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3日間でテクノロジーとアートが融合した作品づくり『3331α Art Hack Day 2014』
「3331 千代田芸術祭 2014」(主催:アーツ千代田 3331)に、これまでの5部門の(展示部門/パフォーマンス部門(「おどりのば」)/マーケット部門/音部門/映像部門)に加え、『3331α Art Hack Day 2014』というインタラクション部門が新設された。アーティストとエンジニアが3日間に渡る創作活動(ハッカソン)を経て、【テクノロジーとアートが融合した新たな作品を生み出す】という同企画を追いかけた。(編集部:芳山徹)
©3331α Art Hack Day
<見どころ/ポイント!>
「3日間でテクノロジーとアートが融合した新たな作品を生み出す!」
-本当に出来るの?どうやって?
・そもそもハッカソンって何?
・さまざまな才能が協同するクリエイティブ環境の、発展的な事例として注目!
・コミュニティアート(アートを媒体として課題解決を目指す活動)の新たな方法論と成り得るか?
□日程:2014年8月23(土)・9月6日(土)・7日(日)
□会場:3331 Arts Chiyoda(東京都千代田区外神田)
□参加者:アーティスト25名・エンジニア25名
『3331α Art Hack Day 2014』(以下Art Hack Day)は、日本初の“アートに特化した”ハッカソンイベント。ハッカソンとは「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語。技術とアイデアをオープンに競い合う、IT業界から産まれたコンテスト・イベントのことで、「鳥人間コンテストの超過密日程版」のようなもの、ともいえようか。お祭り的な要素のみならず、製品化などに繋がることも多いという(「いいね!」ボタンはハッカソン・イベントを通じて誕生したという説も)。
「短い期間で即興的に作ることで、余計なバイアスを取り除いた、より本能に近い純粋な作品が生まれてくることを期待しています」というArt Hack Dayの募集に対して、応募は100件を超えたという。選出された老若男女(最年少は中学生!)のアーティスト25名・エンジニア25名が1箇所に集った。
ゲームクリエイター、現代美術家、美術作家、ステージ演出レーザーデザイナー、建築家、ファッションデザイナー、インスタレーションデベロッパー、宇宙物理学者、デジタルサイネージデザイン、画像処理系プログラマー、映像クリエイター、空間デザイナー、映像作家、書道家、モーショングラフィックデザイナー、ハードウェアエンジニア、電子工作作家、グラフィックアーティスト、陶芸家、音楽家、信号処理エンジニア、ダンサー・パフォーマー、機械設計、データサイエンティスト、ビジュアルデザイナー、カメラマン、アートディレクター、振付師、バイオデザイナー、作曲家など
チームとして与えられた製作期間は3日間のみ。そのスケジュールは以下の様なものだ。
<初日(8/23)>
・参加者たちが複数のチームを作り、各自のアイデアを出し合う「アイディアソン」(6時間)
→その日の内にコンセプトを確定。その後2週間、各自作業(設計やリサーチなど)を行うことが出来る。
<2日目(9/6)>
・各チームでの創作作業(9:45~21:00だが延長もあり。徹夜したチームもあった)
<最終日(9/7)>
・各チームでの創作作業(9:30~15:00)
・公開発表/プレゼンテーション
まったくバラバラの分野、属性からなる50名が、どのようにしてチームをつくり、創作活動を行っていくのか。初日のスタートは、それぞれのポートフォリオや、取り組みたいことを一旦脇に置いて、「何を話し合いたいか」をテーマに、適当なグループでのディスカッションから開始。そこから徐々に人とアイディアが巡回しはじめ、各自のプレゼンテーションも交えつつチームが出来上がっていった。
©3331α Art Hack Day
そのきっかけの多くは、「素朴な問いかけ」であったように感じられた。「日常のイライラをポジティブに!」(グラフィックデザイナー)、「なんか大きなものをつくりたいです!」(インタラクションデザイナー)、「音をだしちゃいけない場所でライブしたい!」(ギタリスト)といった問いかけに対して、自然と参加者の輪が広がっていったように見受けられた。そして6時間の間に、計10チームとそれぞれの創作コンセプトが決定していった。エンジニア・サイドからの「テクノロジーとコンセプトを融合するアイディア」は非常に具体的で、そこにアーティスト・サイドからの「こんなことは出来ない?」という素朴な投げかけがなされ、バラバラだったアイディアが明確な形に収斂していく。そのスピード感が尋常ではなく、全員が好奇心の塊のようになっている。
そんな初日から2週間後、チーム作業としては間が空いたが、それぞれの各自作業(設計やリサーチなど)の成果を持ち寄って、怒濤の2日間に突入した。Art Hack Dayでは最終日のプレゼンテーションまでに、実際の作品を創り上げることが求められている。主催側の柔軟な配慮で、複数の部屋での創作のみならず、予定になかった体育館(3331 Arts Chiyodaは中学校をリノベーションした施設)でのクリエーションや、屋外でのパフォーマンス、退館時間を過ぎても作業を続けることが認められ、徹夜になったチームもあった。
あるチームは、「書家にとって、作品に向かい合う気持ちや精神性、その過程が一番大事」という言葉をきっかけに、【書道の動きをセンサーを用いて計測(センシング)し、それを音と映像に変換し、書家が放出する情動を別のアートとして表現する】という作品を創作することに。テクノロジーを用いた書家のパフォーミング・アートであると同時に、誰でも体験できるゲームが産まれた。自分の筆使いが(目の前に設置されたスクリーン上に)別のアートとして投影され、かつ動きに合わせて音楽が自動的に生成される。力強い筆跡にはドラマティックなメロディがそれを後押しする、というように。
そして迎えた最終日。株式会社ロフトワーク代表取締役の林千晶氏や、メディアアーティストでニコニコ学会β実行委員長の江渡浩一郎氏ほか、計6人の審査員に向けて、全10作品それぞれのプレゼンテーションが行われた。大半を占めた、メディアアート/インスタレーションよりの体験型のものは、審査委員が実際に作品世界を実体験する。
審査の結果、『 Pepperと人間 』という作品が大賞(Golden Hack Award)を受賞した。Pepperは、「人の感情を認識する」「ボディランゲージが出来る」人型ロボット(来年2月にソフトバンクより一般発売開始)。そのPepper3体とダンサー1人が、DJによる即興演奏と、VJ(DJの映像版)に合わせてパフォーマンスを行うという作品なのだが、ノイジーな爆音と映像に触発されたPepperが、ヒステリックで情動的なダンスを披露する。「動きを規定するプログラミングに乱数を用いることで、あたかも即興で動いているように見せることが出来る」ことを発見したという。同作品は、9月20日に行われる「Pepper Tech Festival」(Pepper技術情報のお披露目会)での発表機会も、副賞として提供されることとなった。
Pepperと共にパフォーマンスを行った、ダンサーの升水絵里香さん(「横浜ダンスコレクションEX2013」最優秀新人賞受賞振付家)は今回の感想をこう語った。
「Pepperの構造と人間の身体性を、エンジニアと共に徹底的に比較していく作業でもあったのですが、そこに沢山の発見がありました。人間の体に対する再発見もありましたし、個性が無いはずのロボットにも個体差はやっぱりあって、途中からそれぞれがとても愛おしく感じられるようになりました。ハッカソン・イベントに参加したのは初めてだったのですが、本当に刺激的で楽しかった。これからもジャンルを横断するような活動を続けたい」(画像:升水絵里香さん ©3331α Art Hack Day)
尚、審査員賞の受賞作品は、Art Hack DayのFacebookページで紹介されており、またそれぞれの作品の詳細(映像含め)は、Art Hack Dayの協賛企業である「Engadge」(テクノロジー・ブログ)のサイト上に後日公開される予定となっている(10/31追記、公開されました)。
Art Hack Dayの今後はまだ分からないが、同様のコンセプトを用いた企画は、様々な分野で漸次広がっていくのではないだろうか。今回、「テクノロジーと身体性・デザインが融合する」ということは全てのチームで興っていたが、そこにもし「演劇的なもの」が “ 社会的な変化を読み解く感性 ” として融合していたら、どんなコンセプトが産まれ、どのような作品が誕生していたことだろう!今後は、関係性の相対として世界を描く「視点」を持ち、「物語」の力を差配することの出来るアーティスト(劇作家、演出家、ドラマターグなど)の参加を期待したい。
◎関連サイト◎
インタラクション部門「3331α Art Hack Day 2014」|3331 千代田芸術祭 2014
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