制作ニュース

柿喰う客 女体シェイクスピア001「悩殺ハムレット」制作・斎藤努(有限会社ゴーチ・ブラザーズ)

12.04/01

「シェイクスピアですら柿っぽくしちゃうんだ」というイメージ作り


(c)引地信彦

――動員目標を達成していくために具体的にどんなことをやったんでしょうか?

実はいろんな人から「苦戦するぞ」って言われたんですよね。僕らとしては前作の『露出狂』がそれなりに評価されたという自負もあったし、「女体シェイクスピアシリーズ」自体も切り口がいっぱいあるから、かなり自信があったんですけど、先輩プロデューサーからは、「女だけだと絶対入らない」って。

――ああ、そうなんですか。

企画を考えてた頃はまだ「AKB48」も「なでしこジャパン」も今ほど一般に認知されてなかったし、舞台は完全に「男市場」だったと思うんですよね。パルコやコクーンでも男優優勢っていうか、女優がメインの企画はそこまで多くないと思うんです。

――演劇の客層は依然として女性が多いですからね。

そう。だから、「女優がメインだとちょっと厳しいんじゃないか」って。だったらなおさらいろいろと考えなきゃな、と思って制作的に一つ徹底したのは、「これからの世代に観て欲しい」ということでした。若い子、特に学生に観て欲しいと。で、一番気をつけなきゃなって思ったのは、シェイクスピア作品をやることで「あ、柿もついに真面目になったか」みたいなイメージがついて、これまで観に来ているような若い子が離れちゃうこと。そうなると、大負けする可能性があるので、なんとかまずそこを払拭しなきゃなと思いました。そこで出した答えが、ビジュアル面で従来の『ハムレット』を覆すようなものにしようということでした。それまでの「柿喰う客」って、予算のこともあって衣裳にはそんなにこだわってなかったんです。中屋敷の演出でずっと重視してきたのは、舞台美術や、音楽だったんだけど、『悩殺ハムレット』で初めてきちんとした衣裳さんにお願いしました。衣裳さんとは公演の半年以上前から打ち合わせを始めて、「ホストみたいな雰囲気の衣裳を着て撮りたい」っていうことを伝えました。衣裳さんからは「出演者全員(15人)分のスーツとドレスを集めるとなると、相当お金がかかるけど大丈夫?」って言われたんですけど、何かここで勝負をかけて次のステップに上がらないと、あとはジリ貧になるんじゃないかと思ったんですよね。「シェイクスピアだからって、それまでの柿の路線と違うものを作るんじゃなくて、シェイクスピアですら柿っぽくしちゃうんだ」っていうイメージを作ることに執着したかったんです。だから、公演が始まる7、8ヵ月前にはその戦いは始まっていて、たぶんそこを落としてたら、2ヵ月前に何をしていたとしても手遅れだったんじゃないでしょうかね。戦略に基づいてビジュアルミーティングを通常よりもかなり早い段階からやったことが良い結果につながった要因の一つだと思います。予算的な工夫としては、撮影時の衣裳を本番でも使えるようにお願いし、経費を抑えたりはしました。

――デザインが5パターンあるチラシは話題になりましたね。







『悩殺ハムレット』チラシ

『悩殺ハムレット』チラシチラシは、『愉快犯』(2011年1月)で、「各メンバーがメイン×5パターン」っていうのを作っていたので、最低あのくらいのインパクトを出さないと、縮小したみたいに感じられるんじゃないかと思ったので、とにかくまず5種類は作ろうって決めました。で、配役はすでに決まっていたので、それに合わせた3人組をそれぞれ作って、後ろにその他の12人を並べるっていうビジュアルで5パターン作りましょうってことになりました。丸2日かけて15人分撮りきったんですけど、あまりにもみんなの写真が面白かったので、思わず中屋敷が「これ、後ろの12人もポージングがパターンごとに変わっていたらすごいですよね」って言っちゃった(笑)。それをデザイナーの山下君がきちんと応えてくれてあの5パターンのチラシが完成したわけですけど、実はそのためには75体分の写真を切り抜かなきゃいけないんですよね。「切り抜き」って僕らには想像できないんですけど、拡大してそのサイズのあらを取っていくっていう作業なので相当地味でしんどかったらしいです。後日、山下君に聞いたら、「あの1ヵ月くらいは鬱になりそうだった」って(笑)。けど、このビジュアルのおかげで、危惧していたようなイメージも持たれずに若い人たちが食いついてきてくれたので、この作品に関してはよかったなと思います。

――ビジュアル戦略といえば、動画も印象的でした。

いつからか、一応PVを作ろうっていう流れはあったんですよね。で、パンフレットもフライヤーもPV映像も一気に撮ろうってことで中屋敷がその場でディレクションしながら撮影しました。20代の若い劇団がやる企画にしては撮影の時に相当入念な準備をしましたね。

――原作がある分、イメージが明確で早く動けたってこともあるんじゃないですか?

それはもちろん大きい。新作だとどうしても制作が動けることが少なくなりすぎるから。既成の台本を使うメリットはそういったところにありますよね。

――特に柿の新作は、タイトルだけだとどんな芝居か全く分からない(笑)。

そう(笑)。いつも「なんなんだろうなぁ」って思いながら企画書を作ってます。

――「学生に見て欲しい」ということでしたが、高校生に向けて何か特別なアクションはしたんでしょうか?

東京公演に関しては、以前からずっとチケット料金を高校生1,000円にしていて、専門学校・大学生の2,000円と別に設定しているんですね。これはチケット代がどれだけ上がっても、価格を据え置きにしています。ここだけは徹底してやってきているので、その価格設定が大きいですかね。あとは…東京はもともとパイが大きいのでそんなに特別なことはしてません。中屋敷って、高校演劇出身者からすると相当な知名度なんですよ。今でも毎年10から20ぐらいの団体は『贋作マクベス』を上演してますからね。だから、中屋敷がシェイクスピアをやるってことだけでそっちの方には相当ヒットするだろうと思っていました。むしろ、大阪公演の方が積極的に学生に向けていろいろしましたね。「柿喰う客」はこれまでも定期的に大阪公演をやってるんですけど、ちょっと特殊な制作体制をとってるんです。そして実は、それが大阪でコケない理由なんですよね。僕自身がもともと大阪で制作をやってたっていうのもあるんですけど、大阪には大阪制作チームというのがきちんと存在しているんです。僕と間屋口(克)*4と笠原(希)*5っていう3人で組織しているんですけど、この大阪チームで公演を買い取るシステムでやってるんです。利益が出たらそれをギャランティとして3人で分配するという形です。もちろん、赤字が出たら僕ら3人で補填することになるんですけど、今までに『露出狂』、『愉快犯』、『悩殺ハムレット』、『The Heavy User』と4回やってきて一度も赤字にはなってません。とにかく大阪は大阪の独自のシステムで動くんで、あまり劇団側から「これやってよ」って要求するんじゃなくて、大阪の土壌を考慮した動きをある程度任せています。今回は特に京都、神戸、大阪の大学生や高校生を積極的に呼びたいという趣旨だったので、大阪チームで学生演劇をやっている人たちに声をかけて、制作チームのさらに下のサポートメンバーみたいな形で関わってもらいました。彼らが学生に向けて「この演劇サークルにチラシを折り込もう」とか、「この学校の掲示板にチラシ貼ろう」とか、もの凄く地道に告知をしてくれたので、それがボディブローみたいにずーっと効いていた感じはしますね。それは僕らだけでは絶対に届かないところなんで。

――学生割引席がたくさん出ることでの弊害はないんですか?王子小劇場とシアタートラムでは規模が違うのに、料金は据え置きなんですよね?

確かに制作的にはいろいろと悩む部分ですよね。割引席が伸びることで一般客をセーブすることになるんじゃないか、とかね。でも、結果的に学生がたくさん来てくれることに意味があると思うので、そこはもう我慢比べですね。

――僕はトラムで拝見したんですけど、明らかにいつもと違う客層でしたよね。最近の柿の客席っていうとコアな小劇場ファンと演劇関係者でいっぱいじゃないですか。それが、僕の後ろの席一列が制服を着た女子高生で、終演したら、「クローディアス、声が超ヤバイんですけど!」とかエキサイトしてるし(笑)。あの反応は、新鮮でした。

(笑)。そういうのがないとダメですよね。

――とても健全な気がしましたね。もちろん若くてキレイな女優さんばかりだから、男性客も多かったんだろうけども、なんかね、若い女性が憧れる、夢を持てる作品だったのは間違いないだろうなって思います。

そうそう、高校生とか大学生がワクワクするようなお芝居を作らないと、先がないなと思います。僕が学生の頃にはそういうワクワクする作品がたくさんあったように思うんですけど、最近少なくなっていた気がするので。流行はグルグル廻るものだから、また柿みたいなワチャワチャするお芝居を高校生や大学生がやりたがってくれたら嬉しいし、実際に上演許可の申請状況を見るとリアルに増えている実感があります。

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