」、「認定非営利活動法人(認定NPO法人)」は、「公益性が認められねばならない」という要件があります。公益を認定するにあたって、「公益社団」、「公益財団」は、公益認定等委員会による認定を受けなければなりません。「認定非営利活動法人」は、「パブリックサポートテスト」をクリアーするという方式で公益性を担保します。
ここでは詳細は省きますが、誰が公益性を認めるのかという点について、それぞれに異なりますので、場合によっては法人選択の目安になるかもしれません。

海外では、非営利組織への寄付には、税制控除が行われますね。

海外といってもそれぞれの国で法律が異なるので、一律には言えません。日本でも「公益社団」や「認定NPO法人」のように、寄付控除や法人税の控除を受けられる法人格があります。税金の控除というのは、税金が安くなってラッキー!ということではなく、自ら税金の使い道を決めるということです。
つまり個人の寄付や企業協賛もまた、公的な資金だといえますね。

経営に、営利、非営利の違いはありますか?また法人格を持つことの意味は何ですか?

営利/非営利は、あくまで利益の分配を個人(株主)にするのか、社会的な事業に充当するのかの違いであって、経営は「NPO法人」であれ、「株式会社」であれ同じだと思います。

法人格を持つ、持たないで決定的に変わってくることは、労働者の権利です。
法人は雇用する労働者に対して雇用保険、労災、社会保険(年金、健康)を掛ける義務が発生します。法人格を持つことによって、法人税の義務など、より社会的な存在であることを問われます。中でも労働者の権利保障は大きいですね。
労働者の権利というのは、労働者の方々が長い年月をかけて戦い獲得してきた人権運動の歴史です。決してないがしろにはできません。

最後に、ボランティアについて、補足させてください。
最近になって、僕がボランティアで活動してきたのは間違いだったのではないかと思うようになりました。昨今の舞台芸術に携わる人々の労働実態をみていて、かつて、ボランティアでいろいろとやってしまったことが、現在の不安定な雇用状況を引き起こしてしまっているのではないかという危惧を抱いています。考え過ぎかもしれませんが、これから先の未来をみていくうえで、ボランティアについて検証した方がいいと思っています。単純労働にはアルバイトで、やりがいを自分で得ていくような自発的な関わり、あるいはなにかしら金銭によらないリターン(経験やネットワーク)のあるものはボランティアがいいと言われがちですが、本当にそうでしょうか。結論があるわけではありませんが、これからオリンピックムード一色に染まって行くなかで、文化事業であれスポーツイベントであれ大量にボランティアが求められるでしょう。2020年以降の社会に向けて、改めてボランティアについて考えないといけないと思っています。

<取材後記>
当初は、これから法人化を目指す舞台芸術団体にとって、法人形態の選び方を伺う目的でインタビューを始めました。けれども、樋口さんのお話を聞いているうちに、各々の団体の目指すところは何か(使命)、誰のために活動していくのか(顧客)、何を提供していくのか、あるいは、何を還元していくのか(価値)を考えることで、おのずと選択すべき法人の形態は、決まってくるのだと思いました。
同時に、法人形態を選択すること、ときにそれは、制度自体の何を守っていくかの選択でもあるのではないかと思いました。その視点は、その制度ができた歴史や背景という文脈〈過去〉を知ることで、意味や価値を知り〈現在〉、後世にも活かしていくことができる制度として、どう守っていくのか〈未来〉という視点に基づくものだと思いました。
アートの表現やその表現のサポートは、とても私的な思いから出発することだと思いますが、その活動の多様性を、価値として社会の中で位置づけることが、その活動に直接関わる人の、または直接関わることのない人の人権や表現の自由を守っていくことにも繋がるという考えに、とても感銘を受けたインタビューとなりました。それはNPOという法人形態に顕著ですが、私は、任意団体であっても、個人であっても同じように意義づけることができるのではないかと思いました。

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