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第5回「海外アーティストとのコラボレーション」 ゲスト:楢崎由佳 (現・ELMO USA CORP. マーケティング・コーディネーター/在籍期間:2000年~2006年) 聞き手:山内祥子(パパ・タラフマラ制作/在籍期間:2008年~

12.04/05

パパ・タラフマラには特別な磁力みたいなものがある

山内:今回、解散のニュースを聞いた時はどのように感じられましたか?

楢崎:やっぱりびっくりしましたよ。「どうして小池さんは解散を決意したんだろう?」ってことがすごく気になりましたけど、「新しい出発のための解散」だと聞いて、「やっぱり小池さんだな」って安心しました。明るい解散っていいですよね。

山内:そうですね。まあ、その決断に至るまでは、もちろんいろいろな気持ちの揺れや迷いが小池さんにもメンバーにもあって、それぞれに考え込んでいる時間も少なからずあったと思うんですけれども、決めちゃってからの切り替えは早かったですね。やっぱり震災があったことが本当に大きかったと感じます。あの時から、みんなの目の色が変わりましたから。

楢崎:みんなの目の色というのは?

山内:確かに現実的な地盤も揺れたんですけど、それだけじゃなくて、本当にもっと根源的な部分で自分たちが立っている、日本人全員のベースが揺らいだような体験だったんですね。特に東京、東日本にいた人にとっては。パパ・タラフマラのメンバーも「このままでいいんだろうか?」「自分は何をすべきなんだろう?」っていうことを今までにないぐらいの勢いで思いを巡らした時間だったんじゃないかなって思います。だから、小池さんが「解散しよう」って言った時も、もちろん驚きはあったけど、それほど抵抗感もなくて、「なるほど、そう動くか」みたいな感じで冷静に受け止めましたね。ちょっと寂しいですけどね、もちろん。

楢崎:でもタラフマラの作品を今後再演する可能性もあるんですよね?

山内:そうですね。プロダクションとしては残していこうと話しているので、どういった形になるのかはまだ分からないですし、どの作品が残せるのかも大きな問題ではあるんですけれども、希望的観測としては、少なくとも今回のファイナルフェスティバルで上演した『SHIP~』と『三人姉妹』と『島~ISLAND』に関しては、コンパクトにきちんとパッキングされているっていうこともあるので、おそらく残せるんじゃないかなと。

楢崎:新作を作る時は、その都度プロジェクトみたいな形で、小池さんが演出して、アーティストを集めてくるという形になる?

山内:もちろん舞台で発表する作品はそうなるのでしょうけど、もっといろんな方向に、例えば映像作品とか、いろんな展開があると思うので、とにかく小池さんのやりたいことをどの方向にも広げられるようなプロジェクトにするのが一番いいんじゃないか、みたいな話はしているんですけど、ただまだ何も決まっていないです。

楢崎:株式会社SAIはアーティスト・マネジメント業みたいな形になっていくんですか?

山内:そうなりますよね。今まではパパ・タラフマラのマネジメントがメインの仕事でしたけど、ちょっとだけ業態を変えていく感じにはなると思います。私もこの数年で様々な経験をさせて頂いているのですが、楢崎さんがパパ・タラフマラで過ごした7年間で、得たものは何ですか?

楢崎:スタッフのみなさんから教えてもらったことが大きいかな。ツアーをやっていると制作は、照明さんとか、音響さんとか、美術さん、舞台監督さん、映像の方とか、あらゆる方たちとコミュニケーションを取って行かなきゃいけない立場ですけど、そこで学んだことは今の仕事にも活きてると思います。

山内:例えば?

楢崎:細かい話になりますが、舞台裏でどんな準備や段取りが必要なのかとか、映像を撮る時のカメラの位置だとか、あと、デザインについてはサン・アド*9さんの仕事を見ていろいろ勉強させてもらいました。これは私が勝手に思っていたことなんですけれども、パパ・タラフマラには特別な磁力みたいなものがあって、だからすごい人たちばかり集まってくるんだろうなって。そういういろんなジャンルの人たちから教えてもらえたのは本当にありがたいことでしたね。

山内:かなり制作が入れ替わってきているので、制作よりもスタッフさんの方が小池さんと付き合いが長かったりして、そういう方から教わったり、注意されたりすることはとてもありがたいですね。すごく勉強になります。それに、制作者と演出家って、常に一対一で対峙するから、そこにいろんな力関係が働いてしまって、言うべきことを言えなくなってしまったり、抱え込んでしまったりしやすいと思うんです。そんな時に演出家のことをよく知っているスタッフさんが身近にいて相談に乗ってくださると、とても救われます。

楢崎:みなさんの愚痴を聞くことも面白いって言ったら変ですけど、「人ってこういうところに不満を感じるんだ」ってことがだんだん分かってくる。小池さんにはストレートに言えないことだし、何らかの形で解決する方向に持っていくのが制作の仕事なんですが、でもそれはストレスになるんじゃなくて、本音で話してくれることがありがたいっていう気持ちでしたね。

山内:みなさんすごくオープンマインドな方たちばかりなので、嫌な気持ちになるようなやり取りではなくて、物事をよくするためにどうしたらいいかってことをはっきりと話すという感じですよね。

楢崎:私も若かったので先輩方にいろいろと言っていただいて気づくことがたくさんありましたね。「そこが気をつけなきゃいけないポイントだったんだ!」って。

山内:ありますあります。「そこか!それが地雷か!」みたいな(笑)。

楢崎:(笑)言ってくださるのはありがたいですよね。

山内:それじゃ、是非今の若者たちにアドバイスを。

楢崎:とにかく自分がまず楽しむことじゃないですかね。ここが一番大事なポイントかなと思いますね。

山内:そうですよね。つらいと思い始めると、もう何もかもがつらくなっちゃいますもんね。

楢崎:つらくなったときの解決法を編み出したんですよね。とにかく「楽しいんだ」って、自分で自分を騙すのがすごく効いた。「もうやめたいな、やだな」とか思っても、「これって、超楽しい!」と自分に言い聞かせて仕事に取り組む。そうすると、自分の行動がどんどん変わってきて、なんとなく周りの人たちも変わってくるんですよ。

山内:なるほど!

楢崎:これはパパタラ時代に身につけた技ですね。

山内:別に何の根拠もないけど、「楽しい」って思ってみるということですよね。

楢崎:そう、「思う」ことなんですよ。「この仕事本当に楽しい」と思ってやっていると、本当に顔つきも変わってきて、周りの人たちもそれに感化されていって、リアクションも変わってくるから、どんどんプラスに転化していくんです。新しいアイデアも生まれたりして、良いコトづくし。

山内:身に染みるな~。

構成・文/郡山幹生

写真/大澤歩

注釈
*1 財団法人国際交流文化推進協会。国際文化交流事業を推進するために、1994年6月に設立された外務省認可の公益法人。2010年3月31日に解散。
*2 イタリアのベネチアで2年に1度、奇数年に開催されている現代美術の国際美術展覧会。万博やオリンピック同様に国が出展単位となっており、国同士が威信をかけて賞レースをすることから、「美術のオリンピック」とも称される。
*3 Carolyn Carlson (1943年~) フィンランド系アメリカ人ダンサー、振付家
。70年代にパリ・オペラ座のエトワール兼振付家として活躍。アメリカ・モダンダンスのテクニックと自由な創造の精神をフランスに伝え、「コンテンポラリーダンスの母」と称される。
*4 「ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック」の略。1861年に開館したアメリカで最も歴史のあるパフォーミングアーツセンター。
*5 「セルバンティーノ国際フェスティバル」。メキシコ・シティの北西にある町グアナファトで毎年10月に開かれるフェスティバル。1972年にスタートし、主にスペイン語圏のオペラ、ダンス、演劇、ビジュアルアーツなどがプログラムされており、毎年数本の海外招聘公演も行なわれる。
*6 ささき・なるあき。映像作家。メディアアート作品を国内外の美術館で発表する活動と並行し、ゲーム・デジタルコンテンツ、CM、舞台作品の映像化や舞台映像演出などの分野で活動。
*7 「東南アジアワークショップ&作品制作ツアー」と題して、マニラ(フィリピン)、クアラルンプール(マレーシア)、ソロシティー(インドネシア)の3ヶ所を巡った。
*8 制作途中の作品を公開し、観客の意見などを取り入れながら作品を発展させていく創作手法。
*9 かじや・かずゆき。劇団NOISE(主宰:如月小春)のプロデューサーを経て97年より世田谷パブリックシアターのプロデューサーに就任。99年より同劇場のダンスプログラムを担当。
*10 まつい・けんたろう。劇団黒テントを経て90年より世田谷パブリックシアターの設立準備に携わる。97年の開館より同劇場のプログラム・ディレクターなどを務める。08年、同劇場を退職。09年、アジア演劇創造研究センターを設立。2010年より富士見市民文化会館キラリ☆ふじみにて館長を務める。
*11 1964年にサントリー宣伝部が中心になって創立した広告プロダクション。


■楢崎由佳(ならさき・ゆか)■
1973年生まれ。明治大学文学部文学科演劇学専攻卒業。2000〜2006年パパ・タラフマラの制作を担当。その後、PR会社勤務を経て、株式会社エルモ社よりELMO USA CORP.へ出向。現在、ニューヨークに駐在。

■山内祥子(やまうち・しょうこ)■
1985年生まれ。多摩美術大学彫刻学科諸材料専攻卒業。在学中はパパ・タラフマラの美術ボランティアとして「シンデレラ」「東京⇔ブエノスアイレス書簡」等の美術・小道具作成を担当。フェスティバル実行委員会の事務局長。

【パパタラWEB SHOPがOPENしました!】
カード決済、口座振込でお気軽にお買物を楽しめる「WEB SHOP」がオープンしました。
これまでのパパタラ作品55作品のうち14作品を商品化した「コレクションDVD」、葛西薫さんデザインの「走るPマークTシャツ&カットソー」などが購入できます。
完売してしまった「パパ・タラフマラの白雪姫」のDVDも販売中。
http://pappa-tara.com/fes/goods/shop.html

【舞台芸術の学校(P.A.I.)2012年度 新入生募集!】
パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)は、2012年度より「舞台芸術の学校(P.A.I.)」と名称を変え、新たにスタートします。
2012年度学生選考日程
●2012年4月7日(土)(応募〆切 2012年3月31日(土)必着)※
●2012年4月21日(土)(応募〆切 2012年 4月15日(日)必着)
※webからの直接ご応募のみ、4月5日(木)中着分有効
http://pappa-tara.com/pai/index.html
【<パパフェス後夜祭!>パパ・タラフマラ スペシャルミュージックパーティー!】
●2012年4月21日(土)
OPEN 18:30(会場で、ドリンク&ご歓談をお楽しみください)
START 19:30/CLOSE 22:30
【ADV】3500円(2ドリンク付き)
●参加予定ミュージシャン
オノセイゲン、下町兄弟、菅谷昌弘、中川俊郎、中村明一、藤井健介、堀越彰、三枝伸太郎
(敬称略、五十音順)&パパタラパフォーマー 他
●会場 SARAVAH東京 http://l-amusee.com/saravah/
※要予約(ご予約は下記よりお願いいたします)
※パパタラファイナルフェスティバルセット券の特典チケットをお持ちのお客様は20%OFFの2800円になります。チケットは当日お持ちください。
※会場の都合により、基本的にスタンディングのイベントとなります。お身体のご不自由な方は、あらかじめご相談ください。
●ご予約フォーム http://ticket.corich.jp/apply/34881/

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