「制作塾」というものに、どのような人たちが興味を持ち、どのような講義やWSが望まれているのか。そのことを想像してみたものの、うまく想像がつきません。それは当然のことで、僕の中に「制作塾」というもののリアリティが、そもそもないからです。こればかりは悩んでいても仕方ないので、頭を切り替えて、今後「どのような制作者が必要とされるだろうか？」と自分なりに考えることから始めました。

「ブランディング」、「コミュニケーション・デザイン」という言葉を聞いた事がある人は多いと思います。では、その内容を理解している人はどのくらいいるのでしょうか。さらには、それを実践するとなれば、それはもはや専門家の仕事だと思われてはいないでしょうか。しかし、「ブランディング」や「コミュニケーション・デザイン」という考え方や視点というのは、制作という仕事において非常に重要です。

「ブランディング」も「コミュニケーション・デザイン」も、元々は広告的な視点で開発され、確立された考え方であり手法ですが、その根本にあるのは、「自らの立ち位置とビジョンを明確にし、そのことを丁寧に周りの人へ伝え、共有する」ということです。広告的な視点で作られた考え方・手法なので、それらを広報に活かすことは容易ですし、それだけでなく、自分たちの目指すべきものを明文化し共有することで、自らがマネージ（もしくはプロデュース）するカンパニーの大きな行動指針にもなります。日々の仕事をする中で常に自らの立ち位置とビジョンを明確に意識することで、無駄を省き、効率的に仕事が出来るようになる、そしてモチベーションを維持しやすくなる、結果として、良い仕事につながっていく、という好循環をも生み出します。

舞台業界に身を置いて、その期間が長くなればなるほど、自分のいる業界や自身の立ち位置を客観的に見られなくなってしまったり、もしくは、日々の業務に追われることで視野が狭くなり、大きなビジョンやミッションを見失ってしまいがちです。こうした問題に自ら気付けている人もいれば、こうした問題があることに気づくことすら出来ず、闇雲に仕事をしていく中で追い込まれていく人もいる。

しかし、「ブランディング」や「コミュニケーション・デザイン」の考え方や手法を学び、客観的な視点を持ち、ビジョンやミッションに従って仕事を進めていくことは、仕事のクオリティを上げるだけなく、その仕事が届く範囲を拡げ、社会的に意義のあるものへと昇華していくことに繋がっています。

もう一度、「制作」という仕事とはどういうものであるべきなのか、「等身大の（実感の持てる）パースペクティブ」を持ってみんなで考えてみたいと思います。そして、みなさんとの対話とそこで生まれてきた実感を大切にしながら、講義とWSを進めていきたいと思います。是非、ご参加ください。(奥野将徳)