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「今あるモノを花ひらかせよう」鹿児島県大隅半島に移住したダンサーJOUの芸術地域おこし活動レポート Vol.3

13.04/20

「劇場」という枠をはみ出して、「地域」の中で活動されているダンサー・JOUさんによる新コラム!地域おこし協力隊に就任して最初に実現した企画、「踊る地域案内所」。企画の実現にあたり、地域住民、行政、地域外部などそれぞれの立場からの視点が浮き彫りになります。

踊る地域案内所とは


踊る地域案内所の看板

開設準備の過程に伴う、それぞれの視点
11月に鹿児島県肝付町の地域おこし協力隊に就任して、最初に実現した企画が「踊る地域案内所」でした。
これは、現在の住居のある地域の休校中の中学校の体育館を活用し地域活性化のための空き施設利用の実験として、地域と行政とに話を通して実現することができました。
前回も記述しましたが、イベントを起こすにあたって関わる人々それぞれの立場からの視点が浮き彫りにされた、興味深いプロセスでした。


地域住民

餅つきに招いてくれたご近所さん

地域には「村つくり推進委員会」という、4つの町内会が集まった学校区のまとまりがひとつの話し合いの母体になっていて、まず、その集会に伺って、体育館利用の同意を頂きました。

地域の方々は、「お金や奉仕作業的な自分達の負担が増えない範囲であれば、ぜひ使って下さい」という反応でした。

実際に住んでみて、高齢化と少子化で、タダでさえ少ない住民の数に対して、道路の草刈りなど、住民の奉仕作業の負担も多いのが現状です。確かに、その気持ちは理解できました。

地域住民と、集会など公の場で話しをする前に、コミュニティの皆さん1人1人に理解して応援者になってもらうことが、重要です。地域というのは本来、家族親戚が生まれ育つ場所ですから、集落内のほとんどが親戚同士だったり、幼なじみだったりします。そうした身内社会の中によそ者としてまず、受け入れてもらえるかどうか?信頼関係を築いていくには、日常の積み重ねでしかありません。どこまでもよそ者ではありながら、家族のようにお互いに思い合えるかどうか?まだまだこれから始まったばかりなので、正解はないですが、誠心誠意、「この人達のために」という気持ちと、「無条件で自分が楽しいから」という気持ちが両立していかないと難しいことなのではないかと思っています。

居住区の奉仕活動にも、できるだけ、参加。まずは、日常を学ぶことから。

お互いに全てわかっていると言っても良いくらい親しい地域住民の皆さんには、よそ者には見えない様々なレイヤーがあり、関係があります。先祖代々、同じ土地を守って来ているのですから、それなりの積み重ねができており、これはもう、よそ者には知り得ない境地です。

それでも、いろいろな形で、応援して下さる方がいて、本当に有り難かったです。地域の今の良い所が消耗しないようなやり方で、何をどうすれば一番喜んでもらえるのか?

それらを、言葉やイメージ画像、実例など、細やかに説明して理解してもらうこと、できるだけ1人1人に話すこと、に苦心しました。

大人数の前で話しても、あまり伝わらないですし、例えば家族でも、1人1人が違います。例えば、ご主人に話してわかってもらっても、奥さんは違う気持ちだったら、結局うまくいかないものです。

逆にある時は、1人にわかってもらえた連鎖で、面白いように物事が進んでいくこともあります。
基本は、「話せばわかる」「1人1人と細やかに対応」
人間関係の基本でもあるかもしれません。


踊る地域案内所。肝付町長(左上)教育長(下中央)も訪れて、応援してくださいました。

行政行政の立場では、地域おこし協力隊の受け入れ課である企画調整課と、学校施設管理の教育委員会と、両方に話を通す必要があり、承諾と管理と、行政の体制枠をまたがる企画をした時の難しさを感じました。

管理職の上の人が快諾しても、実務担当の人達から難しさを指摘されることもありますし、逆に、実務担当の人達から賛同して頂いても、管理職レベルでの許可がおりず実現できないこともあります。

どちらも「規定に沿って公正に対処する」という行政の成り立ちの仕組み上、「規定にないから」「前例にないから」という点で、公正さを守るための「規定」や「前例」が新しい試みにおいては、関門になってきます。

何故それが必要なのか?それをすることにより、どれだけの住民に利益をもたらすことができるのか?

枠組みに沿いながら、それらを証明していかなければなりません。

その枠組みを、自分達がまず理解することが、大変でした。まだ、本当にはわかっていないかと思いますが。例えば、最初のうちは、まず目の前の人にわかってもらうこと。しかし、行政には、組織があります。窓口担当者は、上司や民間からの問い合わせに答えられないといけません。それがわかってから、民間や議会にきちと説明説得できる理論や数値、実例などを示して、「聞かれた時に、答えられるように」という視点から、資料や企画書を作るようになりました。

休校中の体育館を利用した町おこし、というコンセプトで、アーティスト・イン・レジデンスを立ち上げたわけです。


踊る地域案内所期間中、NHKの取材もはいりました。

地域外部11月に就任して、12月からの開所に間に合うように、資料集めを始めました。行政的には、企画課、観光課、教育委員会など、所轄がまたがる企画ではあるのですが、関係各所と話をして、人のつながりがそのまま、各市町や地域のパンフレットの数になっていきました。

外部情報としては以前、秋葉原にいた時にメンバーとして参加して、非常に面白かったAAF(アサヒアートフェスティバル)の全国のメンバーの皆さんに、各地で行なっているイベントやパンフレットの送付をお願いしました。メーリングで送ったので、返信のない方も多かったのですが、すぐに送ってくれた方もいて、うれしかったです。

また、ちょうど1月に上海まで仕事で来る予定だと言うメールをもらって、フランス人のダンサー、ルイ-クレモン氏をゲスト所員として、招聘しました。これは、前回お話しした「セカンドホームタウン・プロジェクト」への賛同から実現しました。


踊る地域案内所の前身としての稽古場カフェ

ジュネーブ市が運営するアーティスト用ゲストハウス。空き家利用として、ぜひ取り入れたい仕組み。

2006年に、アサヒ・アートスクエアのホールの空き期間を利用した「稽古場カフェ」という企画のダンサー店長をやらせて頂いたことがあります。カフェの営業をしつつ、稽古場としてホールを使わせてもらえるという、現物支給のアーティスト支援のような企画でした。若手ホープ、岩渕貞太君との共同経営でした。作品創作に燃える岩渕君の傍ら、東京の真ん中で、広い場所を自由に使える。この貴重な利益を、都内近郊のダンサーと共有しようと、千円日替わり講師ワークショップや、即興セッションなど、様々な企画を考え、実施しました。
カフェと思って訪れたお客様との会話や、固定されていない期間限定のダンスの場所、ということで、いろいろな化学反応が楽しかったです。ダンサーにとっては、行きつけの稽古場があって、常連さんがいて、受けてみたいけど行きづらい、というような状況もままあるようでしたので、新しい期間限定の場所でいろいろなダンサーがワークショップをしている、というのは、若手ダンサーにとっては、魅力的だったようです。当時、主旨に賛同してくれた講師は、近藤良平、康本雅子、野和田恵理花、白井さちこ、松本大樹、オリンピック新体操選手の山田海峰、元パリオペラ座のピエール・ダルト、元フォーサイスダンサーのアレッシオ・シルベストリンなどなど、豪華な顔ぶれで賑わいました。
その後、アサヒ・アートスクエアに定着した、カフェバーイベント的な「マムシュカ」も、この期間中に声をかけてやってもらったことが始まりでした。最終日のクロージングでは、カフェ期間中の練習の成果として、ショーイングをしました。当時の稽古場カフェwebに日記を書いていたのですが、今はウェブ上から消えてしまっています。その翌年、講師をしてくれたダンサー、野和田恵里花さんが急逝してしまったので、貴重な記録として、ぜひとも復活させたいものでしたが、未だ叶っていません。


展示された沢山のパンフレット
稽古を見ながらおしゃべり

過去の経験がヒントになって生まれた、踊る地域案内所数年前の稽古場カフェの体験をもとに、休校中の体育館を、レジデンス・アーティストのスタジオ(稽古場)として使いながらも、地域に開かれた寄り合いの場所にしていきたい、と思いついたのが、踊る地域案内所でした。
企画としては、以下に要約できます。

1. 体育館をダンスの練習場所として利用する。(来所者はその稽古を見ることができる)
2. 地域やアートを中心としたイベントやオーガナイズのパンフレットを並べる。
3. 人と人が出会い、交流できる場所にする。

それぞれの地域で起こしている情報の掲載されているパンフレットやチラシを、休校中の体育館に、ずらりと一同に並べて、持ち帰ったり、閲覧したりできるようにしました。隣りの公民館からインターネットをひいてもらい、ustライブ中継をしました。これは以前、2011年に、三鷹天命反転住宅をデザインしたアーティスト荒川修作さんの1周忌イベントの一環として、三鷹の住宅内で、1週間144時間ダダ漏れustをしつつ、パフォーマンスやワークショップなどをした時の感触から、遠隔で外部とつながる手段として、実現させました。三鷹天命反転住宅の時は、1日24時間中継、ということもあり、数千人の視聴を得ることができました。

今回は、営業時間のみ、という時間限定もあり、数百人止まり、三鷹と比べるともちろん、数は少ないですが、それでも、現地に来たことのない方もアクセスできる、という点においては、やって良かったと思っています。


結果

肝付町の竹が、サイバー再生して、スイス舞台デビュースイスの新聞に載った講演の写真

少ない数とはいえ、数百人、遠隔地でのイベントへのアクセス数としては、まずまずな数字だったと思います。

また、述べ来場者数も同様に、数百人レベルになりました。何もしていなければ、数人の来訪者しかないであろう地域に、毎日少しずつ、遠くからも近くからも、様々な個性溢れる素敵な方々がいらしてくださいました。また、メディアの取材も多く、ラジオの電話インタビューやテレビ取材、新聞など、沢山の皆さんに興味を持って頂きました。外の皆さんが興味を持って来られるということで、地域の皆さんも「よくわからないけど、がんばってる」と評価して下さった方もいらしたようです。「地域の知名度を上げる」という点においては、メディア露出回数では、目標は達成できたと言えるかもしれません。
また、メディアに取り上げられたことで、地域内での評価や信頼度も上がったように感じました。

ジュネーブで打ち合わせ中、
ダンサーのルイ-クレモン氏と音楽家のポル氏と。

最終日には、クロージングイベントとして、ルイ-クレモンとのデュエットを、稽古の成果として披露しました。130名来場、山間の地域としては、大賑わいでした。また、このレジデンスは、この後、スイス、ジュネーブでのクリエーションにつながっていきます。4月に、スイス3都市で上演し、彼ら、日本語は読めないと思いますが、肝付町のロゴマークが、現地のプログラムには入っています。

ダンスだけではなく、海外での、踊る地域案内所、広域芸術祭、およびその根幹となる「セカンドホームタウン・プロジェクト」への反応もよく、内と外と、片方ずつ足を前に進めていくのと同じように、少しずつ進展させていかなければなりません。踊る地域案内所が終わった後、「地域の知名度を上げると同時に、地域内にも、受け入れの体制を育んでいかなければ、先の進展まで辿り着けない」と思ったので、終了後に、役場の皆さんの集まる席にお時間を頂いて、報告会をしました。


before – present – after

セカンドホームタウン プロジェクトに賛同して、滞在したルイ-クレモン氏と、鹿児島県肝属郡肝付町川上中学校にて。

企画を立てて実行するためには、3つの段階があります。

1. 開催前の企画の根回しと話し合い
2. 開催中のメディアや地域、行政とのコミュニケーション
3. 開催後の報告書作りと情報およびビジョンの共有化

例えば、ワークショップには必ず振り返りの時間があるように、開催した企画も、情報を共有化して、それが一体なんであったのか?何につながっていく可能性があるのか?どのような改善を図れば、その可能性はさらに広がるのか?を組織的に考え、実行していくことが、未来にも繋がっていくのではないでしょうか?

ダンスの仕事でつながった国内外の関係を、地域につなげ、つながった双方が豊かになるような機会を作る。それが、自分なりのクリエーションであり、地域おこしでもあります。踊る地域案内所は、そうした越境クリエーションプロジェクトの1つの形でもありました。


ジュネーブ、ユージンヌ劇場の観客。

クロージングの様子

稽古場カフェ
http://azumabashi-dx.net/2006/10/showing.html
稽古場カフェ ワークショップイベント
http://alice.mondomilch.com/?eid=420904

岩渕貞太-稽古場カフェ
http://teita-iwabuchi.com/jp/permsara.html

マムシュカ
http://www.dance-media.com/videodance2/goit-screen.htm

稽古場カフェ スタッフ日記
http://www.atelier-canon.jp/2006/09/27/%E6%9C%AC%E6%97%A5%E3%81%AF%E3%80%8C%E7%A8%BD%E5%8F%A4%E5%A0%B4%E3%82%AB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%97%A5/

三鷹天命反転住宅[プロジェクト144]
http://www.architectural-body.com/mitaka/201105event.html
http://odorujou.blog100.fc2.com/blog-entry-1536.html

踊る地域案内所
http://osumiart.exblog.jp/19216268/
クロージングイベント
http://kimotsuki.info/pages/know/local-news/post-1109.html
報告会
http://kimotsuki.info/pages/know/local-news/post-1123.html

ジュネーブ公演
http://www.darksite.ch/theatreusine/artiste.php?id_piece=325&id_artiste=251
ラ・ショー・ド・フォン公演
http://www.chaux-de-fonds.ch/en/evenements/antilope-festival-play


■JOU(じょう)■
23才で踊り始める。ダンスで人やモノや場をつなぐ作品作りをする。2008年ソウル国際振付祭にて外国人振付家特別賞を受賞。2013年、肝付町踊る地域おこし協力隊として鹿児島県に移住し、劇場舞台の枠を越え、地域おこしとつながったダンス活動を創作中。おおすみ夏の芸術祭(OAF)2012発起人。おおすみ踊る地域案内所所長。

JOU日記: http://odorujou.net
大隅文化生活http://osumiart.exblog.jp/


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