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野外パフォーマンスの可能性を知る。パルテノン多摩「多摩1キロフェス」

14.09/20

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パルテノン多摩・演劇担当の星野久美子さん(左)・フェスティバルディレクターのウォーリー木下さん

 
東京都多摩市の「パルテノン多摩」を舞台に、2013年より始まった野外パフォーマンスの祭典『多摩1キロフェス』。新宿から約30分、京王線・小田急線が乗り入れる「多摩センター」駅から劇場までの約1キロのロケーションを活かした演劇、音楽、ダンス、現代美術による多彩なプログラム。かつての小劇場ブームのただ中で歴史を刻んだ『パルテノン多摩小劇場フェスティバル』から9年が経ち、あらたなフェスティバルを手がけるパルテノン多摩・演劇担当の星野久美子さん(写真左)、フェスティバルディレクターのウォーリー木下さん(写真右)に「野外パフォーマンス」の可能性について、話を聞いた。(担当:永滝陽子)

『多摩1キロフェス2014』
□開催日:9月20日(土)・21日(日)
□会場:パルテノン多摩(多摩センター駅〜パルテノン多摩〜多摩中央公園の1キロのエリア)
□主催:公益財団法人多摩市文化振興財団

□パルテノン多摩
1987年に開館。80段の階段や8本柱のパーゴラなど特徴的な外観を持つ複合文化施設。1414席の大ホールと304席の小ホールがある。1987年から2005年まで「小劇場フェスティバル」を毎年開催。

□ウォーリー木下(「多摩1キロフェス」フェスティバルディレクター)
1993年、神戸大学在学中に「劇団 世界一団」を結成。現在は「sunday」(劇団 世界一団を改称)の代表で、全ての作品の作・演出を担当。sundayは年に1本の新作を製作。関西の注目劇団の1つ。戯曲家・演出家として、外部公演も数多く手がける。特に役者の身体性を重視した演出が特徴。テキストに関しても、戯曲以外のものを使用することが多い。並行してノンバーバルパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO」のプロデュースを行い、エジンバラ演劇祭にて5つ星を獲得。その後、スロベニアや韓国、ドイツなどで国際共同製作を行い、海外からも高い評価を得ている。また、2011年に『PLAY PARK―日本短編舞台フェス―』、2013年に『多摩1キロフェス』を立ち上げるなど、様々な演劇祭でフェスティバルディレクターを務めている。

 

ここに住んでいる方の気持ちを汲み取って、地域の方が愛してくれるようなイベントを(星野)

—『多摩1キロフェス』はどのようにして立ち上がったのですか?

星野:これまでも水上能や野外演劇など、ロケーションを活かした野外イベントを開催してきました。ただ単発のイベントは、お能のならお能のお客さんだけ、演劇なら演劇のお客さんだけになりがち。もっといろんな方に楽しんでもらえる「パルテノン多摩らしさ」を出したイベントを行えないかと考えていました。ウォーリー木下さんとは、『小劇場フェスティバル』に出演された時にご一緒しまして、多角的に思考しながらいろんな企画にチャレンジしているところに魅力を感じて。ここに住んでいる方の気持ちを汲み取って、地域の方が愛してくれるようなイベントをご相談できるかも…という私の勝手な思いで(笑)お声をかけました。

木下:ありがとうございます(笑)。僕は関西をベースに活動していて、「大阪ショートプレイフェスティバル」という演劇や音楽、ダンス、お笑いなど様々なジャンルを短い上演時間で行うフェスティバルをプロデュースしていました。「普段演劇を見ない人にも見にきてほしい」という強い思いがあったのですが、劇場の中でやっている以上、本当に見たい人しかリーチできないところに限界を感じていて。そんな時に星野さんから声がかかり、「これはもう僕の残りの人生をかけてもいい!」と思うくらい、ぜひやりたかった。

かつての「小劇場フェスティバル」の流れや雰囲気も一緒に復活させたかった(星野)

 

—パルテノン多摩と言えば、1988年から2005年まで17年間続いた「小劇場フェスティバル」を思い浮かべる方も多いと思います。全国の個性際立つ若手劇団を発掘し、小劇場ファンにも根強い人気がありました。

星野:「小劇場フェスティバル」は、ここが開館して間もなく立ち上がった企画で、私は98年から担当していました。小劇場ブームのまっただ中、地域の方に向けて演劇のパワーや文化を発信していきたいという思いから始まったと聞いています。市民の方には観客としてだけではなく、劇団をリサーチして決めるところから、当日の運営や審査など、様々な役割分担で関わってもらえる「接点」がいくつも用意されていたイベントでもありました。

—小劇場をベースにしたかつてのフェスティバルと、野外パフォーマンスの「多摩1キロフェス」。関連性はあるのでしょうか?

星野:小劇場フェスティバルは一旦休止し、そのまま復活できずにいましたが、「多摩1キロフェス」を企画するにあたり、かつて皆さんに親しんでいただいた小劇場フェスティバルの流れや雰囲気も一緒に復活させたかったんです。あのフェスティバルは、いろんなスタイルで関わってくださった方々が、最終的にはサポーターとして運営にも入りレセプションなどの企画もするという、イベントとしても運営体制としても魅力的なものだと感じていました。今回のフェスにもその要素が入ることで、イベントもより長続きするはずだと思い、地元の大学のゼミ生や一般参加のサポートスタッフによる運営活動にも力を入れています。

木下:サポートスタッフは、積極的にアイディアを出し合い、宣伝活動やプレイベントなど自主的な動きを見せていて、当日運営にしっかり関わってもらっています。街の感じや実行委員の人たちがどんな気持ちでフェスティバルを作っているかということは、終わったあとの観客の感想にもダイレクトに繋がってきますね。このフェスティバルにあるのは、演劇や音楽を始めた人の原点にもある、まだ「アート」と呼ばれる以前の「一緒に作って遊ぶ」という根っこの部分のようなもので、それをみんなで共有し一緒にこの街で遊んでほしい、というところが他のフェスティバルとの違いかなと。フェスの特徴もそこにあると思っています。

劇場の中で公演をする面白さには限界もあり、制約なしでやってみることの面白さを、作り手としては一度見つめてみるのもいいんじゃないかなと(木下)

 

—水上ステージは「柿喰う客」が、路上ステージには「快快」「ワワフラミンゴ」「鳥公園」「On7」などが出演。野外劇や路上パフォーマンスを行うイメージが少ない団体もいます。

 
木下:水上ステージをお願いした中屋敷法仁さん(劇団「柿喰う客」主宰)は、野外劇は初めてですが、いろいろなところで市民参加劇を作っていて、街にリサーチをかけ、どういう人がいてどんな作品を作ったらいいかを考えることに長けています。どのプログラムも「サイトスペシフィック・アート」として、ここでしかできない作品をお見せしたい。ステージの形状の特殊さでもいいですし、空気や匂い、住んでる人など、ここにしかない要素を敏感に感じ取り作品づくりができるアーティスト、そういった創作活動に興味があるかどうかを基準に選ばせていただきました。

—依頼してみて、野外で行うことに対しての反応はいかがでしたか?

木下:「こういう企画なんだけど…」と声をかけた5組のゲストは、怖がらずに引き受けてくれた方たち。話をしてみると意外にも皆さんどこかに「野外でやってみたい」という欲求があることにも気づきました。僕としては、劇場の中で公演をする面白さには限界もあり、制約なしでやってみることの面白さを、作り手としては一度見つめてみるのもいいんじゃないかなと。野外は自分で好きなように空間を作れるし、もし依頼があればやってみたかったという人は案外多いかもしれません。

—昨年は大ホールでのショーケースがありましたが、今年はプログラムから大ホールがなくなり、ほぼ野外でのパフォーマンスになっています。

星野:チケット代が発生するプログラムでも、基本的に周辺の道は通行止めをしません。そこは生活道路なので、イベントがあることを知らないで買い物に出かけた親子や、土日祝日が仕事のサラリーマンの方が通りがかったときに「なんか面白いことやってる」と立ち止まって眺めることができる。そこで「明日はチケットを買ってみようかな」とか「自分たちの住んでいる街はこんな使い方があったんだ」と気づける楽しみ方ができると思うんです。23区や関東近郊からも来ていただきたいですが、まずは地元の方が面白いと感じて、次に自分が「どう関わろうか」と思ってもらえるイベントにしたいなと。

木下:市民の方たちが「偶然」このフェスに出会い、フェスティバルが終わった後に普段の生活へ戻ったとき、見慣れている光景がふと違うものに見えてくる。それを作り出すために、この場所を変化させてみたいと思っているアーティストや何かが変わると期待させてくれるような方たちに出演してほしいと思って。DE DE MOUSEさんとホナガヨウコさんが最終日にクロージングイベントとして盆踊りスタイルのダンスパーティーをすることが決まったのですが、「ここで何か面白いことをしたい!」とそれは彼らから出てきたアイディアなんです。そういう方たちと長くおつきあいしていきながら、フェスティバルを盛り上げていきたいですね。

—市民と恊働しながら地域に根ざしたイベントを作るために、積極的に地元のアーティストを呼ぶという方法も考えられます。

星野:それも確かに大事なことだとは思います。でも、自分が住んでいる場所というのは、気に入っていたとしてもその良さは案外自分たちではわからないもので、外の人に言われて初めてそのよさに気づく、ということがあると思うんです。例えば木下さんも、普段は違うところで活動している方が多摩を見たときにどう思うのか?良さを引き出してくれて、ここにいる私たちにこの場所をもっといいと感じさせてくれる。外部の方とやる意味はそこにあると思います。

木下:星野さんのお話は、実は野外パフォーマンスにも通じる部分があって。劇場という決まったフォーマットの中では、アーティストは自分の殻を破るところまではいきづらかった。でも、例えば水上ステージにおける中屋敷君にしても、野外で行う以上はかなりの殻を破らなければ公演はできない、という背水の陣で挑んでくれています。それはアーティストにとっては「この場所を知り尽くそう」「きちんと理解してやろう」ということにも繋がるはずなんです。


今回の取材は、「野外パフォーマンス」の持つ可能性とその不思議について、じっくり考える契機となった。他からやってきたアーティストが、誰よりも一時その場所について深く考え、洞察し、表現する。それを目撃した人の数だけ新たな発見が生まれ、それは各々の「明日」へと微妙に作用していく。作り手にも観客にも、その場所に関わった者だけが得られる未知の世界を提供してくれるのが、野外パフォーマンスの魅力なのかもしれない。(永滝)

◎関連サイト◎
多摩1キロフェス2014


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