Next舞台制作塾

東京・ソウルで、芸術と社会を繋ぐ役割を担う者同士が交流「舞台制作者Next舞台制作塾inソウル」

今年(2015年)4月18日、韓国・ソウルで行われている多元(ダウォン)芸術の国際芸術祭「フェスティバル・ボム」内で、Next舞台制作塾inソウルを開催しました。「京都のコンテンポラリー、公共とパブリックをめぐって」というテーマを掲げ、日本から橋本裕介さん(ロームシアター京都/KYOTO EXPERIMENT プログラム・ディレクター)に講師として登壇していただきました。

 

舞台制作塾inソウルまでの経緯と、東京・ソウルの舞台制作者の交流


フェスティバル・ボムのディレクターであるイ・スンヒョウさんは、岸本佳子ゼミのゲスト講師でもありましたが、以前より舞台芸術における日韓の人材交流に強い関心を持たれており、また、フェスティバル・ボムでも舞台制作者の人材育成プログラムを実施していました。制作塾としても、韓国と日本との間に政治的な諸問題があるからこそ、芸術と社会を繋ぐ役割を担う者同士で交流をする意義は大きいと考え、東京・ソウル間での舞台制作者の交流と、ソウルでの講座を行うことになりました。

 

3月上旬、岸本ゼミではイ・スンヒョウさんゲスト回が行われましたが、同じ時期に、フェスティバル・ボムの舞台制作者育成アカデミー『1110プロジェクト』のメンバーも来日し、文化芸術関連施設や劇場関係者等を訪問しました。岸本ゼミの開講日には、ゼミの受講生と『1110プロジェクト』のメンバーとのささやかな交流会を行いました。
『1110プロジェクト』の公式サイトは韓国語のみです。日本語では、植松侑子さんのブログに詳しく書かれています。

 

そして、私たち舞台制作塾も、講座を行うためにソウルへ行きました。

 

「京都のコンテンポラリー、公共とパブリックをめぐって」


Next舞台制作塾inソウルは、フェスティバル・ボムのプログラムとして行われたシンポジウム企画「Local Contemporaneity and Cross-Reference(ローカル・コンテンポラリーとクロス・リファレンス[相互参照])」の中で行いました。講座のテーマは「京都のコンテンポラリー、公共とパブリックをめぐって」というものです。

 

講師の橋本さんからは、まず京都の文化芸術に関わる土壌についてのプレゼンテーションがあり、その後KYOTO EXPERIMENTに2011年から継続して参加している高嶺格さんの作品「ジャパン・シンドローム」シリーズを例に、いわゆる「公共」の場について議論を行いました。いまの日本の現実では、さまざまな規制が敷かれていく中で「公共」がその規制の主体である行政とほぼ同義になっているという指摘がありました。その上で、アートに携わる私たちが考えていくこととして、異なる考えを持つ人々が共にその場に居られる「パブリック」な状態としての公共の場が、いま問い直されるべきであるということが語られました。

 

この講義は日本語で行われましたが、韓国語での同時通訳が入り、日本人だけでなく多くのフェスティバル参加者が受講しました。

 

「フェスティバル・ボムをソウルへ観に行く」企画

岸本ゼミでは、Next舞台制作塾inソウルを挟む4月17日(金)からフェスティバル最終日の4月19日(日)にかけて、「フェスティバル・ボムをソウルへ観に行く」企画と題し、受講生や、講師の岸本さん、事務局メンバーなどを合わせて16名でソウルへ行きました。

 

この期間内で参加者は、She She Pop『シュプラーデン』、Lee Minkyoung『Karaoke for Peace』、フェスティバル/トーキョーinソウル、LEE Eungyeol『Méliès Illusion – Prologue』などを観劇しました。クロージングパーティーを兼ねた「Asian Music Party」にも多数の岸本ゼミメンバーが参加しました。中には、見つけるのが非常に困難な会場で行われていた演目もあり、参加者メンバーで助け合ったり、現地の方に道を尋ねたりしながら、ソウルの様々な場所で舞台芸術を体験しました。

 

岸本ゼミにゲスト講師として登壇いただいたイ・スンヒョウさん、ウルリケ・クラウトハイムさん、植松侑子さんはフェスティバル・ボムに関わっており、ゼミの中でも度々このフェスティバルについて触れていました。また、これまで「どんなフェスティバルが各地で行われているのか?」、「フェスティバルにはどんな役割があるのか?」ということを学んだり、議論をしたりしてきましたが、実際にフェスティバルに参加することで、受講生のみなさん考えがより深まったようです。

舞台について話しながらわいわい旅するツアー、人生であまり経験する機会の無い楽しい時間でした。私たち外国人は、そのアーティストの国内での評価やポジションに捉われずに作品を見る事ができます。フェスティバルは、多様なアーティストが参加する場であると同時に、観客もまた国内外から訪れ多様な見方を出来るのだ、という発見がありました。(舞台制作者)

 

特に印象的だったのは、作品・場所によって客層がかなり異なっていた点です。大学構内で上演されたShe She Popの作品は学生や若年層、公共ホールで上演された『Méliès Illusion – Prologue』は親子連れが多く見受けられました。たとえば日本のF/Tなどでは「フェスティバル」のファンが強い印象なので(もちろん年数などの差もあると思いますが)、フェスティバルの枠組みの中に多様な観客がいることが新鮮に感じられました。(舞台制作者)

 

若い制作者、若い観客が、街のスポットのあちこちを使って、楽しげに前向きに実験している様子に好感を持ち、明日へのエネルギーのようなものを感じました。(劇場制作者)

 

She She Popのような強い社会的メッセージを含んだ作品を観るのは初めてだったので、最も衝撃の大きいものでした。今まで娯楽としての芸術しか触れてこなかったのですが、良くも悪くも政治的側面も持ち合わせるものなのだなと感じました。また、ソウルという街に対して、普段の反日報道を疑うほど親日の印象を受けました。会場がわかりにくい場所にあったりもしたため、一人で迷い道行く人に道を尋ねたのですが、英語を話せる人がいなかったにも関わらず、親切に会場まで連れて行って下さったりと、本当に優しさに助けられました。(学生)

また、受講生の山田真実(ttu)さんが、noteで旅の様子や演目の感想などを詳細にレポートしています。

 

2015年09月24日 講義・セミナーレポート