制作ニュース

柿喰う客 女体シェイクスピア001「悩殺ハムレット」制作・斎藤努(有限会社ゴーチ・ブラザーズ)

12.04/01

ある程度負担がかかっても、若い人と一緒にチームを作りたい


(c)引地信彦

――4箇所を廻って、1ヵ月強のツアーだったんですが、一番大変だったのはどういったことですか?やっぱり台風?

台風かぁ。でも、慣れたって言ったらおかしいですけど、2011年はいろいろあったので*7、そういう緊急時の対応は得意になった自信がありますね。

――ああ、なるほど。

お客さんからのクレームもあるし、「どっちを取るか」みたいな話にもなってくるんですけど、何が大事でどうしてこれをやってるのかということが明確なので、お客さんへの説明も、スタッフへの指示も的確にできるようになった気がします。だから、台風はそれ程大変ではなかったですね。それよりも苦労したのは、全体のスケジューリングですね。僕自身そんなにツアーに慣れているわけじゃなかったので、出来るだけ毎週末に公演をやれる方がいいと思って組んだんですけど、合間の平日をどうするかってことに結構悩まされました。普通だと一旦東京に戻さなければいけないんですけど、若い俳優が多かったので、前もってマネージャーさんと「今回は合間で東京に戻らないつもりなんです」って相談しました。「もしどうしても帰らないといけない場合は、経費について相談させてください」って。

――トラブルにはなりませんでしたか?

幸いそれはなかったです。理解あるマネージャーさんが多かったので助かりました。僕としては、一旦帰る交通費と、公演の間の宿泊費とどっちの方が経費がかからないのか、相当計算しました。まあとにかく、僕はもう30代ですけど、主要メンバーが20代の集団は、若いうちに大阪1都市でもいいのでツアーを経験すべきだなって思います。どの劇場に行くのか、移動をどうするのか、どうすれば経費を抑えられて、どこで高くついてしまうのか、そういうのって、一回でも経験してみないと理解できないし身につかないから。若いうちなら、夜行バスで移動したり、安宿に泊まるとか多少は無茶が利くし。あ、「柿喰う客」はこの『悩殺ハムレット』で初めて、新幹線移動になりました。「こだま」ですけど。

――そうでしたか!

これまではスタッフも含めて夜行バスでの移動だったので、今回「こだま」ではあるけど新幹線で移動させられたっていうのは、なんかそれだけで達成感がありました(笑)。

――ツアー全体を通してよかったことは何ですか?

よかったことは、若い制作チームでこれだけの規模の公演を回せたことですね。実は僕が制作チーム最年長で、あとは当日運営も制作周りもほぼ20代中盤以下の若手ばっかりだったんですよ。大阪チームは僕が大阪で一緒にやってたメンバーが多かったので少し上の世代ですけど、サポートチームが学生中心だったので全体的にはすごく若いチームだった。そういう若い人たちと上手くチームを作って、公演を作れたっていうのは、いいことだなあと思います。今後もそれは続けていきたい。シアタートラムぐらいのキャパシティで、全席指定の公演に20代前半ぐらいから関われるということは本当に大きい。チーフでなくても、票券の処理を横で見てるだけでも、そのあとでやれることが全く違ってきますから。実際に経験しないと、指定席のメリットも、配席の仕方も理解できないですからね。そういう思いがあって、自分の現場には若い人を積極的に入れたい。単に現場を滞りなく回すって言うなら、同世代の制作者にギャランティを払って、チームを組んだ方が仕事としてはすごい楽なんです。若い人が入ると、教えなきゃいけないことも出てくるから、現場としてはそれなりにハンドリングが大変になるんだけど、それは中屋敷が「柿喰う客」をできるだけ若い人に観もらいたいっていう意識と同じように、制作としても次の世代の人たちにノウハウを渡した方がいいと思ってるんで、ある程度負担がかかっても、若い人と一緒にチームを作りたいですね。

――逆に課題だと感じていることはありますか?

課題って言っていいかどうか分かんないですけど、なんだかんだ言っても3,000円代のチケット代では予算としてはそんなに潤沢ではないので、結局今の話の延長になっちゃうんだけど、チームを組んだ若い人たちにきちんとした額のギャランティを払えるようにしていかないといけないなと思いますね。そうでないと、ただ「上手いように使われてるな」っていうことになっちゃうから。「制作者としてそこで知識を吸収したい」とか、「プロの制作を目指したい」っていう人に関しては、1,000円でもいいから、ギャランティを払えるようにしていかないと、彼らが次にチームを組んだ時にもスタッフにお金を払えないような悪循環が生まれてしまう。一方で、柿喰う客だからギャランティをもらえたけど、他ではもらえなくていいやって思われても困るので、お金をもらうということ、仕事をするということの意味をどうやったら上手く伝えていけるのかが制作的な課題です。

取材/郡山幹生
写真/大澤歩

注釈
*1 第16回公演。東京・大阪2か所で上演。強豪高校サッカー部を舞台にしたオール女性キャスト作品。今夏、パルコ・プロデュース、オール男性キャストで再演。
*2 愛知県・長久手町文化の家で行われた演劇見本市。柿喰う客は、2009年の「カラフル3」に、『恋人としては無理』で参加。
*3 「芸術のミナト☆新潟演劇祭」。2011年からスタートした新潟市民演劇祭。柿喰う客は、第1回に『流血サーカス』で参加。
*4 まやぐちまさる。関西を拠点に活動する制作者。NPO法人大阪現代舞台芸術協会(DIVE)理事。
*5 かさはらのぞみ。大阪を拠点とする制作会社・(株)righteye代表。インディペンデントシアター・劇場制作。
*6 全キャストをシャッフルして上演する、柿喰う客恒例の特別公演。
*7 2011年3月、中屋敷法仁が演出で参加したシーラカンスプロデュース『戯伝写楽-その男、十郎兵衛-』(制作:斎藤努)は東日本大震災の影響でわずか4ステージのみの上演で中止となった。2012年1月に再上演。


■取材後記■
今も昔も、若い才能がぐんぐん育っていく瞬間の目撃者となれるのは、小劇場ファンの醍醐味の一つだ。観客動員が急増し、劇場規模や上演地域が拡大していく様子は傍目から見ても心が躍る。しかしその一方で、それを支えるべき制作体制の脆さを露呈してしまうのもおおむねこの時期だ。急成長著しいカンパニー「柿喰う客」に、彼らより一世代上の制作者である斎藤さんがもたらしている影響は少なくないはずだ。世代や立場の違いから生じる困難も数多くあるだろうが、プロスポーツさながらの「育てながら勝つ」チーム作りにこだわる斎藤さんのような存在はとても頼もしく感じた。

■斎藤努(さいとう・つとむ)■
1979年生まれ。高知県出身。Producer。有限会社ゴーチ・ブラザーズ 制作部/公益社団法人日本劇団協議会 国際交流委員学生時代から制作に携わり、様々な劇団、ユニットなどの制作を行なう。またOsaka Short Play Festival実行委員や、精華小劇場事務局スタッフなどを経て、2009年4月より、有限会社ゴーチ・ブラザーズに制作部/国際事業準備室として所属。主に劇団「柿喰う客」制作、中屋敷法仁(演出家、劇作家)のマネジメントを担当する。 Afro13「Death of a Samurai(U.K.公演)」、柿喰う客「The Heavy User(フランス・トルコ公演)」の制作・コーディネートなどで、国外のアーティストとの国際共同創作や海外公演にも多数関わる。
■インフォメーション■
柿喰う客 女体シェイクスピア002 『絶頂マクベス』

【原作】W.シェイクスピア
【脚色・演出】中屋敷法仁
【出演】七味まゆ味/深谷由梨香/葉丸あすか/内田亜希子/岡田あがさ/荻野友里/小野ゆり子/きたまり/葛木英/斎藤淳子/佃井皆美/新良エツ子/藤沢玲花/我妻三輪子/渡邊安理
【日程】
東京公演:2012年4月14日(土)~23日(月)
関西公演:2012年4月27日(金)~30日(月・祝)
【会場】
東京公演:吉祥寺シアター
関西公演:AI・HALL
【公式サイト】http://kaki-kuu-kyaku.com/macbeth/

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