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【制作者のキャリア】第4回ゲスト:寺本真美(株式会社ヴィレッヂ/「劇団、本谷有希子」)

12.12/24

劇団制作には、「愛情表現力」が必要

 

――寺本さんは今、ご自身の仕事をどんな仕事だと捉えていますか?

難しいなあ…。本谷とやる仕事と、それ以外のものでは全く違いますね。本谷とは一蓮托生でやっているユニットという感覚です。

――劇団の仕事とヴィレッヂでの仕事は、別の感覚?

はい。私の場合、そもそも演劇が特別好きだからこの仕事を始めた訳ではないので、そのことはもう自覚した方がいいと思っているんですね。演劇という芸術が好きで、そこに向けて頑張ろうと思っている制作者やアーティストはたくさんいると思うんですけど、私たちはそれとは少し違う感覚で活動をしていると思います。「たまたま出会ったのが演劇という表現だった」という感覚。本谷有希子とのクリエイションは、「演劇」という特定のジャンルに包むよりは、「その人物と何かを作っている」という感覚の方が正しいと思うんです。だから、一般的な舞台制作のセオリーに当てはめると良くないこともたくさんあるし、芝居作りの正しい文脈に乗せるとズレてしまうこともあるんですけど。

――本谷さんは小説家としても著名ですが、本谷さんにとって演劇と小説のどちらがメインという考えは特にないんでしょうか?

そうですね。本谷自身、表現手段を2つ持っていることの強みはとても感じていると思いますが、それぞれが全然違うもので、彼女にとって小説はとても自由なツール、演劇はとても不自由なツール、というすごく対局的な存在なんですね。演劇は、1人の脳みそだけでは処理されない、誰かに壊されることが前提の表現、というのがあって。本人はその2つを持っていることがすごく面白いと言っています。私は小説のクリエイションについてはマネージメントに関わってはいないので、演劇の方、つまり彼女にとっての不自由を、いかに自由にするかという仕事を延々とやっていますけど、それもさじ加減が難しいですよね…。不自由さを全部取り除けば表現として面白くなるか、というとそうでもないし。進む道の目の前にある枝を取って、落ちている小石も拾っていくけど、たまには大きい岩も残しておかないと、なんか良くない気がする…みたいな。「仕事」という意識だけで演劇をやっている感じがしないのは劇団の存在があるからで、「作品を創る」というイメージで取り組めるのは劇団ならではの感覚だなあと思うんですよ。他の団体に付くときにもそういうイメージが持てるかどうかというと、全く違うかもしれないな…と。

――以前シアターガイドの特集記事の中で、『劇団制作者に必要な3つの「力」とは?』という質問に答えていましたよね。寺本さんは「情報収集力」「コミュニケーション力」「編集力」の3つを挙げていて、「編集力」というのは、さすが「劇団、本谷有希子」の制作者の感覚だなと思ったんですが。この答えについて、今も変わりはないですか?

もう一つ、「愛情表現力」というのを加えた方がいいかなと思いました。「コミュニケーション力」とちょっと近いんですけど。

――それは、どういう「力」ですか?

無理矢理「力」をつけましたけど(笑)。劇団に愛情を持つことは大前提として、それをいかに“さりげなく”人に伝えられるかが大事かな、と思って。広報的にも、「私この劇団が大好きなんですー!」って主張するだけでは内輪ウケな感がして一般の人はちょっと引きますよね。劇団の特色を正確に掴んでいないと、さりげない宣伝の仕方ってきっと自分の口から出来ないんじゃないかと思うんです。それを上手くやれた方が面白いのになって感じています。

――全く愛情を感じないのは話にならないですけど、押し付けられるのは…確かに。

「すごく小さい世界のことをやってるんだな」という印象を持たせてしまうと思うんです。まあ、極端に「好きだ!!」って言い続けるのも面白いかもしれないですけど(笑)。そういう表現の仕方が自分はまだまだ下手だなと思っていて。結局、演劇って人に付いて行くものじゃないですか。演出家だったり制作だったりプロデューサーだったり、肝になる人に他人を惹きつける魅力があった方がいいなと思って、「愛される人ってどうなっているんだろう?」と思って観察してみると、たいていは愛情の示し方がすごく上手い。ちゃんと感謝も伝えられるし、厳しいこともちゃんと言える。

――先ほどのシアターガイドの記事では、「コミュニケーション力」と答えた制作者が他にもたくさんいましたが、やっぱり実感しますか?

実感します!私の場合はそもそも団体の中でコミュニケーションをとっていくことが苦手なんですよ。だけどやっぱり、どんな業態でもそうだと思うんですけど、たくさんの人が関わって、一つの目的のために進む、というようなプロジェクトを遂行するときに、コミュニケーションが上手くとれないと本当にちぐはぐになるってことを痛いほど経験しましたね。どんなささいなことでも口で確認しなきゃとか、何回も確認しなきゃとか、肌で感じています。ちょっとでもボタンを掛け違えると、全部に影響する大きなトラブルになってしまう。特に演劇は、ものづくりを担当する人がたくさんいるじゃないですか。俳優もいるし、プランナーもいる。コミュニケーションを常に図り、情報を捕まえながら、「こっちだよー」と導いていく役割が必要で、それが制作だと思うんです。

劇団がスタートして12年目、自分たちの原点を振り返る

 
――寺本さんには来年(2013年)の『Next制作塾』のナビゲーターをお願いしていますが、舞台制作を目指そうとしている人たちにどんなことを伝えたいと考えていますか?

今、私自身が新しい分岐点を迎えようとしている感覚があるんですね。例えば、私が武器にしてきた“感覚”みたいなものだけでは、今後の表現の世界は渡っていけない、というのがあって。だから、そもそもどうして自分が演劇という表現の中にいるのか、といったことを改めて見つめ直しているところなんです。それを踏まえた上でどういう風に活動していくべきなのかを考えているタイミングで。始めた頃ってとっても楽しいことがたくさんあるし、勢いに任せて「わー」って進めることもたくさんあって、それもすごく大事なんですけど、「じゃあどうして自分はその表現をやろうとしてるのか?自分の好きなそれ以外の物たちとどう違うのか?」みたいなことを一緒に考えるきっかけに「舞台制作塾」がなったらなあと思います。…というと、何かネガティブですけど。

――いや、そんなことないですよ(笑)。

なんか、もうちょっと楽しい講座であるように言えればいいんですけど…私自身の今の課題が、そういうシビアなところなんですよね。「なんとなくの表現」は通用しないんじゃないか?と思っているので。表現者がいっぱいいるから、難しいですよね。

――「劇団、本谷有希子」での具体的なビジョンはありますか?

それも、本谷と2人ですごく考えているところです。「変えていきたいよね、新しいことしていきたいよね」という感覚は通じているんですけど、「どうして新しいことなのか?何がきっかけなのか?」ということに向き合わなければいけないのではないか、というムードが全体的にあって。それはきっと、劇団を12年やってきて、今が自分たちの原点を振り返るタイミングなんだろうなと思うんですよね。

――「次の一歩をどこに踏み出すのか?」そのために、自分たちの現在の立ち位置を確認したい?

「おさらいしてみよう」という感覚ですね。今は闇雲に走れる時代じゃないんだなって。自分の現在地とか、どこまで進めるのか、どこに進みたいのか、ということを考える時間が必要なんじゃないかな、と思います。

取材・文/郡山幹生 吉澤和泉
写真/大澤歩
(2012年12月インタビュー)


■寺本真美(てらもと・まみ)■
80年生まれ。01年から「劇団、本谷有希子」に関わり、制作として活動を始める。劇団☆新感線等の制作助手などを経て、05年より株式会社ヴィレッヂに所属。本谷有希子のマネジメントを担当する。ヴィレッヂが企画する「演劇村フェスティバル」のブッキングを11年より担当。

 
「Next舞台制作塾」:http://seisakuplus.com/school/

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