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大澤寅雄 文化生態観察日記 | vol.4「十年前と十年後を視野に入れる」

14.08/10

文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。
大澤寅雄の連載コラム!

私は文化政策やアートマネジメントの調査研究を仕事にしているのですが、たまたま最近、過去の10年、20年、30年といった大きな時間軸で、文化政策や社会環境の変化を調べた仕事がありました。

私は、今から20年前の1994年に大学を卒業しました。その頃、90年代前半(1990〜94年)は、5年間で573施設のホール施設が開館していました(財団法人地域創造「地域の公立文化施設実態調査」報告書(PDF))。この狭い日本で、1週間に2施設を超えるペースでホールが誕生していたのです。いま思い返すと、へ〜、そんなことがあったのかぁ、と驚くくらい、各地でホール施設が雨後の筍のように作られていました。

今から10年前の2004年には、指定管理者制度が導入されました。それ以前は、公立のホールや劇場は、都道府県や市町村か、その外郭団体が管理運営をしていたのですが、指定管理者制度の導入以降は、財団法人、NPO法人、株式会社などの運営が可能になりました。それ以前は想像したこともなかった、ホールや劇場の運営者の「交代」が起きるようになりました。

文化芸術振興基本法は2001年に、劇場・音楽堂等の活性化に関する法律(通称「劇場法」)は2012年に、制定されました。舞台芸術活動の関係者がどのくらいこうした法律の制定による影響を感じているかというと、実際のところ、さほど大きいものではないのかもしれませんが、それでも、確実に舞台芸術の生態系に影響を及ぼしています。

こうして10年単位での出来事を振り返ると、今となっては「自明の前提」となっていることが、それ以前は「想像もしていなかったこと」だったことが、少なくありません。つまりそれは、未来を想像することが、過去を振り返るほど簡単なことではないということでもあります。今から10年後の2024年、20年後の2034年に、舞台芸術の環境が今と同じである保証は、当たり前ですが、どこにもありません。

例えば、1990年から94年にかけて1週間に2施設のペースで開館したホール施設が、この先、大規模な改修を経て残すのか、それとも、取り壊して新しいホール施設を作るのか、あるいは、存在する必要はないのか。そうした議論が10年から20年のうちに、全国各地で巻き起こるでしょう。そうなったときに、自分たちの舞台芸術活動に、どのような影響が起きるのか、考えてみたことのある人は、どのくらいいるでしょうか。

おそらく、舞台芸術の制作者にとって、日常の仕事の中での時間軸の守備範囲は、1〜2年分の未来と、数ヶ月分の過去だと思います。1〜2年先の未来に手を伸ばすのは、例えば、次回あるいはその次の企画立案、出演者やスタッフの交渉・調整、助成金の申請、公演会場の利用申請などで、数ヶ月分の過去は、例えば、終了した公演の決算、助成金の報告書などでしょう。そのくらいの時間軸の守備範囲を往来する毎日、毎月、毎年を繰り返していると、10年後や10年先をイメージするとなると、目の焦点が合わずにぼんやりするかもしれません。

先行きが見えずに、あくせくと仕事に追われていると、海や砂漠を旅している気分になることはありませんか。そんな時は少し立ち止まって、10年前は、20年前は、何をしてたっけ、何を考えてたっけなぁ、と、ぼんやりと遠い目をすることも、大事なことだと思います。そのついでに、10年後は、20年後は、何をしてるんだろう、どうなっているんだろうなぁ、と、想像してみるのも、いいでしょう。おそらく、普段のそうした想像が、中長期的な文化の生態系の変化への適応力につながるのではないかと思うのです。



■大澤寅雄(おおさわ・とらお)■
文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント”ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。


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