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- 大澤寅雄 文化生態観察日記 | vol.2「平家の落人、天神信仰、東日本大震災と文化」
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14.06/02
私は現在、福岡県の糸島市という、福岡市に隣接する田園都市に住んでいます。その前に住んでいた神奈川県の相模原市から移住して、ちょうど1年になります。
引っ越しを決断した理由の一つには、東日本大震災と福島第一原発事故があります。この連載コラムを書かれているJOUさんも震災後に東京から鹿児島に移住されていますが、他にも、関東から九州に移住した様々なジャンルのアーティストが数多くいます。
ところで私は、数年前から民俗芸能に興味を持ちはじめて、各地の芸能や祭礼をたびたび観に行きます。その中で、発生や伝来の由来に「平家の落人」が関係する民俗芸能が、数多くあります。実は、私が住んでいる地域にも平家の落人伝説が残っていて、夏の盆踊りでは、800年くらい前に京の都からこの土地に下ってきた平家の人々を慰める歌が、太鼓と笛に乗せて歌われます。
今まで観た平家の落人に由来する芸能には「なぜここまで逃げなければならなかったのか」と驚嘆するくらい、人里離れた小さな集落もありました。さらに不思議に思うのは、その場所まで芸能も一緒に移動し、時代を越えて現代に伝えられたということです。
平家の落人と並んで各地に伝搬している文化と言えば、天神信仰もそうですね。ご存知のとおり、天神様とは今から1100年くらい前に平安時代に実在した菅原道真のことです。朝廷から不遇を受けた道真公の死後に、天変地異が多発したことが、この世に対する道真公の祟りだとされました。
そのことで、天神信仰と、それに由来する神社や祭礼が、現在も全国各地にあるわけです。しかしながら、天神にまつわる神社、祭礼の数や質を考えると、道真公の死後の天変地異がどれほど大きかったのか、どれほど人々が道真公の怨霊に畏怖の念を抱いていたのか、私には想像も及びません。
つまり、平家の落人にしても、天神信仰にしても、日本においては、災害の発生と文化の伝搬は、歴史的に深く関わっていたのです。2011年の東日本大震災と福島第一原発事故に由来する避難移住の動向とともに、移住者であるアーティストが、それぞれの移住先で何らかの文化の伝搬に作用していることでしょう。そして、被災地と呼ばれる東北でも、災害をきっかけにアーティストが様々な行動を開始しました。これもまた、文化の変容や発生に大きな作用をしているはずです。
そうした長い目で見た文化史の、実はダイナミックな変化の過程に、私たちは立ち会っている気がします。
■大澤寅雄(おおさわ・とらお)■
文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント”ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。
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