Next舞台制作塾

「地域とは何か」を考える旅――地域協働委員会@仙台に参加しました

8/23(金)、24(土)の2日間、舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)の第2回地域協働委員会@仙台に参加しました。

 

今回の委員会のキーワードは、「地域とは何か」

南三陸町のアートプロジェクト「福幸きりこプロジェクト」を視察するスタディツアーと、仙台周辺で行われている復興支援事業や、アウトリーチ活動の事例紹介を経て、「地域とは何か」を掘り下げるディスカッションを行いました。ここでは、事例紹介の中に登場した「地域」に関する話の中で、興味深いと思ったものを取り上げたいと思います。

※「福幸きりこプロジェクト」については、詳しいページがありますので、そちらをご参照ください。掲載されている映像を見ると、現地の空気を少しでも感じられると思いますので、おすすめです。

 

顔が見える、足で通える、帰ってこられる

さて、突然ですが、地域とは、どういう範囲を指すのでしょうか。「せんだい演劇工房 10-BOX」二代目工房長・八巻寿文さんは、地域とは「顔が見える、足で通える、帰ってこられる」範囲だと言います。

 

10-BOXは演劇の稽古場施設として作られた施設ですが、演劇と社会との間に橋を架け、社会に貢献する演劇の活動に力を入れています。例えば、学校などがそれぞれ抱える課題を解決するためのオーダーメイドのワークショップ。隣接する重度知的障害施設では、週一回の演劇交流会を行っています。また、開館当初から、石巻市の雄勝法印神楽に取り組んでおり、東日本大震災の後は、津波の被害を受けて流されてしまった組み立て式神楽舞台の作成にも関わっています。

 

「顔が見える、足で通える、帰ってこられる」範囲というのは、震災以前から地域にまみれるように活動をしてきた実感のこもった言葉だと思います。

 

「同じ空が見えて、同じ空気を感じられる場所」という広い範囲、「地域福祉」という狭い範囲

老人福祉施設「花いちもんめ」施設長の千葉信さんは、「震災の前後で地域という言葉の感覚が変わった」と話しています。花いちもんめは、震災後、アートリバイバルコネクション東北(ARC>T)からのアーティスト派遣を受け、震災で失われた笑いや楽しみを取り戻すプログラム「レクリエーションの時間」を協働して継続的に行ってきました。

 

震災前、千葉さんは「地域=施設の近辺」と考えていました。しかし、震災ではこれまで住んでいた場所に関係なく、人々は散り散りになって避難しました。遠方の親戚などを頼って、他県などに避難した人も数多くいます。そんな状況の中、倉庫スペースを改修して臨時に創った有料老人ホームに、元々は施設から遠く離れた場所に住んでいた人々から、入所希望が集まってきたそうです。理由は、「同じ空が見えて、同じ空気を感じられる場所に帰りたいから」。これは、震災前よりも地域をずっと広いものと捉える感覚です。

 

一方で、真逆の感覚もあります。「福祉」の「福」「祉」という字は、両方とも「幸せになる」という意味の字です。千葉さんは、「相手を幸せにすることで、自分も幸せになることの地道な作業の積み重ね」が地域福祉だと語っています。地域福祉とは、「それぞれの地域において人々が安心して暮らせるよう、地域住民や社会福祉関係者がお互いに協力して地域社会の福祉課題の解決に取り組む考え方」のことですが、「相手を幸せにする、自分も幸せになる」ということは、地域福祉の最小単位であると言えます。「同じ空、同じ空気」という広い地域の感覚に比べると、とても狭い範囲のことです。

 

劇場法の目指す「共生社会」

「地勢上の地域、文化圏、経済圏、個人の行動範囲など、色々な考え方ができる」そう言うのは、「えずこホール(仙南芸術文化センター)」の水戸雅彦さんです。10-BOXと同じように、震災以前から盛んにアウトリーチ活動を行ってきたえずこホールは、年間100以上もの演劇や音楽のアウトリーチ活動を行っています。内容は、それぞれの環境・状況に応じたカスタムプログラムです。

 

水戸さんは、昨年施行された「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(劇場法)」について、劇場や音楽堂の事業について定めた第三条の八項にある「地域社会の絆の維持及び強化を図るとともに、共生社会の実現に資するための事業を行うこと」という文章に感銘を受けたと言います。

 

共生社会とは、「国民一人ひとりが豊かな人間性を育み生きる力を身に付けていくとともに、国民皆で子どもや若者を育成・支援し、年齢や障害の有無等にかかわりなく安全に安心して暮らせる」社会のことです。「一人ひとりが安心して暮らせるように協働する」という点は先の地域福祉と共通しますが、福祉の問題のみに限定していない、より広い意味のある言葉だと思います。

 

地域とは、そこにいる人や、集まる人を強く意識した言葉であるように思います。この2日間で、「顔を出す」「足繁く通う」といった言葉が繰り返し使われていました。この言葉を使う人の話からは、何度もその場所へ行って地域の課題を知る必要がある、その場所の人々に安心してもらう必要がある、そうすることで初めて人々と一緒に何かに取り組むことができるという実感や、場所に赴くのではなく人に会いに行くのだという明確な意思が、色濃く感じられます。

 

地域との関わり方が変わり、キャッチコピーが変化した

最後に、地域との関わり方について、印象的だったエピソードをご紹介したいと思います。仙台の街なか演劇祭「杜の都演劇祭プロジェクト」は、2008年にスタートしました。当初のキャッチコピーは「まちにいどむ、ことばをはなつ、ひとをつなぐ」。しかし、2010年からは「ことばをはなつ、ひとをつなぐ、まちをつつむ」に変わっています。理由は、地域とプロジェクトとの関わり方に変化があったからです。

 

制作を務める遠藤瑞知さんは、「お店の人にも演劇祭に参加しているという意識、もっと大きくなっていこうという意識が生まれた」ことが、「いどむ」から、「つつむ」に変わった理由だと語ります。また、観客とスタッフの交流も、自然に生まれてきているそうです。

 

杜の都演劇祭は、仙台の街の中にある複数の飲食店で、リーディングを中心とした上演を行うフェスティバルです。公演に関わるものは事務局で手作りし、この街ならではの感覚を大事にしています。また、チケット代+飲食代のセット価格ながらリーズナブルな金額に設定するなど、お店にとっても観客にとっても参加しやすい方法を取っています。

 
 

仙台は被災地であるため復興支援事業を具体例に扱うことが多かったのですが、福祉や共生は、あらゆる地域の課題でもあります。この旅で知ったことを考える材料に、これからも地域に注目していきたいと思います。(斉木)

2013年09月25日 スタディノート