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第4回「“つくば市芸術監督”小池博史との仕事」 ゲスト:今尾博之 (現「いわき芸術文化交流館アリオス」プロデューサー/在籍期間:1988年~1996年) 聞き手:山内祥子(パパ・タラフマラ制作/在籍期間:2008年~)

12.03/05

■劇団同士、制作同士のネットワークは、いつか必ず役に立つ


いわき芸術交流館アリオス

山内:現在は、「いわき芸術交流館アリオス*7」(福島県いわき市)にお勤めですが、つくばでの経験はどのように活かされていますか?

今尾:いわきでは「芸術監督」は置いていないですけど、支配人の大石(時雄)さんや、チーフプロデューサーの児玉(真)さんが中心となって、票券や広報など各セクションにもきちんとした職能を持ったスタッフが配置されているので、つくばの時と比べるとすごく楽になりましたね。その分、余裕が出来たので、いろんなことを多角的に展開しました。ワークショップも単発のものだけじゃなくて少し長期のものだったりとか、創作系のものをやったりとか。で、やっと何年かして、タラフマラを呼ぶことになった。

山内:『白雪姫』(2010年)ですね。


『白雪姫』(2010年)

今尾:やっぱりこう、自分が関係していた劇団を呼ぶっていうのは、僕が気にし過ぎなのかもしれないですけどすごく抵抗があって。だからかなり時間がかかってしまった。『白雪姫』はファミリー向けの作品だし、すでにツアーを回る予定だということを含めてプレゼンをしたら、OKが出た。僕にとっては、制作として関わっていた劇団がこんなに大規模なツアーをやるようになったということが驚きでした。それに、『白雪姫』って、もともとつくばで子ども向けの創作ワークショップをやった時の題材なんですよ。

山内:それがいわきに繋がった!

今尾:すごく時間が経ってるけどね。でも、あの、子どもたちと泊まりがけで作ったものとこうして再会できるのは、とても嬉しかったね。

山内:いわきでは高校生といっしょにいろいろな動きをされてますよね?

今尾:もともと高校演劇が盛んな土地だということもあるんですけど、そこに「いわき総合高校」という積極的に演劇を授業に取り入れている学校があって、いろいろなアーティストを招聘する動きをしていたので、アリオスが連携してそのアーティストの公演や一般向けワークショップをアリオスで企画したりしました。「桃唄309」や「五反田団」、「東京デスロック」など、いろいろ面白かったですね。総合高校以外の高校生も演劇に触れられる機会を増やしたいと考えて、高校演劇部にプロの演出家と俳優を派遣する「高校演劇部クリニック」という企画などもやってきました。

山内:いわき総合高校は東京公演も行ったりしてとても話題になりましたよね。

今尾:個人的には「ままごと*8」をできたのがすごくよかったですね。地震の影響でホールが休館になってしまったので、残念ながら公演そのものは中止になってしまいましたが、総合高校のアトリエスペースを使って高校演劇部対象のワークショップの特別公演という形で『わが星』を上演することにしました。本来の形でプレゼンしたかったという思いもありますが、地震のせいで高校演劇コンクールの開催さえ危ぶまれていた時だったので、とにかく彼らに向けて何かしておきたかった。結果的に「ままごと」のような世代の近いプロのアーティストと公演やワークショップを通して触れることが出来たのは、彼らにとって本当にインパクトのある体験になったと思います。

山内:つくばの時と同様に、誰かの心に強烈な影響を与えるお仕事をされてるんですね。

今尾:効果が現れるのは、ずーっと先だなって思いますけどね。

山内:最後に、現在舞台制作に携わっている方に向けて何かアドバイスをいただけませんか?

今尾:僕の場合、劇団に関わるようになって、無給の時代から、給料を貰うようになり、給料って言っても僅かだったんでバイトも掛け持ちしてやっていて、いったんあきらめて、その後劇場に務めるようになったという経過があるのは話したとおりです。劇場で働くようになってからかなり…というと語弊があるけど、やっぱり劇団制作時代に比べると余裕ができたように思います。これからどうなるかは分からないですけど。で、実際制作のポジションの大変さは身に沁みて分かっているので、みなさん、どうかお体を大事にしてください。

山内:お体を大事に(笑)。

今尾:歯が欠けて「もうダメだ!」って思った奴ですから(笑)。あとは、吉井さんから学生の頃に聞いた話で僕自身がかなり勇気づけられたのは、「アメリカではプロデューサーはいい車乗ってブイブイ言わしてるんだぜ」みたいな話(笑)。まあ、そんな成功例じゃなくてもいいけど、「こうしていけば食えていける」っていうケースをいろんな人にきちんと示せれば、いい人材が入って来て、もっと全体の環境がよくなっていくのではないかと思います。そういったモデルケースっていうのが舞台制作者にはあんまりないですよね。

山内:そうですね。

今尾:それでも最近の若い制作者は横との繋がりをしっかり持てていていいなって思います。僕はカンパニー内に制作が4人もいたので、辛い中でもかなり恵まれていましたけど、よそとの繋がりはなかなか持てませんでした。ですから劇団同士、制作同士のネットワークをきちんと形成できている人たちは羨ましいですね。それは、ここぞっていうときに必ず役に立つ。

山内:そうですね。パパ・タラフマラとしても震災を目の当たりにして、自分たちだけでやっていても限界があるなっていうことにすごく気づかされたんですね。小池さんにとっても、自分が点だとしたら、自分と同じようなベクトルを持って活動を続けている人たちを、どんどん結んで線にして、さらに面になっていくように広げていくことが大事なんだっていうことに気づかされた瞬間だったんです。そう、だから、今も、小池さん自身がいろいろな方とお話をしたり、ネットワークを作ろうと画策しているところなんです。

構成・文/郡山幹生

写真/大澤歩

注釈
*1筑波研究学園都市の芸術・文化・スポーツの振興活動を行うために設立された法人。(財)つくば都市振興財団。「つくばカピオ」「ノバホール」の指定管理者。
*2えい・きせい。1947年東京生まれ。歌舞伎・演劇評論家。現「可児市文化創造センター」館長兼劇場総監督。
*3さとう・まこと。1943年東京生まれ。演出家。現「杉並区立杉並芸術会館(愛称「座・高円寺」)芸術監督。
*4「つくばエクスプレス」は、2005年に開通。それまでは、都心から「つくばカピオ」までのアクセスは高速バスで90分か、JR土浦駅からバスで30分かかった。
*5おおの・かずお。舞踏家。1906年北海道生まれ、2010年没。日本を代表する舞踏家として100歳を超えるまで舞台に立ち続けた。同じ舞踏家の大野慶人(おおの・よしと)は次男。
*6振付家インバル・ピントとアヴシャロム・ポラックによる、イスラエルのダンスカンパニー。
*7福島県いわき市にある公共ホール。2008年オープン。東日本大震災の影響で業務が停止されていたが、昨年11月1日に全館再開を果たした。
*8劇作家・演出家の柴幸男率いる演劇ユニット。2009年初演の『わが星』で、第54回岸田國士戯曲賞受賞。


■今尾博之(いまお・ひろゆき)■
愛知県刈谷市出身。1998年から07年まで(財)つくば都市振興財団に勤務。つくばカピオホールを中心とした演劇・ダンスの企画を担当する。07年よりいわき芸術文化交流館アリオスの開館準備スタッフとして福島県いわき市へと移籍。08年の開館より12年までプロデューサーとして、ダンスおよび演劇の様々な企画を手がける。

■山内祥子(やまうち・しょうこ)■
1985年生まれ。多摩美術大学彫刻学科諸材料専攻卒業。在学中はパパ・タラフマラの美術ボランティアとして「シンデレラ」「東京⇔ブエノスアイレス書簡」等の美術・小道具作成を担当。フェスティバル実行委員会の事務局長。

【パパ・タラフマラ ファイナルフェスティバル】

『パパ・タラフマラの白雪姫』
■作・演出・振付:小池博史
■出演:あらた真生/白井さち子/菊地理恵/橋本礼/南波冴/荒木亜矢子/石原夏実/小谷野哲郎/アセップ・ヘンドラジャッド
■日程:2012/3/29(木)~31(土)
■会場:北沢タウンホール
■チケット料金:4,500円 他
■上演時間:約75分
■お問い合わせ先:パパ・タラフマラ ファイナルフェスティバル実行委員会事務局 03-3385-2066
■公式サイト:http://pappa-tara.com/fes/

【パパタラWEB SHOPがOPENしました!】
カード決済、口座振込でお気軽にお買物を楽しめる「WEB SHOP」がオープンしました。

これまでのパパタラ作品55作品のうち14作品を商品化した「コレクションDVD」、葛西薫さんデザインの「走るPマークTシャツ&カットソー」などが購入できます。
完売してしまった「パパ・タラフマラの白雪姫」のDVDも販売中。

http://pappa-tara.com/fes/goods/shop.html

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