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小室明子の「北国の劇場から」Vol.4

13.05/01

北海道札幌市にある劇場「コンカリーニョ」の演劇プログラムディレクター、小室明子さんの連載コラム。第四回は、コンカリーニョの現在に至るまでをご紹介。資金集めだけでなく、劇場の稼働率を上げるためにコンカリーニョが行った事とは…?新しいコンカリーニョができるまで。とそこからの7年くらい。


4月も20日を過ぎて、ようやく春と言える気候になりました札幌です。ゴールデンウィークが空けて5月7日、コンカリーニョがオープンから丸7年を迎える、ということで、今回はコンカリーニョのここまでをご紹介したいと思います。

札幌軟石という石造りの倉庫を改造したフリースペースだった旧コンカリーニョが活動を休止したのは2002年8月のこと。JR琴似駅北口の再開発のためでした。
もともとは、札幌ロマンチカシアター魴鮄(ほうぼう)舎(代表は現、札幌座チーフディレクターの斎藤歩さん)が劇場兼稽古場として使用していた場所で、劇団の活動休止となった1995年、現理事の照明家・高橋正和(http://blog.livedoor.jp/t_makoshi/)の提案により「コンカリーニョ」という名前でのフリースペースとしての運営が始まりました。

古い建物の風情を活かした個性的な場所の魅力もさることながら、熱意あるスタッフワークでも愛された場所でした。7年間の活動で、年間平均稼働率は65%、年間平均来場者数25,000人、約750プログラムが実施されました。
地域の再開発という事情により倉庫の解体が確定となった2001年頃から、再建を目指す声が高まり、2003年のNPO法人設立へと向かいます。新たにできる高層マンション(40階建て!)横の商業施設内に劇場を、と通称・ハード設計チームを中心に、再開発組合や設計者との話し合いが重ねられました。札幌演劇の拠点であったルネッサンス・マリア・テアトロの閉鎖により、小さな劇場か大きなホールしかなくなってしまった現状を鑑み、250席の客席を持つ劇場の建設を目指して動き出しました(結果的には180席の稼働客席で落ち着きましたが)。

もっとも大変だったのは、当然のことながら資金集めです。商業棟のいちテナントしての入居です。劇場の設備はすべて自前で用意。寄附を募り(現在も引き続き募集中です→http://www.concarino.or.jp/npo/rebuild/)、もらえる機材はもらい、目標額に届かなかった分は借金というかたちで工事がスタートし、2006年5月、新コンカリーニョがオープンしました。


イスは1席4万円、劇場入口のプレートは1万円から。まだまだ受付中です。

そこから、7年。順調とは言いがたい運営が続いています。2002年の閉鎖から2006年のオープンの間で、演劇の状況は大きく変化していました。先月も書いたように、使う小屋によって作品も集客数も変化し、作品と集客の両面で新しいコンカリーニョを使いこなせる劇団は、当時、劇団イナダ組くらいになっていました。それでも自主企画と貸館でなんとかやってきましたが、2010年に稼働率がひどい落ち込みをみせます。

年間稼働率
2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度
41.3% 40.6% 48.6% 44.3% 27.8% 45.0% 52.6%

いったい何が起こったのか、という落ち込み具合です。劇場が使われていないと事務所が大変に寒いのですが、この頃、冬場は特に、事務所が寒くて仕方がなかったという記憶があります。今思えば、この場所で何をするか、この場所をどうしていくか、ということを真剣に議論せず、よそから運営資金を稼いでくることやその場凌ぎのレンタル誘致方法ばかりを考えていたツケだったように思います。

多種多様な作品が上演される場でありたい。
まずは札幌の劇団にコンカリーニョについてのアンケートを行いました。その結果をもとに数劇団にヒアリングをし、この先コンカリーニョを使っていくだろう若い劇団との話し合いの場を設け、使われにくい理由を洗い出しました。第一はやはり、集客できる人数と劇場費+α(スタッフ人件費や舞台美術)の関係でしたが、若者たちが「いずれは使えるようになりたい」と思っていてくれたことに安堵し、一方で使わない理由が料金だけでなく、「空間を使いこなせないんじゃないか」という気持ちがあるということに不安も覚えました。
コンカリーニョは、必要最低限の設備しか持たない劇場です。決して創る人達に優しい場所ではありません。その分、自由になんでもできる場所です。札幌の劇団がなかなか使ってくれない時代に、私が一番不安に思ったのはこの「演出家としてここを使いたいという欲求はおきないのか」ということでした(それほどの力がこの場所になかったということなのかもしれませんが)。自由さをマイナスに捉えるというのはなかなか由々しき問題、無理矢理にでも使ってみる機会があるといいのかも…、と2011年と12年に行われた「サッポロショーケース」という、主に若い劇団が参加する短編演劇祭に格安で劇場を提供したりしました。
その後も調査を続け、新プランを提案。そこから始まったのが、毎年空きが目立つ春先を定価の半額程度で貸し出す共催企画、地元の演劇人たち・お客様に良い作品を観てもらうため道外のカンパニーに劇場を無料提供する公募企画、待っていてもコンカリーニョを使いこなせる劇団は出て来ない、ということでレジデントカンパニーを置くことにしました。結局のところ、年中180席のこの劇場で作品が上演され続けるためには、畑を耕すことから始めないとならなかったのです。

さまざまな手を打ってきた甲斐あってなのかどうか、札幌演劇シーズンというロングランイベントが始まったこともあり、稼働率が持ち直す気配を見せています。目標とする年間稼働率65%まではあと4、5歩くらいといったところでしょうか。劇場にお客さんをつける、が当面の課題です。

道外カンパニーの提携公演に関しては、9月後半あたりから公募開始の予定です。来年度の札幌公演をご検討の皆様、どうぞよろしくお願いします。


■小室 明子(こむろ・あきこ)■
1974年生まれ。札幌市出身。コンカリーニョ演劇プログラムディレクター。大学在学中に演劇と出会う。大学卒業後、タウン誌の編集者などを経て2001年に上京。東京ではフリーライター・エディターとして生計を立てつつ演劇の世界もうろうろ。2006年、fringe主催の「PmP2006」に参加したのをきっかけに、2007年4月に札幌へ戻り、以来、NPO法人コンカリーニョに勤務。札幌演劇の活性化、演劇人の実力の向上を願い、他地域の劇団などとの交流企画や演劇祭、在札劇団の道外公演のプロデュースなどを行っている。


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