制作ニュース

大澤寅雄 文化生態観察日記 | vol.3「畑の中心で気運醸成を考える」

14.07/01

文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。
大澤寅雄の連載コラム!

勝手に生えてきた青ジソとニラ。画像の奥に、日中は放し飼いにしている雌鶏。名前は小林さんと中林さん。

2016年に、久留米市に新しい文化施設がオープンします。その名は「久留米シティプラザ」。文化施設、コンベンション施設、中心市街地活性化の役割を担う中核施設としての機能を併せ持つ、複合型施設となっています。
www.city.kurume.fukuoka.jp/…

先日、この久留米シティプラザの整備と開館準備を担当する方と、一緒に食事をする機会がありました。交換した名刺の所属組織には、こう書いてあります。「久留米市 市民文化部 久留米シティプラザ推進室 気運醸成チーム」…ん?気運醸成チーム、ですか?ってことは、久留米シティプラザの開館に向けて、市民の気運を醸成するのが、お仕事なんですか?なるほど、気運醸成なんですね…私は、今まで出会った文化や文化施設に携わる人をいろいろ思い巡らせましたが、所属組織の名称に「気運醸成」という言葉が冠されている前例がありませんでした。

考えてみれば、日本で数多くの公立文化施設が建設されて、その計画や建設の段階で、プレイベントやワークショップなどを展開する施設は、数多くあります。それというのも、文化施設に対する希望や期待といった前向きな「気運」を「醸成」するためです。それは、とても重要な仕事に違いありません。
でも、何をもって「気運が醸成された」と言えるのでしょうか?例えば、久留米シティプラザが開館を迎えたときに、オープニング記念のコンサートのチケット販売開始と同時に完売したとする。あるいは、施設の貸館利用の受付開始と同時に利用申込みが殺到したとする。そういう状況になれば、「気運醸成」が達成されたと言えるのかな?とか。

ところで、いま私の家の畑は、しっとりと湿った土からいろんな野菜が芽を出し、葉を広げはじめています。その中には、私がお店で買ってきた種や苗ではなくて、「勝手に育っちゃった」ものが、結構あります(関連記事:4月のコラム)。青ジソ、赤ジソ、みょうが、ニラ、パセリ、チマサンチュ、コリアンダー、ミツバ、里芋。こうした野菜は、ウチの庭では勝手に育ってしまいます。
その中でも、チマサンチュとコリアンダーは、昨年、ここに引っ越したときに植えたもので、昨年の夏以降に葉っぱを少しずつ食べたあと、花を咲かせて種をつけたものが、また土に落ちて、2代目、3代目と世代交代の循環を始めました。他の勝手に育つ野菜とともに、です。今の時期は、雨をたっぷり受けて、これからの暑さを待ち受けて、畑の土から野菜自身が伸びようとしている「気運」を感じます。

私が畑を見て考える「気運醸成」とは、花や実の収穫量ではなく、土壌の状態なんじゃないか、ということです。もちろん、畑を続ける上で収穫量も大事ですが、収穫を重視して単品種で肥料と農薬を使った畑は、畑本来の多様な生物(バクテリアから害虫と呼ばれるものまで)が生きている状態ではなくなってしまう。肥料や農薬によって、土壌そのものが持つ野菜を育てる力が失われてしまうことも、あり得ます。

文化施設の開館に向けた気運醸成。施設の開館後の入場者数や利用率も大事ですが、新しい文化施設をきっかけに、その地域の多様な文化活動が持続可能になる循環が育まれる、そういう土壌を作ることが「気運醸成」の仕事なのではないか。そのために、地域外の新しい種や苗も必要でしょう。新しい種と今までの種とが相互に役割を果たし、成長や変化を見守ることで、少しずつ地域の文化的な土壌が豊かになることを期待しています。



■大澤寅雄(おおさわ・とらお)■
文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント”ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。


ピックアップ記事

セミナー
東京藝術大学公開授業「社会共創科目」

Next News for Smartphone

ネビュラエンタープライズのメールマガジン
登録はこちらから!

制作ニュース

ニュースをさがす
トップページ
特集を読む
特集ページ
アフタートーク 
レポートTALK 
制作者のスパイス
連載コラム
地域のシテン
公募を探す
公募情報
情報を掲載したい・問合せ
制作ニュースへの問合せ


チラシ宅配サービス「おちらしさん」お申し込み受付中