Next舞台制作塾
この夏に大阪で実施されるNext舞台制作塾EX「舞台芸術制作者になるため、続けるための実践型アーツマネジメント@大阪」も間近に迫って参りました。
今回の講座は、2名の講師によってプログラムがされています。一人は舞台芸術制作者の人材育成と労働環境整備を行うNPO法人「Explat」理事長で、フリーランスの制作者でもある植松侑子さん。もう一人は、東京の制作塾で講師を務め、現在は2016年にオープンする劇場「ロームシアター京都」で開設準備スタッフとして活躍する武田知也さん。
お二人に、今回の講座の内容をインタビューして参りました。(聞き手:藤原顕太)
(写真左より、植松侑子さん、武田知也さん)
Q 舞台芸術制作者に「なるため」「続けるため」に必要な要素とは何だと思いますか?
【植松】
制作者になる、というのは実はそれほど難しくないと思います。なりたいというモチベーションがそれぞれの人にあると思うので、飛び込んでさえしまえば、労働条件やスキル確保の問題はあるけど「なる」ことはできると思います。
本当に大切なのは、それを10年20年、30年と職業として続けられることです。労働環境も整っていないため、制作者になったあとで壁にぶつかって燃え尽きてしまう制作者は多いです。
続けるために必要なのは、そもそも舞台芸術制作者は何をする仕事かということの理解です。しかし、これは立場や組織によって全く違い、統一された一つのフォーマットはありません。
だからこそ制作者ひとりひとりが、「自分はこの仕事をしていて何を喜びに感じるか」ということと、「なぜこの仕事が社会にとって必要か」ということについて、借りてきた言葉ではなく、その人自身が本当に腑に落ちる答えを見つけることが重要です。
【武田】
どんな仕事でもそうだと思いますが、私は「やりたいこと、やれること、やるべきこと」の意識が重要だと思います。
そこに、自分なりの折り合いの付け方というか、こじらせないようにしていくことが、仕事を続けることの大前提となります。
「やりたいこと」は、自分の欲求から出てくることを、シンプルにしっかりと見つめること。「やるべきこと」とは、目の前の現実の中から問題を発見したり、今の自分を取り巻く「社会」の状況を自分なりに捉え、「射程」を見定めること。そして「やれること」は、他の2つから見えてくることを実現できる力、自分の能力が活かせる「場」を発見する力です。
この3つを並行して考え続け、常に更新することが必要だと考えます。
Q お二人は「フェスティバル/トーキョー」を始めとする様々な現場での経験を持たれていますが、そのお二人とも、仕事続けることを考えたときに「社会」という言葉がここで出てきたところにポイントがあるように思います。現在大学をはじめ、様々なところで「社会と芸術」の関係に関する講座が行われていますが、それらと比較したときに、この講座はどのような点が特徴的だと思われますか?
【植松】
大学をはじめとするアカデミックな授業で重要なのは、本来こうあるべきという「理念を教えること」と「思考の枠組みをつくる」ことだと思いますが、一方で現場は別のロジックで動いていて、理想通りにいかない、不条理なこともとても多いと思います。アカデミックな考え方と現場感覚はともに重要です。
この講座の場合、現場で行政や観客、アーティストとのいろいろなやりとりの間で悩みながら、それらをなんとか克服して職業的スキルを磨いてきた二人(武田・植松)が講師をしています。今回は実践的な立ち位置から、理念的な部分に触れていけると良いと思っています。
【武田】
実践型という意味でいうと、いま現在、進行していることを大切にしたいと思います。既にある答えを学ぶというよりも、私たちが現在向き合っている現場の課題や状況を踏まえ、それに対する考え方を話し合う中で、受講生それぞれの活動とが、結び付くような講座にしたいと思います。
Q 6日間の講座はお二人が交互に担当しますが、そのプログラム内容や行いたいことについて、内容を簡単にご紹介いただけますか。
【植松】
私は予算書や企画書、プレスリリースなど、プラクティカルなことを話す回が多いです。そこでは実務的なことだけではなく、その背景の考え方に重点を置きたいと思っています。というのも、企画書や予算書といっても、公演やプロジェクトが変われば、10種10通りの異なるものになります。個別の具体的なテクニックも学びますが、本当に重要なのは応用できる考え方の部分です。
テクニックは先輩がいれば教わることができ、フォーマットは所属組織でこれまで使ってきたものがあれば、利用することができると思います。
しかし、現場では考え方まで掘り下げて教える時間があまりないというのが実情ではないでしょうか。だから今回は、考え方を体系化する作業をやりたいと思っています。本人の中に思考のためのフレームワークができていれば、それが現場に入ったときの武器になるからです。
また、最終日の講義「制作者として何を武器にするか?」では、社会の中で自分の才能や強みをどう活かして生き生きと働いていくかということをみんなで考えたいと思っています。これは制作に限らず、もし将来的にこの業界を離れていくことがあったとしても、きっと別の場所でも重要になってくることだと思います。
最終日はワークショップも予定しています。ここではその人自身の企画や、やりたいことを振り返る作業を重点的に行う予定です。
【武田】
私は主に、二つのことを扱いたいと思っています。
一つは先程の「やりたいこと、やれること、やるべきこと」の延長となる話ですが、芸術に関わる仕事をしている制作者自身が、芸術ということをどのように捉え、考えるか。そして、その対象とする相手、社会をどこに設定し、どのようにアプローチするか。講義、ワークと順々に取り組むことで、そのことに参加者が向き合えるようになればいいと思っています。
この視点を獲得するために、ゲストの力を借りたいと思っています。東京の制作塾では様々なモデルを作って実践している制作者をゲストに迎えましたが、今回は、もう少し引いた視点に立っている方をゲストとして招き、私たち自身の活動のバックボーンとなる、芸術と社会のことを一緒に考えていきます。
もう一つは、地域のことについてです。この講座では関西地域で活動をしていきたい、もしくはしている人が多く参加されると思います。その地域特有の問題があると思うので、芸術と社会を見つめるポイントを抑えた上で、受講生がどういうアプローチができるかということを具体的に考えるワークをしたいと思っています。
また発表されているゲストとして、おおさか創造千島財団の北村智子さんにもお越しいただきます。北村さんからは、財団の特徴的な活動紹介をしていただき、それと大阪の地域性がどのように関わっているのかなどをお伺いしたいと思っています。
Q 今回は参加者への特典として、個別面談がありますね。
【植松】
この仕事は、一つの答えがすべての現場に通用するということはなく、永遠に応用問題を解いていくような面があります。
今回の講座の中で、基礎の部分はもちろん一緒にしっかり組み立てたいと思いますが、その先にある、個々人が今まさに向かい合っている問題に対しては、一般化できないですよね。マンツーマンの時間を別に設けることで、参加者それぞれが本当に知りたいことのヒントが見つかるのではないかと思います。
この講座は、理想論だけではない「実際のところ」を聞けることが特徴だと思います。他の制作者に聞きづらいことっていろいろありますよね。労働環境とかデリケートなことは特に。でもそれを知らないと、自分のやっていることや置かれている環境が妥当かどうかの判断はつきづらいですよね。そういうことがこの業界はいっぱいあるので、可能な限りこの講座では皆さんの疑問に答えたいと思っています。
こういう場でしか聞けないことがあるので、聞きたいことを全部ぶつけてください。
Q 最後に、講座に興味を持っている人に向けて、一言お願いします。
【植松】
この講座に来る人は、現在何かしらかの問題にぶつかっている人、現状に100%の満足はしていない人だと思います。
講師の私たちもいろんな問題に悩んできたし、講座に来る人の中にも同じような問題を抱えている人がいるかもしれません。
この講座は、仕事を続けていくために必要な「心の栄養」を、それぞれどのように充たすかということを見出すための時間、そして既に働いている方であれば、自分の仕事に誇りをもつための6日間にしたいと思います。
【武田】
悩んでいる人が参加したら、この仕事をするためのイメージが湧き、次の第一歩になることは間違いないと思います。
すでに実際仕事をしている制作者の方は、同世代の制作者の講座にある程度のお金を使って参加することに抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし、職場などの普段の仕事とは違う場所で、もう一度自分のやっていることを問い返す、見直す機会があることはとても大事ですし、そのきっかけがあるときに、飛び込んで欲しいと思っています。講座を通じて、同じ志をもっている人同士が出会う場となれば、嬉しいですね。
【植松】
同じ組織の人ではないからこそ相談できるような、距離感のあるつながり、ネットワークは今後の財産になると思いますしね。
2015年07月03日 スタディノート