制作ニュース

TPAMディスカッション 「制作者のスキルとは何か、報酬は何に対して発生するのか」レポート

12.02/16

2012年2月18日(土)に、ヨコハマ創造都市センター(YCC)3Fにて行われた、ディスカッション『制作者のスキルとは何か、報酬は何に対して発生するのか』に参加しました。

TPAMとNextは、以前にも「舞台芸術制作者が求めるネットワーク」を開催したことがあり、合同企画は今回で2回目になります。

朝10時という早い時間にも関わらず、たくさんの人が集まり、その1/4くらいは海外の方でした。さすがTPAM!最初に、参加者のみなさんにどんな仕事をされているかのアンケートがありましたが、民間劇場所属、公共劇場所属、小劇場制作、商業演劇制作、中間支援(Nextもここに入ります)、助成財団所属、さらには舞台関係以外の方も…。多様な意見が飛び交うことを期待できる顔ぶれです。

まずは、問題提起からスタート。


~舞台芸術団体における、いわゆる座付き制作者の構造的問題~

・主に小劇場における状況として、チケット価格を極力抑えなければならない事情から、構造的に総売上が少なくなる小劇場カンパニーの座付き(専属)制作という仕事だけでは生計を立てられない。かなりの頻度で他団体のフロントスタッフや制作統括業務を行い、報酬を得ている。そのため、プロデューサースキルを獲得する時間がない。無休で、責任とリスクだけが圧しかかってくる。

・小さな劇場公演でのチケット販売収入だけでは制作者の生活費まで賄えない。その解決方法として、チケット価格を上げる、動員を増やす、助成金を得るということがあげられる。
しかし、日本では少子化、高齢化が進み、総人口も減少。小劇場では主に若年層の支持を得て発展してきたため、これまでのように動員を増やすことが難しくなる。
税収も落ち込み、経済成長も低成長が予測され、今後は国からの助成金、文化予算も期待できない。
さらに、嗜好性の多様化も進んでいるため、以前のように大劇場に進出して一公演に1万人を越える観客を動員出来るカンパニーは出にくいのではないか、と考えられる。

・座付き制作はもちろんのこと、フリーランスで生計を立てることも難しくなっている。職業として成り立たせるため、報酬獲得のパイを増やさなければならないのではないか?

これに対し、話し合うテーマは、
『現在、制作者が持っているスキルとは何か。そして、新たに報酬になるスキルとは何か。』

※制作を始めるのに小劇場からスタートすることが多ため、小劇場の現状を中心に話は進んでいきます。また、アメリカの方から、“制作者の定義”とは何かという質問があり、今回はプロデューサー、カンパニーマネージャーに焦点を当てている、と、モデレーターの回答がありました。


~日本の制作者の現状~

【民間劇場(小劇場)の職員】「様々なカンパニーを見てきて、経済的に成立している小劇場の制作はゼロですね。みんなバイトをしながら制作している。運営や、チケット収入、企業からの支援金で純粋に生計をたてている人は、まあ何をもって純粋とするかということはありますが…年間500劇団つきあっていますが、いません。」

【アーティスト/制作】「まず、“制作者が稼いでいける”、という前提が成り立たないと思っています。そこを議論するより、どうやったら楽しくできるか、を話し合いたいです。“報酬とは何か”をもっと考えたい。」

【劇場/プロダクション制作】「劇団の中にいろいろな部門がありまして、公演は赤字ですが、プロダクションのマネージメントや劇場運営で収入を得ています。タレントとマネージャーからはじまっているので、公演活動は重視していません。」

【フリーランスの制作】「年収の半分強が、演劇の現場でいただく報酬です。残りはアルバイト。カンパニーさんによって報酬が変わるので、1~2か月バイトをしなくても良い月もあります。自分がプロデュースする公演の時は、予算組みも融通がきくので、自分の食いぶちを稼げますね。運営スキルを報酬に変えています。」

公演収入からどの程度の報酬を得るかについて、考え方の違いが見られました。しかし、公演収入のみで制作者が生計を立てることは難しい、ということは疑いようがないようです。それでは、それ以外に制作者が報酬を得る方法にはどんなものがあるのでしょうか?


~公共劇場という選択肢~

東京の公共劇場の副館長より、発言がありました。

「今、全国には公共劇場がたくさんあります。全部で2000はある。しかし、それを上手く活用できていないため、作ってしまった劇場をどうするか、ということが問題になっています。なのに、働いている職員の中に舞台業界に精通している人は少ない。そこで、小劇場の人々が公共劇場に入っていくと良いと思うんです。劇場を使って、どう社会と関わっていくか、劇場が社会の人々にとって必要だということを説明する。そのスキルがあれば、就職先として十分考えられます。」

常にアーティストと関わりを持ち、企画を考え、外に発信している制作者なら、これは可能なのではないでしょうか!

神奈川県の文化担当の方からもお話を伺うことが出来ました。
「結論としてはその通りですね。現在、指定管理者制度で運営しており、そこにいろいろな仕事をお願いしています。いろんな人の知恵をあつめて盛り上げていくことは重要です。」

副館長「アーティストと行政担当者とでは考え方に大きなギャップがあるものですが、これまでのやり方をなぞっているだけでは社会は成り立たなくなっています。だからこそ制作者の持っているスキルが役に立つ。例えば、地域の子どもたちを集めて何かをするなど、地域の人にとってプラスになることなら公共事業として成り立ちます。劇場に来て、作品をみることによって何が変わるのか説明が出来れば。」

また、新しく出来る公共劇場について、小劇場制作者からの意見も。
「今の話を聞いて希望を感じました。土壌を育てる、演劇的教育が必要なのではないでしょうか。横浜市は新しいものが好きで、ハコだけ作ってあとはご自由に、ということが多い気がします。例えば、神奈川芸術劇場(以下、KAATと表記)が出来て、それは演劇関係者やファンにとっては良いことですが、地域の人たちとの繋がりについてはどうなんでしょうか?」

この意見は、そのまま質問として、神奈川県の公共劇場の支配人へ向けられました。
「私が運営している劇場にはいくつかの空間があるので、いろんな可能性を考えています。納税者のほんの一部しか観に来ない状況の中、来ていない人にどうアプローチしていくか…。劇場が空いているときに、舞台芸術以外の活動で使用してもらうなどの可能性もあると考えています。逆に質問ですが、海外の状況が知りたいです。海外では、制作者はどのくらいの比率で食べていけていますか?」


~海外の現状と成功モデル~

■中間支援団体ディレクター(アメリカ)
「公演は基本的に赤字で、利益は出せません。財団や個人からの援助と、少しだけ公共からお金が出ます。プロデューサーは全部民間。アーティストは他の仕事をしないと成り立ちません。アーティストに給料を払うために、なんとかしてお金を集めています。」

「演劇のほか、音楽やダンスも担当していますが、制作で報酬が得られないというのは、お天気の文句を言っているようなもので、もともと成り立たないのが当然だと思います。みなさんそれを分かっていて始められたのでは?自分たちで、お金をとってくるんです。私は申請書を書くことを専門的な仕事にしていて、みんなが頼ってきてくれています。なので、フリンジが栄えてくれないと困りますね。また、先ほどの“劇場と地域の繋がり”お話で気になったことがあるのですが、日中空いているからといって、舞台芸術以外のものに劇場を使わせるべきではないと思います。劇場は、常に劇場として存在するべき。」

■中間支援団体ディレクター(イギリス)

「多くのアーティストが、以前に比べ公的助成を削られています。若手のために、力のある団体がアドバイスをしたり、備品を貸し出したりしています。」

「助成がなければ、成り立ちません。ここ何年かは持ち出しで活動をしつつ、常に政府に対して働きかけています。財政や基盤がないところのために組織をつくって、施設を共有し、お金を賢く使って、アイデンティティを強化、多様化させています。」

「プロデューサーとして、自分は、教育や科学とのつながり、芸術関係以外でのパートナーシップ、ネットワーク作りが大事だと考えています。社会的な視点で制作をしていかないとだめだと思います。キュレーターであれプロデューサーであれ、繋がりが大事です。」

■助成団体職員(メキシコ)
「良いインフラがあって、カンパニーがお金を出して制作者を雇ってくれます。最初は必至で働いて、ある程度のスキルを獲得したら、こちらからそれを転用する選択の余地が出てきます。とにかく頑張っていろいろな関係を作ってやっています。」

■制作者(フランス)
「もともとは公的な支援があってやってきましたが、経済危機がおきたため、状況が変わってきました。まだ有効な経済的モデルがみつかっていません…。今の文化省は、芸術にはお金を出したくないんです。解決策はまだありませんが、イギリスやヨーロッパの他の国々と協力して頑張っていきたい。」

■民間劇場ディレクター(中国)
「北京ではインディペンデントのキュレーターが出てきたばかりで、どうやってコミュニケーションをとっていくのかを考え始めたところ。民間からの支援はなく、唯一政府からの支援がある状態です。ヨーロッパでは予算の削減がありますが、その中でみなさんネットワークを作って、困難を減らしてなんとかやっていますよね。実際に、どのような共同制作をやっているのか気になります。」

■民間劇場ディレクター(インドネシア)
「まず、インフラが整備されていません。文化省はあるのですが、ここ5年は文化観光省といった感じです。アーティストたちは、プロデューサーがいないので自分でいろいろとやっています。公共の場所はただ借りているだけ。社会と芸術のギャップがありますね。何も信じられない状況です。資金の問題はどこにでもありますが、やはり大事なのは関係作りですね。社会の、芸術に対する気持ちを取り戻したいです。」

…他の国も、興行収入だけで食べていけない、というところは変わらないようです。私たちの参考になるような「成功モデル」はないのでしょうか?

■公共劇場支配人(日本)
「制作者が、どこを目指しているのかが重要になってきます。成功モデルをどう考えるのか。単純に経済でいえば、先ほどのお話にあったように公共ホールが2000あるということは、2000の職場があると捉えることもできる。東京一極集中ではない、と考えられるかどうかですね。首都圏だけで小さなパイを取り合っている状況なので。」

■中間支援団体ディレクター(アメリカ)
「アメリカでは、直接アーティストに渡る資金はありません。プレゼンターを通して資金が払われます。何人かのプレゼンターが集まって、ある一定の資金を出し合っています。最初はそれぞれが孤立をしていて、上手く働けなかったけれど、ネットワークが育って政治的な力になりました。時間がかかりましたし、日本で上手くいくかは分かりませんが、ひとつの成功モデルになるかもしれません。」

制作者を英訳するとプレゼンターになります。プレゼンター(=制作者)は、アーティストが実現したいことを把握し、そのために資金を獲得してくる。これが、海外では制作者のスキルとなっています。日本のやり方とは違う、と感じる部分もありますが、本来なら日本の制作者も同様の役割であると言えます。
頻繁に出てくるキーワードは、“ネットワーク”と“資金調達”ですね。


~これからの制作者に求められるスキル~

モデレーター「私の場合、公共劇場の支配人や館長さんと知り合うことができましたが、若手の制作者は誰を交渉の窓口にすればいいのかわからない、と聞いたりします。劇場に対し若手の制作者がプレゼンをする場合、どこが窓口になるのでしょうか。」

この質問には、東京の公共劇場の課長補佐より回答がありました。

「どのように公共劇場とパイプを作っていくかですが、どちらからともきちんと歩み寄る、ということしかないですね。劇場が窓口を広げて、劇団もパイプを作る努力をする。例えば、他の劇場の人が自分のカンパニーの公演を観に来たら、その人に顔を見せてひとことでも言葉を交わす。一歩一歩やるしかないです。以前に比べると、劇場職員の中に元制作者など演劇をやっていた人間が多くなったので、やりやすいとは思います。また、いろんな劇場で公募企画をやっていますので、その担当者にアポをとって積極的に会いに行く。いずれにしろ、積み重ねが大事です。」

モデレーター「私たちが最初に話した「運営スキル」を持つカンパニーの制作が、プロデューサーとして「企画スキル」や「プレゼン・スキル」「ネットワーキング・スキル」など総合的なスキルを持った状態になるにはどんなプロセスが必要でしょうか?」

東京の公共劇場の副館長「まず、アーティストの資質を考えることですね。武道館を満員にしたい人なら、人をどう集めるかのスキルが大事だし、資質がコマーシャル(商業)に特化しているか、教育(公共)に特化しているかで異なってくる。コマーシャルの方にいけば教育から離れることになる。また、そのアーティストとだけ付き合っていくのか、他のアーティストとも付き合っていくのかを見極めることも大事。自分が関わっているアーティストによって、自分の仕事をどう見つけるかです。今、政治家も含めみんなが揺れている時期です。日本で、みんなが芸術にお金を使うことが正しい、という価値観が出来上がると良い。文化政策に携わる人をきちんと説得すれば、この国にパフォーミングアーツが必要で、観客として芸術を観ることが大事、ということが定着するかもしれません。」

モデレーター「総合すると、制作者が今後、必要とされ、かつ報酬に繋がる可能性が高いスキルは、『社会とどのように繋がり、芸術が社会にどう必要なのか』の文脈を作っていくスキルということが導かれてきたかと思います。」

そのほか、次のような興味深いご意見も。

ご意見1
「マスコミの動向も大事だと思います。スポーツはみんな気になるので、大きく取り上げられますが、アートはそうでもない。もっとマスコミに取り上げられる仕掛けを公共劇場も取り組んだ方がいいのではないでしょうか。」

ご意見2
「今回、小劇場から公共劇場への流れが重点的に話し合われましたが、商業や新劇、芸能プロダクションへの流れもあります。私は、小劇場制作をしていて、票券のスキルを求められ、映画関係の仕事もしました。“制作で食べていく”ということだけなら、映画業界もひとつの選択肢かもしれません。企画力を磨くことも大事ですが、企画力を発揮できる場と接点を持っていくことも大事。招待状を出すなど…とにかく顔をつなぐことですね。」

モデレーター「資金が出るからそこに行く、のではなく、自分のやりたいことがどの資金から出来るのか、という発想が大事ですね。必要とされるスキルを自ら具体的に例示すること。どの段階でどのスキルが必要で、どう磨いていくのかを自分でキャリアデザインしていくこと。最初からいきなり大きなスキルを目指し、それが無理で、アーティストにも意見が採用されず、報酬も得られずに辞めていく制作者もいます。」

ここで、モデレーターより、事前にメールでいただいたご意見の紹介が。

モデレーター「事前に頂いていたメールでのご意見がいくつかあるのですが、今回のお話の流れに該当すると思われるご意見を最後に紹介させて下さい。ひとつの可能性として参考になるかもしれません。」

以下、ご意見。
『公共ホールが、若手制作者のオアシスとして非正規でもよいから雇用をする。これは単
純に食いぶちというだけではなくて、制作者自身の視野を広げることにもなりますし、ホールの側としても、間接的にカンパニーを支援していることにもなる。人材交流です。それで、そういう人が、フリーランスで、その公共ホールの企画を立てるような存在に育っていったら双方にとって幸せなことだと思うんですね。』

さまざまな国、立場の人々が参加したディスカッション。
たくさんの意見を聞き、自分の中ですぐには消化できないこともありますが、「制作」の視野が広がり、今後の可能性のヒントを得られた気がします。
参加された皆さんが、何かひとつでも持ち帰れるものがあったなら幸いです。

※文中にて敬称は省略させて頂きました。ご了承ください。

(2012.2.18 レポート:吉澤)


ピックアップ記事

ニュース用未選択
王子小劇場「2024年度支援会員」募集

Next News for Smartphone

ネビュラエンタープライズのメールマガジン
登録はこちらから!

制作ニュース

ニュースをさがす
トップページ
特集を読む
特集ページ
アフタートーク 
レポートTALK 
制作者のスパイス
連載コラム
地域のシテン
公募を探す
公募情報
情報を掲載したい・問合せ
制作ニュースへの問合せ


チラシ宅配サービス「おちらしさん」お申し込み受付中