制作ニュース
- 新長田で考える、ダンスをめぐる現場から(身体ごと投げだすかのように)/横堀ふみ vol.3
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13.08/10
アジア屋台ナイトコンテンポラリーダンス・ツアーin新長田新長田のダンス事情(仮称)
新長田の夏の風物詩と言えば、新長田駅前広場の噴水で水遊びをする子ども達の姿と、丸五市場の「アジア屋台ナイト」です。丸五市場は大正11年に創設、阪神淡路大震災での崩壊や火災からも逃れ、一歩踏み入れると一昔前にタイムスリップしたような独自の雰囲気が立ち上がる場所。6月から10月までの第3金曜日に、丸五市場の店舗が中心となって、タイ料理等を始めとしたアジアン料理のお店を集め、さながらアジアの路上で屋台が並びその場でおおいに飲食を楽しむような、路上居酒屋が登場します。
ダンスボックスでは、飲み食いするだけでは物足りなく、代表大谷の料理長のもと「すじシチュー」とワインを提供するお店を出すまでになりました。これが本当に祭りのように楽しい時間。劇場のアピールも時々行いつつ、徐々に顔見知りの人が増え、何よりもダンスボックスがこの街に受け入れられ始めていることを実感しつつあります。
さて、前号から引き継いで、、、「新長田のまちについて知ること」について、私たちが2009年に新長田に拠点を移して始めに行ったことは、私たちが取り組んでいる「ダンス」を商店街や市場の中に注入して、まずはお店や周辺住民の方々に見ていただく機会をつくるイベント<コンテンポラリーダンス・ツアー in 新長田>の開催でした。新長田の方々に対しての私たちの自己紹介の場でもあり、これまでダンスボックスの大阪時代にお世話になった方々やお客さんと新長田のまちを歩く機会でもありました。予想以上に数多くのお客さんに来て頂き、約3時間にわたってダンスを見て商店街を(買い食いしながら)歩いての濃いツアーとなりました。
街のとある場所でダンスやパフォーマンスを立ち上げることは、これまでダンスボックスが培ってきた経験や方法を生かしたものでした。ただ、大阪とは異なる文化をもつ神戸・新長田において、新たな出会い方の方法が必要であると考え始めました。関西のコンテンポラリーダンス・シーンの文脈上にこれまでのダンスボックスの活動があるとすれば、その文脈をこの新長田というまちに置いてみる/伝えようとするだけでは、何も起こらないだろうと。
そこで、手探りで始めたプログラムが・・・新長田で踊る人に会いにいく「新長田のダンス事情(仮称)」でした。当プログラムは5年継続のプログラムとして始め、今年度で一応の最終年・5年目を迎えます。
私たちが日頃取り組んでいる「ダンス」を通して新長田のまちの方々と出会っていく過程がもっとも自然な流れだと思えたこと、そして劇場の舞台上で展開されるコンテンポラリーダンスに閉塞感と限界を感じていたこと等が重なりながら、人やものにある記憶や存在について様々な手法で作品化している現代美術作家の宮本博史さんを協働パートナーにむかえ、(身体ごと投げだすかのように)第一歩を踏み出しました。
まずは計4組のグループや集まりの稽古場を訪問し、リハーサル模様を拝見しつつお話をお伺いさせて頂くことから始めました。踊りへの指示の出し方、踊り手がどういった方々なのか、どこで・いつリハーサルをされているのか、のようなリハーサル事情から見てみること。すると、その踊りの周辺もしくは支えていることから、新長田ならではの要素が生き生きと立ち上がってきました。そして、何よりも生活の営みの一つとして踊られているダンスの表情が見せる豊かさに魅了され始めました。
当プログラム、5年目の集大成イベントは9月21日・22日に実施します。私たちがゆっくり出会ってきた新長田で踊る人々について、そして集大成イベントについて、次号でさらに詳しくご紹介したいと思います。
写真:倉科直弘
■横堀 ふみ(よこぼり・ふみ)■
NPO法人 DANCE BOX プログラム・ディレクター/制作
平成18年度文化庁新進芸術家国内研修制度研修員。平成20年度ACC(Asia Cultural Council)のグラントを得て、約6ヶ月間にわたり、アジア6カ国とNYにおいて舞台芸術の実態調査を実施。おもにアジア間におけるネットワークの構築を目指し、レジデンス・スペースや劇場、フェスティバルのディレクターらとの交流促進を行っている。