Next舞台制作塾

舞台制作インターンのよりよいあり方:インターンシップとは?「人手不足」と「人材育成」

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こんにちは。Next舞台制作塾事務局の斉木です。
9月16日に、第6回オープンサロンを開催しました。昨年の秋から二か月に一度のペースで実施してまいりましたので、早いもので開始からだいたい一年になるんですね。

 

さて、第6回のテーマは「舞台制作のより良いあり方」でした。私たちはこれまで、舞台制作塾で実務スキルや制作を続けていくためのメンタリティなどを取り扱ってまいりましたが、同時に劇場などで行われているインターンシッププログラムをはじめとした現場での人材育成についても少しずつリサーチをしてきました。その過程で、インターンの参加者から「思っていたような経験はできず、雑務ばかりだった」という指摘を受けたり、受け入れ側から「思っていたような人材が集まらなかった」という感想を聞いたりすることがありました。このミスマッチは一体どういうことなのでしょう?

 

このような疑問から、9月のオープンサロンでは、「舞台制作インターンのより良いあり方」をタイトルに掲げて、舞台制作者としてのキャリアのスタート地点のより良いあり方について考える会を開きました。当日は、劇団、制作会社、公共劇場、フェスティバル、中間支援団体の方だけでなく、インターンシップに参加したことのある方、参加検討中の学生の方も一緒に、この問題について考えました。沢山の話をしましたが、ここでは特に重要だと感じた三つの話題を取り上げたいと思います。

 

「インターンシップ」という言葉の一人歩き

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「インターンシップ」とは、そもそもは学生が就労体験をする制度を指す言葉です。現在、就職・採用の双方において、インターンシップが重要な意味を持つものになってきています。

 

一方で、公共劇場では、文化庁の劇場音楽堂活性化事業によって人材育成が支援されていることもあり、全国的にインターンシップ事業が盛んに行われています。しかし、その内容は事業によって様々ですし、必ずしも就職と関係があるわけでもありません。むしろ、公共劇場のインターンでは、採用を前提としない場合の方が圧倒的に多いようです。また、公共劇場などの受け入れ側が主催事業として行うものとは別に、大学などが授業の一環として劇場などに依頼し、学生を一定期間現場に送り込むというものもあります。

 

現在、これらは特に整理されておらず、同じ「インターンシップ」という言葉が使われているようです。このことをまず確認しておくことで、個々のインターンシッププログラムが「何なのか」が分かり易くなります。

 

「人材育成」と「人手不足」をいっしょくたに考えてはいけないということ

舞台制作の現場は、慢性的な人材難に陥っていると言われています。そのためか、インターン生を受け入れる体制が十分ではない場合もあり、その結果として、インターン生が「労働力」として扱われてしまうことがあるようです。また、「人手」としての期待を込めてインターン生を募集することがある、という指摘もありました。

 

もちろん、そういった状況下で働くことで得られる経験や、磨かれる技術もあるでしょう。しかし、下働きのようなもので期間が終わってしまい、「舞台制作を学ぶ」というインターンシップの本来の目的を果たせなかったとしたら、インターン生には不満が残りますし、受け入れ側の「インターンシップ事業」は失敗ということになります。

 

この話の中では、「下働き的なインターンを経験した学生が、その後、舞台芸術に魅力を感じなくなってしまうのではないか?」という懸念の声も上がりました。どんな団体であれ受け入れる側も、ボランティア(労働)なのか、インターン(育成)なのか、きちんと切り分けて考えなければならないのだと思います。

 

「学校」と「インターン生」と「受け入れ先」の間に入る専任の担当者の役割

大学のインターンシップの場合、まず「何を学びたいのか、何を目的としているのか」をインターン生がしっかり自覚しなければなりませんので、そのためには事前の準備が必要になります。プログラム期間中は、インターン生と受け入れ側に齟齬がないかを注意しなければいけません。そして、期間が終了した後には、まとめと評価をする必要があります。

 

こうした一連のプログラムには、「学校」、「インターン生」、「受け入れ先」の三者が関わることになりますが、当事者同士では上手くいかないことがあります。例えば、学校(つまり授業を受け持つ教員)は他にも仕事を抱えているため、すべてのインターン生を完璧にはフォローしきれない場合もありますし、インターン生と受け入れ先との間できちんと学びが行われているかどうかは、当事者同士では確認が難しいことがあります。そこで、専任の担当者が、三者の間に入って各方面のフォローし、三者のコミュニケーションやプログラムの円滑な遂行を促す場合があります。国内では、舞台芸術系よりも音楽系の大学で比較的活発にインターンシップが行われていますが、そこで採り入れられている方法のようです。

 

受け入れ側が主催する事業でも、専任の担当者を立てられればプログラムを成功させやすくなるようなのですが、劇場がすべてを担うのは人員上、あるいは予算上、困難なこともあるようです。こうした役割をどこに属する人が担うべきか、プログラムによって状況が変わるかもしれませんが、確かにこうした役割があることで、よりよい学びの場を作っていくことができそうです。

 

ここでは、主に大学や公共劇場が実施しているインターンシッププログラムについての議論を紹介してきましたが、当日は学生参加者の質問から、舞台芸術の業界での「就職」や「フリーランスとして活動すること」についての話に発展したり、民間の現場(劇団や民間の制作会社、フリーランスの制作者が制作を務める現場)に関する話題が挙がったりもしました。

 

ひとつ印象に残ったことは、「公共劇場のインターンは就職には直結しないが、参加することで人脈が広がり、結果として舞台芸術の業界で働くチャンスに恵まれることもある」ということです。厳しい現実ではありますが、舞台芸術の業界で安定した収入を得られる仕事に就ける人はごく少数です。しかし当日には、劇団やインターンシップなどで人脈を広げていったことが、公共劇場への就職に結びついたという参加者も居り、非常に説得力のある言葉だと思いました。

 


今回のサロンで、今までよく知らなかったインターンシップの事例や、人材育成を担当している人々がどんな考えを持っているのかということなど、たくさんのヒントを得ることができました。今回の話し合いを参考に、これからも様々な人々と協力しながら、引き続きいい形を探っていきたいと思います。

参加者にレポートを書いていただきました。
>>「舞台制作インターンのよりよいあり方」参加者レポート・感想
次回オープンサロン ※終了しました。
芸創ゼミvol.70 Next舞台制作塾 オープンサロン@大阪「舞台制作者の仕事、徹底分析!」
登壇者:笠原希(演劇制作会社ライトアイ 代表)、藤原顕太(Next)
ファシリテーター:鳥井由美子(劇団子供鉅人 制作)

2014年11月17日 講義・セミナーレポート