Next舞台制作塾

オープンサロン@大阪「舞台制作者の仕事、徹底分析!」レポート

「オープンサロン@大阪」写真
こんにちは、そしてはじめまして。
芸創ゼミvol70 Next舞台制作塾オープンサロン@大阪」でファシリテーターを務めました鳥井由美子です。12月に行いましたオープンサロン@大阪のレポートを、私がお届けさせていただきます。

 

昨年12月18日、“Next舞台制作塾”は初の大阪でのオープンサロンを開催しました。
初めて大阪で開催する今回は、大阪市立芸術創造館にて実施されている「芸創ゼミ」とのコラボレーション企画として行いました。

 

今回のメインテーマは「舞台制作者の仕事、徹底分析!」。
このテーマに実に50人近くの舞台芸術に関わる様々な境遇の方々が大阪市立芸術創造館に集まってくださいました。

 

登壇者であるNext(有限会社ネビュラエクストラサポート)の藤原顕太さん、また大阪の演劇制作会社ライトアイ・代表の笠原希さんのお二人と、約2時間を共に過ごしました。

 

“それぞれの関心とは?”“いま、課題に感じていることは?”

まずは、今回集ったたくさんの参加者の問題意識を「可視化」「共有」したいなあと考えました。
また問題意識を「口に出す」「聞く」ことで場内にコミュニケーションを生み、このサロンの時間を出来るだけ能動的に臨める時間にすることを目的に、アイスブレイク的なワークを行いました。
全員の簡単な自己紹介の後、三人ずつの小さなグループに分かれ、メインテーマについて「それぞれの関心とは?」「いま、課題に感じていることは?」などを話してもらいました。そこで出た意見の一つずつを小さな用紙に書き、全グループから出た意見全てを一つの大きなホワイトボードに掲示していきました。

 

以下は、出てきた質問や課題をいくつかの共通する項目に分けて、まとめています。

 

□劇場の制作者
・劇場に就職したきっかけは?
・劇場と制作者のミスマッチ

 

□公演・企画を立ち上げるにあたって
・公演の際のコンプライアンス
・本番までのスタッフと劇団のスケジューリングはどのようにしているか?
・お金のやりくり
・プロデュース公演の立ち上げ方
・理想の企画書って?
・新しい作品、イベントの企画力をつけたい
・作品にあった劇場の選び方

 

□制作のギャラについて
・ボランティア、外注の場合のギャラの不確かさ
・制作は外注した方が予算をふくめて価値はあるのか

 

□集客を上げるための方法、広報について
・新しい層のお客さんをどう呼ぶか
・公演にみあった効果的な広報・宣伝方法

 

□情報・コネクションの広げ方について
・演劇の外の世界とのかかわりをどう作れば良いか?
・コミュニティ、コネクションの広げ方
・情報のみつけ方

 

□集団性・関係性について
・演出家と制作
・劇団主宰と制作
・制作とアーティスト
・劇団員と制作者との温度差、劇団内での立ち位置
・舞台監督と制作のチームワーク
・外注制作者との関係性
・身内や知人の関係性でなあなあになってしまうこと
・制作者にどこまで頼めばいいの?

 

□制作を学ぶ教育・育成環境について
・どうしたら後継者が育つのか?
・「制作」そのものを学ぶ
・マネジメントを学ぶ場所の不足

 

□関西での現状について
・関西の小劇場をどう盛り上げるか?
・関西圏での情報流通

 

□その他
・フリーorカンパニーor劇場、どこに属するべきなのか?
・役者と制作など役割を兼ねる場合はどう立ち回ればよい?

 

今回の参加者の境遇はとても様々。
プロデューサー、小劇場演劇劇団の制作キャリア10年以上の方から1年未満の方まで、また劇団主宰、演出家、劇場制作、人形劇団の制作、舞台監督、舞台美術家、俳優などなど……大阪~関西、そして名古屋などからも参加されていました。
普段は多方面で活動されている皆さんですが、問題意識は思っていたほどのバラつきが無く、いくつかの共通項を見つけ出せるものでした。
それにはとっても驚きましたし、また、他者が持つ問題を集め照らし合わせることで、自分も持っている/持つべき課題、あるいは自分は既に解決している課題を再確認できます。
このように、相対的に考えを進めていくことで考えを深める余裕ができたり、客観的で冷静な視点を持つことができると思います。

 

「舞台制作者」の仕事ってなんなのだろうか?その役割に含まれるているあれこれとは……

「オープンサロン@大阪」写真
藤原顕太さんは、“それではそもそも舞台制作者の役割にはどういったことが含まれているのか”についてのプレゼンテーションをしてくださいました。

 

まずは制作者の役割について分析するところから始まりました。“作品やアーティストの活動に、どのような価値を見いだせるかは、制作者が持つ視点のありようによって、大きく変わるのではないか”と藤原さんは言います。

 

続いて、「制作者の主な勤務先」「制作者の働き方(組織との関係)」や「『何』をマネジメントする仕事か?」という視点から、場所や役割をもとにをお話ししてくださいました。
自分が「どのジャンルと」、また「どの場所」で、「どういう角度から」アートシーンを見つめていきたいかで、「制作」としての歩み方はかわってきますね。

 

また興味深かったのは「スキル」に関するプレゼンテーションです。
ここでは「スキル」は(1)コミュニケーション能力、(2)心身のケア、(3)問題意識、(4)ネットワーキングの大きく4つに分けられていました。
(1)コミュニケーション能力については、“企画書・予算書・助成金申請書・プレスリリースなどは全て「コミュニケーションをとるための重要な手段”と述べていましたが、その考えにはハッとしましたし、頷けます。また、(3)問題意識については、様々なことを判断していくとき「なぜ自分がそう思うのか」を言葉にできるよう意識し思想を深めることや、「学ぶ」など考え続けることは、芸術に関わる人の基礎トレーニングとして大切なことだと思います。
(4)のネットワーキングで重要なことは、他の地域に行きその土地の人々と直接繋がって、その場所だからこそ成立している価値観があることを知ることです。自分の価値観と同じ部分・違う部分を見つけ相対的な価値感覚を養うことが重要です。

 

“ここであげたスキルは一般的な社会人スキル(=ビジネススキル)と重複する部分も多いが、重要なのはアートの価値観(=既存の価値観と異なるもの)をそこに反映させていくこと。社会の中に既にある価値観と、アートの価値観は根本的には全く違う価値観だからこそ、社会とアートを繋げるために制作者が重要な役割を担う、という発想を持つことが大切”と藤原さんは言います。

 

最後に、これから制作を始める人に向けたヒントをいくつか紹介されたほか、制作者の地位向上のために必要なことを挙げてくださいました。制作としての経験がまだ少ない参加者も多くいらっしゃいましたが、このプレゼンテーションの中にはそれぞれの活動に直接繋げられる方法もあがっていたのではないかと思います。

 

“すべてはコミュニケーションではないでしょうか。”広がるコミュニケーション、コミュニティについて

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笠原希さんは、最初に皆さんから出た課題や質問内容を取り込みながら、対話形式でお話しを進めていきました。お相手は、わたし鳥井です。
まずは、「集団性や関係性について」、「アーティストと制作の関係性について」をとりあげました。「稽古など作品創作の場に立ち合うことについて、制作の役割としてどのようなスタンスをとりたいか」から「どういった角度から作品やアーティストを見守っているか」という話題は、次第に「コミュニケーション」というキーワードによって広がっていきます。

 

「コミュニケーション」「つながる」ということは、制作という役割にとって、コネクション(人脈)を広げる時だけでなく、どんなシーンにおいても「使える」スキルだと思います。例えば、広報・宣伝に際して、一発信者である私たち個人や団体は、また別の発信者たりうる個人と、どのように関わっていけばいいのか。こういう局面で、コミュニケーションのスキルが試されるのです。さらに重要なのは、「コミュニケーション」「つながる」に対して、より広がりのあるイメージを持ち、勇気を持って実践していくことです。

 

笠原さんが、私のような若手の同業者からも“とても楽しそうにしている”ように見えるのは、「コミュニケーション」を広げていくことに日々関心を持ち、のびのびと実践しているからだと思いました。

 

今回のオープンサロンでは、プレゼンテーションによって、舞台制作者の役割を客観的に見て考えることが出来ました。藤原さんが数年の時間をかけて制作者という職種と向きあってきた分析のように、一人一人の制作者が自分なりに時間をかけて向き合ってきたものを広く共有することは、とても有意義なことだと思います。
また笠原さんのお話は非常に実践的でした。笠原さんはいつもモチベーションを高く持っており、その精神が仕事に表れているからこそ、周囲の人々の気持ちを動かしているのだと思います。

制作者の働きを考えるときは、一般論のようなものに凝り固まるのではなく、その仕事が多様であることをより理解していくと、私たちの未来はより明るくなると思います。また多様であることを理解し合える環境を作り、はぐくんでいくことで、制作に関する様々な問題が解決に向かうのだと考えています。

2015年04月23日 講義・セミナーレポート