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ワークショップ「LOGBOOKあべの」体験レポート(TACT/FEST2013)

14.01/21


TACT/FEST 2013
(大阪国際児童青少年アートフェスティバル)


2013年8月9日、10日と、TACT/FEST 2013(大阪国際児童青少年アートフェスティバル)に行ってきました。

このフェスティバルは、2007年からはじまり、今年で7回目。大阪の阿倍野区を中心に、2013年は7月29日から8月11日まで国外招聘プログラム9演目、国内招聘プログラム3演目、国際共同製作プログラム2演目が上演され、他にも遊びの広場やワークショップなどさまざまなプログラムが開催されました。

また、「一緒に創ろう!参加型パフォーマンス」の中の「ストリートでパフォーマンスや!大阪」では20組を越えるパフォーミング・アーティストが、天王寺駅前や阿倍野区一帯の商業施設や公共の広場に繰り出し、ジャグリングなどのパフォーマンスを行い、阿倍野区民会館前の広場には、「TACT PLAY PARK」という、こどもがアーティストと水、光、影、色、ねんどなどを使って自由に遊べるアートのあそびコーナーが設けられ、その周辺には、かき氷やたこ焼きの屋台や、アーティストが出店するブースがあり、特に劇場で上演作品を見なくても、近所の親子が、遊びに来るだけでも楽しめるお祭りの演出がありました。

同時に、期間中、多くのシンポジウムも開催され「スウェーデンに学ぶー繊細な感性と温かい情緒の源泉を探る」や、「演劇は社会に貢献できるか?ーこどもの貧困との戦いー」などのテーマで、有識者や市民が語り合う場も設けられていました。

TACT/FEST 2013(大阪国際児童青少年アートフェスティバル
http://www.tact-japan.net/

今回は、そのたくさんのプログラムの中から8/10(土)、11(日)に、無料で開催された「まちを航海するワークショップLOGBOOKあべの」について詳細をレポートしたいと思います。


自分とは異なる視点で書かれた“ 航海日誌”を頼りに 、街の魅力を再発見するワークショップ「LOGBOOK あべの」


LOGBOOK(=航海日誌)とは、

「LOGBOOKプロジェクト」として演出家の市原幹也さん(写真左)とドラマトゥルク /制作者の野村政之さん(写真右) が共同で開発したワークショプであり、これまでも福岡や横浜など日本各地で開催されてきました。

LOGBOOKとは、まち歩きのなかで体験した「LOG」を他人からもらって歩いてみる事で人の記憶の追体験をしてみるという、演劇的体験に富んだ非常にユニークなプログラムです。参加の仕方が、こどもとおとなで歩いてみてもよし、おとな一人で参加してもよしというものなので私も、他人が創ったLOGBOOKを もとに、子供の船長と一緒に、6人のチームで、まち歩きを開始してみました。

レクチャー

集合場所の阿倍野区民会館の会議室に入ると、そこには、パイレーツ・オブ・カリビアンのジャック・スパロウのようなパイレーツハットをかぶった市原さんがいて、すでに子供達とわきあいあいと話をしていました。その姿にこれからどんなことが行われるのか緊張していた心地がほぐれ、とても楽しみになってきました。
スライドを使ったレクチャーでは、物事はいろいろな見方ができること、LOGBOOKを見てまちを歩いて目印を見つける際、またログを作る際に、次の3つのポイントを注意して探してみることが挙げられました。

A.これは、今日はあるけど明日はないかもしれない!
B.これは、大人になってもあったらいいなあ!
C.これは、いままでにみたことがあるかもしれない!

出航



「船長、まずはどこに向かいますか?」
「LOGBOOKに書かれた“もっこりが5つ”を探します!」
「了解!」
小学生の船長を中心に6人のチームが、方位磁針と、LOGBOOKに書かれた目印を頼りにあべのの街に繰り出しました。

“もっこりが5つ”とは、歩道にあった車止めの石。たしかに小さな小山のようにも見えます。ささいな発見でしたが、チームの誰かが、「あ、あった」と声を上げ、みんながそれを見てなるほどと納得できる瞬間はこのチームで一体感が生まれる瞬間です。
同時に、このログを作った人は、これを、そんな風に眺めたのかと、その人ともどこかで繋がったような気になります。

こうしてログに描かれた、不思議な表記、「チューリップ畑」「牢屋に使えそうな部屋」「キティちゃんの宇宙遊泳」
「傘ロケット発射準備完了!」
「道端に親子のカエル」・・・を次々に探しながら、普段、ただただ目的地を目指してすいすい進むだけの街を、足元や古いもの、個人の家の窓の装飾、変な看板、変わった形のものを探して旅をすることになります。

僕たちの使ったログには、こんな文章が書かれていました。
「ぼくのふるさとのまちにもアーケードの商店街があった。子どものころ、反対側がこわされてイトーヨーカドーができた。しばらくして商店街の店はほとんどシャッターを下ろしたままになった。次にイトーヨーカドーも閉まった。店があった側にあたらしく、おととし図書館ができた。アーケードはもうない。」

この文章を読んだ後、あべのの街の商店街のアーケードを眺めると私も小さい頃、育ったまちにアーケード商店街があったかどうかや、今、あの頃あった商店街がどうなっているだろうかと思いを巡らせました。

LOGBOOKを作ってみる

続いて、今度は、別の誰かが使うであろうLOGBOOKを作るための散策を開始しました。
これは個人での作業で、周辺地図と方位磁針と白紙の紙を持って出かけます。
実際に気の向くままに歩きながら、目についたものや、このログを使う人が迷わないように進行方向にある目印を絵や文章にして、または方角や何歩歩くという具体的な指示を書き込んですごろくのようなLOGBOOK用の自分メモを作っていきます。

歩きながら書き込みながら、これはすぐに見つけられるだろうか、これを他の人が見たら何だと思うだろうか・・などと想像を巡らしながら歩くことも楽しく、またそうやって家の装飾や、何の役に立ってるのかわからないものや、人がいろいろなセンス!?で暮らしていることが面白く感じられます。

LOGBOOKはスタート地点もゴール地点も自由に決めていいので、1時間の散策の範囲でゴールを突然設けてもいいし、飽きたら終わってもいいし、お店に入ったり、買い食いをしたり、休んだり、いろいろなものを開放して過ごすことで発見できる楽しさがあります。

そうして、まちを冒険して見つけたものを、再び阿倍野区民会館の会議室で清書して、絵を付け足したり、装飾をしたり、冒頭のレクチャーでポイントに挙げられたA.これは、今日はあるけど明日はないかもしれない!B.これは、大人になってもあったらいいなあ!C.これは、いままでにみたことがあるかもしれない!を書き込んで完成です!
参加したひとりひとりのLOGBOOKがこうして作成されて「あべの」というまちの記憶のひとつになります。


LOGBOOKの作成を何度も繰り返すことで、まちが時代によってどう変わっていくのかが見えてくる


僕が作ったLOGBOOKは、翌日のワークショップで見知らぬ誰かがまちを歩くのに使われます。市原さんは、このLOGBOOKを作ることが演劇的であることとして、次のように語っていました。「あるテーマを先に決めてそれにまつわる目印を集めていくこともできるし、最初の頃に見つけたものが後の発見の伏線になることもある。
LOGBOOKが物語のシナリオのように、まちを歩く人を導いていくことは実はドラマチックなことではないでしょうか」

他人の記憶を追体験することや、他人が自分の作成したLOGBOOKを使うことが、他人への想像力をもたらし、人が暮らしている場所を巡ることで、その土地や人の息遣いを感じていく。自分が暮らしてきた場所を思い起こす機会になることや、風景がいろいろな理由で変わっていくことなど多くの発見があったワークショップとなりました。

了。

(ワークショップ実施記録)

『LOGBOOKあべの』
市原幹也+野村政之
国名:日本

対象年齢:6才以上
上演場所:集会室※集合後、あべのの街を歩きます。
上演時間:8月10日(土)180分、8月11日(日)90分

公演日時:
8月10日(土)13:00
8月11日(日)10:30/11:00/11:30/12:00/12:30

LOGBOOKとは、まち歩きのなかで体験したLOGを他者からもらって歩いてみる事で人の記憶の追体験をしてみるという、演劇的体験に富んだ非常にユニークなプログラムです。
こどもとおとなで歩いてみてもよし、おとな一人で参加をする事もよし。普段見ていたあべのという街がまったく違って見えるでしょう。

8月10日にある「LOGBOOKのつくる日」で、親子向けのレクチャーも同時に行います。そのうえで、親子がいっしょにまちを歩きひとつのLOGBOOKを創作する、そのよりよい体験の在り方をレクチャーします。そして、それが以後、多様な他者によって再生される時に、親子創作ならではの特別な体験が再生されることを目指します。
それは、あべのにしか存在しない「親子によるLOGBOOK」となり、その親子にとっても或る一日の大切な記録になります。

数年後、そのLOGBOOKが当の親子によって再生されることが、実は一番クリティカルな事象だと思っています。
そこでは、ふたりのなかで、こどもの体験・親の体験が、交換されることでしょう。
親子いっしょに古いアルバムやビデオなどを眺めるのとは違い、お互いの身体を介した記憶の再生と交換こそ、演劇ならではの興奮があるかと思います。

▼8月10日(土)つくる日
13:00 ガイダンス1「LOGBOOKとは?」
13:15 試航海(講師作成LOGBOOKを手にまち歩き)チーム分け
13:20 誌航海出航
14:00 帰港・休憩・フィードバック
14:10 ガイダンス2「LOGBOOKのつくり方」
14:20 ひとりずつ航海出航※配布=白地図、メモ用紙など数枚
15:40 帰港・休憩〜 それぞれLOGBOOOK創作
15:50 完成・フィードバック
16:00 終航

▼8月11日(日)あそぶ日
start0 開演 ガイダンス1「LOGBOOKとは?」
15min. 航海のためチーム分け(3、4名〜)
25min. 出航
75min. 帰港・フィードバック(色鉛筆にて書き込んだメモを元に体験を共有)
90min. 終航

(取材・文:川口)


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