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【サロンレポート】関係から生まれるもの―「ままごと」の小豆島滞在記―(13/12/26開催)

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昨年12月26日、舞台制作塾では二回目のオープンサロンを開催しました。
今回のサロンのメインテーマは、「関係から生まれるもの―『ままごと』の小豆島滞在記―」。今期レギュラー講座でディレクターを務める宮永琢生さんによる劇団「ままごと」の香川県小豆島での活動についてのお話、そして、編集者・フリーランサーの藤原ちからさんから見た「ままごと」の活動と、彼らの活動を記録することついてのお話を軸に、計17人で行いました。写真のとおり、円卓3つをぎゅうぎゅうに囲んでのサロンです。

 

劇団で何がしたいのかを探すために小豆島へ
「ままごと」の未来と音楽劇『ファンファーレ』で感じた違和感

近年、ままごとは東京から離れて活動することが増えました。その理由は、東京での活動の中で劇団の未来を想像出来なくなってきていたことと、主宰の柴幸男さんが故郷の愛知県で「東京にいなくても、クオリティの変わらない作品が作れる」という自信をつけたことであると、宮永さんは制作塾のインタビューで触れていました。

 

昨年「瀬戸内国際芸術祭2013(以下、瀬戸芸)」に参加し、小豆島で長期滞在制作をするに至った大きな要素の一つには、柴さんが脚本・演出を務めた音楽劇『ファンファーレ』(2012年)があるといいます。この作品は、世田谷パブリックシアター、三重県文化会館、高知県立美術館、水戸芸術館の4館による共同制作。公共ホールとの新しい連携の仕方として、当時大きな話題を呼びました。けれど『ファンファーレ』以降、彼らの中には、このように劇場作品を中心に創作していく活動に対する違和感が残っていたそうです。

 

2013年は、夏にあいちトリエンナーレへの参加が決まっていたため、春、夏、秋と会期のある瀬戸芸への参加は、スケジュール的に厳しいものでした。しかも、島までの交通費が高いので、一度行ったら長期滞在せざるをえません。けれど彼らは上述の理由から、2013年に「ままごとの未来」を探す旅をする事を決めていました。そして、「ここには、ままごとが求めている時間が流れている」という柴さんの直観が決め手となり、小豆島での滞在制作がはじまりました。

 

ままごとが小豆島で行った『港の劇場』
作品を作る場所、人と人が行きかう場所

小豆島には、十分な設備を持った劇場施設がありません。そのため、演劇というもの自体がよく知られていないようです。そして、地元の人々に「演劇を見せてください」と言われても、劇作家・演出家、俳優、プロデューサーがそれぞれ単独でいるだけでは、「俳優がいないので……」、「台本がないと何も……」、「作品は作っていないので……」といった具合に、自分たちが一人では「演劇」を体現出来ないということに、彼らは大きな衝撃を受けたといいます。また、劇場という空間でしか自分たちの「演劇」は通用しないという事も同時に痛感したようです。

 

この時、小豆島には、瀬戸芸への参加アーティスト、瀬戸芸の来場客、そして地元住民の三種類の人がいました。彼らはこの島で生活していく中で、ここではその三種類の人々の相互関係の上に作品が成り立っている(例えば、「参加したアーティスト(建築家)が建てた作品(建物)で、瀬戸芸の来場客を、地元住民が小豆島の特産品で迎える」というような相互関係)ことに気が付きました。これらの気付きを活かしてままごとが行ったのが、『港の劇場』という活動です。ままごとのWEBサイトには、『港の劇場』のコンセプトとして、こう書いてあります。

 

「劇場」とは作品を上演するだけの場所ではなく、作品をつくる場所でもあります。また「劇場」は人と人が行き交う場所でもあります。そんな「劇場」を、一年かけて坂手港につくる。また港全体を「劇場」にする。それが『港の劇場』です。

 

『港の劇場』では、柴さんはもちろん、俳優も、宮永さんもそれぞれに作品を作って発表しています。具体的には、春期には「おさんぽ演劇」、夏期には『日本の大人』の合宿稽古と上演、秋期には「おさんぽ演劇」の再演、「島めぐりライブ」、「道ばたダンス」、「紙しばい」です。この辺りの活動については、ままごとTumblr『港の記憶』で詳しく紹介されていますので、ご覧になってみてください。

 

外部の人間が町の物語を語ること
フィクションが「島の誰かの物語」として受け入れられていくこと

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「演劇屋」として毎日観客を連れて散歩をしながら町の物語を上演する「おさんぽ演劇」は、外部の人間が突然やってきてその町の人を演じ、町の物語を語るということでもありました。これは本来とても難しい作業で、受け入れられない可能性もあったことだと思います。結果として、地元の人々に受け入れられ成功を収めたのですが、宮永さん自身は春期が終わった時点では「どう受け入れられているのか不安だった」と言っています。

 

これについて藤原ちからさんは、柴幸男は劇作家として熟成された力でこのハードルを乗り越えたのだと言っています。柴さんはこれまで『わが星』等の作品で普遍的な物事を書く能力が評価されてきましたが、「具体的な物語を書きたい」という意欲も持っていました。おさんぽ演劇『赤い灯台、赤い初恋』は、島でかつて生きていた(今は死んでいる)主人公の初恋物語ですが、このフィクションが「この島の誰かの物語」として受け入れられていったことは、「具体的な物語を書きたい」という意欲の一つの結実であり、さらには、ままごとのメンバーが「演劇」を柔軟に使い、島の人たちと一緒に楽しむことで、時間をかけて関係をつくっていったことも大きいだろうとのことです。

 

「おさんぽ演劇」や「島めぐりライブ」は小豆島町の町長さんに大変気に入ってもらうことができたそうで、町長さんのブログでもままごとの活動が紹介されています。また、「ままごとの新聞」第8号では、瀬戸芸でままごとが活動した地区を担当された役場職員の方の寄稿を読むことができます。

 

動員数では計れない作品の価値を、どう残し、評価してもらうか

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アートのプロデュースに携わっているサロン参加者から、「芸術祭の運営側の人々は、ままごとの活動をどのように見ていたのか?」という質問が上がりました。確かに、ままごとはのびのびと創作活動を行い、それによって地元住民や来場者と関係を作ってきました。けれど、その活動がどんなにいいものでも、その良さを外部の人に知らせることができないと、認めてもらうことや、必要としてもらうことは難しくなります。

 

とても分かりやすい評価基準に「動員数」というものがあります。『港の劇場』は散歩をすることで演劇が立ち上がってくるものや、行く先々で出会った人々に踊りを踊ったり、歌を歌ったりするものだったので、動員数を正確に把握することはできませんし、それを評価基準に採用することはふさわしくないように思います。けれど、参加するイベント主催者等によっては、現場から離れた場所で運営に携わっている人々から動員数や売り上げを求められることもあるでしょう。

 

藤原さんは、「直観だが、価値判断の指標が変わる時期にきていると思う」と話をしています。そして、批評やジャーナリズム等、文字にして記録・伝播していくことは、その指標として使えるのではないかといいます。藤原さんは、ままごとの小豆島での活動だけでなく、昨年ままごとが象の鼻テラスで行っていたプロジェクトも継続的に取材しており、12月の『象はすべてを忘れない』についての象の鼻ジャーナルへの寄稿や、MAGCUL.NETでの柴さんとのインタビューなどを行っていました。ままごとは東京を離れることが多くなってから、小劇場のシーンで大きな話題になることが減ってきていましたが、こうして他地域での活動を言葉にしていくことは、ままごとや柴さんの活動にとって大きな意味があります。

 

また、質問者からは「価値が多様化しているから、いろいろな人の言葉を拾いあげる必要がある。そのためには、作品や活動にどんな成果があったのかを残していくことは、制作者が配慮していかなければならないこと」だという意見が出ました。たとえば、映像記録のチームをアートプロジェクトに参加させている事例があるそうです。

 

このほか、戦争体験者へのインタビューを映像でアーカイブする事例なども参考として話題に上がりました。公演アンケートは小劇場に定着しているなじみ深い方法ですが、書くことは意外と難しいことなのかもしれないという意見も出ました。

 

近年、東京で活動することの閉塞感もあって、東京以外の場所での活動に注目が集まっています。とはいえ、どんな場所でもそれぞれにいろいろな事情を抱えているものです。そこで活動することの意義を見出して、その地域に住む人々とどう関係していくか、関係する人々にどう説明していくかということは、アーティストや制作者が考えていかなければいけないことなのだということが、よく分かった会になったと思います。

 

TPAMエクスチェンジ グループ・ミーティング
「これから必要となる舞台制作者の人材育成プログラムとは、どのようなものか?」

次回は、国際舞台芸術ミーティングin横浜(TPAM)でミーティングを開催します。亀戸から離れての出張サロンです。TPAMにご参加される方は、ぜひお立ち寄りください。
日時:2月14日(土) 12:50–13:20 場所:BankART Studio NYK 2F
(参加にはTPAM参加登録が必要です) ※終了しました

2014年02月03日 講義・セミナーレポート